ドイツからのフラメンコ便り|シティオの眼

ドイツからのフラメンコ便りデュッセルドルフのフェスティバル・レポート

文 マルティン・千恵
写真 ペーター・マルティン

ドイツのフラメンコ

はじめまして。私が暮らすドイツもフラメンコは盛んですよ~。

えっ、ドイツ!? と驚かれる方へ、ドイツのフラメンコについて。
現在、フラメンコ雑誌¡anda!に登録されているだけでも、フラメンコを学べる場所は全国で130もあります。
ドイツ人を魅了したのは1960年後半、バルセロナ出身のヒターナ、ラ・シングラ。パコ・デ・ルシアやカマロン、レブリハノ、セペロ、マリア・バルガスで結成された豪華メンバーの公演です。
外国人労働者の存在も忘れてはいけません。アンダルシア出身者もいました。今でも各地にスペイン・コミュニティーがあります。

そして1970年代以降、コルドバのコンクール決勝進出、セビーリャのタブラオ「ロス・ガジョス」出演、いづれも最初の外国人バイラオーラはドイツ人でした。現在、一番の注目株はラファエル・コルテスRafael Cortés。ドイツ・エッセン生まれのギタリストで、パコと共演したことも。移民であった祖父はグラナダのジプシーで、ラファエルはフラメンコを身近に感じて育ちました。

ということで、今回は、毎年イースター期間中に開催される、デュッセルドルフ(日系企業が多いドイツ西部、NRW州都)のフェスティバルをご紹介します。

様々なタイプの作品を上演

会場: tanzhaus
会場: tanzhaus
本フェスティバルは4月7日から合計8日間。主催者のタンツハウスtanzhaus nrwは、現代舞踊に力を入れているため、革新的な解釈で舞踊展開を目指すアーティストには有難いチャンス。

初日を飾ったのは、スペイン舞踊家のダニエル・ドニャ。マヌエル・リニャン等との共演でもお馴染みです。

公演名Hábitat: Daniel Doña
公演名Hábitat: Daniel Doña
新作「Hábitat」は、バレエが得意なクリスティアン・マルティンとの80分に渡るパフォーマンス。サパテアードは入らず。
でもファンダンゴなど全体の流れを壊さないようにフラメンコを挿入。
カンテはダビ・バスケスでタンバリンとアコーディオン奏者が共演。今後もダニエルは「心のおもむくまま」に作品作りをしていきたいそうです。

公演名Pastora baila: Pastora Galván
公演名Pastora baila: Pastora Galván
その翌日は、パストラ・ガルバンの「Pastora baila」。自分の気に入ったものをコラージュしたとのこと。
体の使い方にマヌエラ・カラスコとカルメン・レデスマが見え隠れする感じ。
クライマックスは、大人気のマリアナ。トリアナのオバちゃん。
ペタンコの靴を投げ捨て、膝下ストッキングで踊る姿には、客席のスペイン人からハレオが。
カンテは太い声のエル・ガジと甘い声のヘスス・コルバチョ。
ギターはエル・ペルラ。会場の雰囲気がセビーリャに変わった夜でした。

公演名En mis cabales: José Galán
公演名En mis cabales: José Galán
特に教育に関わる人にも見てもらいたかった作品が、ホセ・ガランの「En mis cabales」。
足が不自由だったエル・コホや盲目のニーニャ・デ・ラ・プエブラ達に捧げるオマージュ作品です。
ホセはセビーリャ大学で教員免状を取得しており、身体・知能障害者とのフラメンコ融合が博士課程の専門テーマ。ダウン症の二人が参加。
愛嬌たっぷりにガロティンを躍ったレジェス・ベルガラは生まれつきのフラメンカ。裸足でコンテンポラリーを自由に踊りきったのはヘリオット・バエサ。
ホセは障害者の各人の個性を引き出しました。バネサ・アイバルのグァヒーラも秀逸。カンテにはインマ・ラ・カルボネラとフアン・デ・マイレナ。
ギターはハビエル・ゴメスが担当。ぜひ、世界各国で上演してもらいたい感動作品です。

公演名Al baile: Juan Carlos Lérida
公演名Al baile: Juan Carlos Lérida
ドイツ西部デュッセルドルフのフェスティバルでは、フラメンコから随分と逸脱した前衛的な作品も上演されます。
ベレン・マジャやオルガ・ペリセに振付けをし、「En mis cabales」でも振付協力をしたフアン・カルロス・レリダがそう。
彼の作品「Al baile」ではコンテンポラリー・ダンサー二人が共演。鮮やかなピンクのスーツで肉をイメージ。
最後には上半身裸になり、肉体に噛みつきながら「ペジスコ」と連呼。サパテアードもフラメンコ音楽も一切無し。
理解困難です。好みの問題?

公演名Catedral: Patricia Guerrero
公演名Catedral: Patricia Guerrero
つづく公演はパトリシア・ゲレーロの「Catedral」とエル・チョロの「Aviso: Bayles de Jitanos」。
いづれも二夜連続の公演。他のフェスティバルで上演されているのですでに見た方も多いのでは? 「Catedral」は、2016年ビエナルのヒラルディージョ賞、「Aviso...」は同年へレスの新人賞を受賞。

「Catedral」はバロック時代の女性への抑圧がテーマ。アマチュア(‼︎)で20歳の双子、ペレス兄弟(テノールとカウンターテノール)が修道士役でグレゴリア聖歌を、ホセ・アンヘル・カルモナがロマンセ、シギリージャ、タンゴを朗々と歌い上げます。
ギターはフアン・レケナ。
照明は暗く、ステンドグラスから差し込む光を演出。
主役のパトリシアは、高い身体能力で最後までパワー全開。当時の姿の衣装を重ね着し、その衣装さえも小道具に。ラストは髪をほどき、肌を露出するドレス。抑圧や自己葛藤を経て、解放感と自由を表現します。
修道女を演ずる三人は友情と裏切りを表現。全員がルベン・オルモ監督の元で共演したせいか、群舞の美しさは際立っていました。
鑑賞後、観客は総立ちで大絶賛です。

公演名Aviso: Bayles de Jitanos: El Choro
公演名Aviso: Bayles de Jitanos: El Choro
エル・チョロの「Aviso...」はラファエル・エステベが監修。
17世紀から現代までの変遷を知らぬ間に体験することに。
へレスの25歳のバイラオーラ、ヘマ・モネオが重いシギリージャから一転、アラブ風の音楽に合わせて情熱的なサンブラ。主役のチョロはパワフルな踊り。
ギターはヘスス・ゲレロとマヌエル・デ・ラ・ルス。
ヘスス・コルバチョもギターを自ら演奏し、カンティーニャを唄います。ぺぺ・デ・プーラの熱唱トナー、渋い声のモイ・デ・モロンも参加。
全体を通して音楽が途切れません。最後までハイ・テンションの80分間。見る側も疲れた〜。

対話コーナーやクルシージョも開講

各公演の終了後に、アーティストと観客の対話コーナーが設けられています。 討論好きのドイツ人にもってこい。逆に観客が質問を受けたり。フラメンコジャーナリストのズザンネ・ツェーリンガーSusanne Zellingerが司会・通訳を務めました。

クルシージョ: El Torombo
クルシージョ: El Torombo
クルシージョは全25クラス、19名の講師が担当。
変わったところではスペイン舞踊にモダン系フラメンコ、障害者向けバイレも。フアン・パレデスのブレリアやエル・トロンボによるフラメンコの魂解説。
ハビエル・ラトーレのダンス・プロジェクト(群舞振付)では受講生による発表会もありました。

ドイツではヴィースバーデンなど他都市でもフェスティバルが毎年開かれています。
5月には隣国ルクセンブルク(www.kulturfabrik.lu)で、根強い人気のフェスティバルが開催されます。
ヨーロッパ旅行と組み合わせてはいかがでしょう。


<参考>主催: www.tanzhaus-nrw.de、クルシージョ について

4時間(2日)で70ユーロから。3つ以上10%オフ。公演チケット:35、43ユーロ、クルシージョ受講生20%オフ。

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マルティン・千恵 プロフィール

翻訳家、ドイツのフラメンコ雑誌¡anda!記者。ボン大学留学、在独20年以上。福島県いわき市出身。バイレ・フラメンコを山本将光(Yamaquito)先生に習い、それまでの無趣味人生から脱却。ドイツに移住後は、レギーナ・マルティネスやマリア・デル・マルに師事。日本人中心の愛好家を集めた個人サークル「フラメンコ・ルナーレス」を運営し、地元の州や市のイベントに参加。東日本大震災以後は、福島チャリティー活動に力を入れている。2004年からフラメンコ雑誌「¡anda!」に記事を執筆。
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  5. スイスの地でフラメンコを求めて       特別寄稿 林結花
    フラメンコの香りが色濃いカディスに生まれ、幼少の頃からその非凡な才能を現す。その頃よりフラメンコ界の大御所達、チャノ・ロバト、ファン・ビジャール、マリアーナ・コルネホ、テレモート、ドゥケンデ、ニーニャ・デ・プエブラ達とすでに同じ舞台に立っていた。また、第一線で活躍中の舞踊手の伴唄者としても愛されており、ラファエラ・カラスコ、アンドレス・マリン、ベレン・マジャ、ラファエル・カンパージョ、ファルキート達とスペイン国内だけでなく、世界中で共演している。特に最近のファルキートの公演には必ず彼女の姿がある。数多くの賞も受賞し、2007年に初アルバム、"Barcas de Plata"を発表後はソリストとしても精力的に活躍をしている。