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第20回 ビエナル、ヒラルディージョ受賞で注目のカンタオール、ホセ・アンヘル・"カルモナ" [Vol.20]José Angel "Carmona"

私がフラメンコを始めた頃、若手と言われていたアーティストは、今や中堅〜それ以上のステータスとなっています。フラメンコは時間と共に熟すもの。経験や年齢を重ねることで若い頃には出せなかった味が出せるようになるのですが、その為には確固たるフラメンコとしてのベースが必要。歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんが師匠の守田勘弥さんに言われた言葉「型破りな演技は、型を知らずにはできない
型を知らずにやるのは、型なしというのだ」。

これはまさに今のフラメンコ界にとっても、大切な言葉だと強く感じます。例えば踊りで言うと、イスラエル・ガルバン(Israel Galván)。前衛的なバイレの中にも常にフラメンコを感じられるのは、「型」を身につけているからこそ。彼のドキュメンタリーの中で、バイラオーラ、カルメン・アマジャ(Carmen Amaya)の映像を見ている姿がありました。カルメン・アマジャは、イスラエルの生まれる十年前に他界しています。実際に会うことはできなくとも、フラメンコの歴史を作ってきた先人から学ぶ姿は、フラメンコ本来の「型」に対するレスペクトを持って、今の自分を作り上げている姿勢の表れのように思います。

歌の世界も同様です。実力派若手のカンタオール達のお手本は、自分たちの祖父よりもさらに前の世代の先人達。当然、直接習うことは無理。残された録音を何度も聴いて学んでいます。フラメンコの原点、つまり「型」を身につけることが、プロのフラメンコ歌手としての第一歩なのです。歌の話となると、彼らの口からは往年の巨匠達の名前がぽんぽん飛び出してきます。そして、何十年も前に歌われていた歌詞や節回しが、さらりと出てくるのです。
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カンタオール、ホセ・アンヘル・カルモナ(José Angel "Carmona")。ホアキン・グリロ、ロシオ・モリーナやオルガ・ペリセーらの舞台で何度も聴いていたのに、その姿をあまり意識してみたことがありませんでした。しかし、これは彼が素晴らしいカンタオールだという証拠。歌が踊りを見ることを邪魔しなかったということです。例えば、歌いだした途端「あれ?」と思ってしまったら、踊りを見ることに集中できなくなるのです。

さて、そのカルモナ(と仲間達は呼んでいます)に出会ったのは、マドリードのとあるバル。モデルでもできそうなくらい、ハンサムなルックス。「え!こんな人だったんだ!」と新鮮にびっくり。まさに今どきの若者の風貌と言った感じです。ところが、宴もたけなわ。ひとたびカンテの歌い回しが始まると、何ともいい感じの老け具合で歌い出したのです。即興で次々とレトラ(歌詞)を歌い続けるその実力。フラメンコの地にしっかりと根を張っている正統派フラメンコ歌手、カルモナでした。

今年35歳となったカルモナのキャリアは幅広く、16歳でデビュー後、タンゴやルンバ系の曲でヒットを出し、テレビ出演や映画のサントラなども担当。3年前には、女優ビクトリア・アブリルのコンサートツアーに、踊り手のトロンボ、ロサリオ・トレドらと共に参加していました。しかしその間も、純フラメンコの「型」は育み、守り続けていたのです。「やっとフラメンコのCDが出せる」と言った時に見せた笑顔には、本当に歌いたかったのは"フラメンコ"だったという想いが込もっていたのでしょう。DU3B0003a.jpgそのアルバムは「Por los rincones(ポル・ロス・リンコネス)」。このタイトルは、収録曲のソレア・ポル・ブレリアの一節ですが、それに加えて "隅々から"集めたアイデアを活かして、このアルバムをより良いものにしようとしたことからも来ています。フラメンコ業界の現状では、既存のレーベルからアーティスト自身が本当に歌いたい曲を録音してアルバムとして発表することは難しくなっています。そこで、アーティスト同士が協力し合い、レーベルを立ち上げて録音するというパターンが増えています。このアルバムも、ギタリストのペドロ・シエラ(Pedro Sierra)のレーベル"La voz del Flamenco"から出され、プロデューサーはギタリストのフアン・レケーナ(Juan Requna)。コーラスやパルマには、同世代の親しいアーティスト達が参加し、サパテアードには、いつも舞台で共演しているホアキン・グリロが入っています。制作開始から約3年。先人のマエストロから学んだ伝統的なフラメンコを守りながらも、自分らしい新鮮さを出せるアルバムを目指してじっくりと作り上げながら、自らのカンテにも磨きをかけてきました。
それを祝うかのように、アルバム発表の約一ヶ月後には、ビエナル(セビージャで行なわれたフラメンコフェスティバル)のヒラルディージョ賞をカンテ(伴唱)部門で受賞( el Giraldillo al CANTE DE ACOMPAÑAMIENTO)。カルモナの名前と共に、この新しいアルバムもさらに広く知られるようになりました。頼もしいカンタオールとの出会い。これからも、ますますカンテの魅力にはまりそうです。

さて、今年はスタート以来、ご愛読ありがとうございました。
2013年も引き続き、魅力あるアーティストやスペインの公演をご紹介していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

追伸:CDジャケットの印象よりも骨太なカルモナの歌っている姿は、シングルカットされているタンゴのPV「Casa de Esquina」で視聴できます。

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関連CD情報

「ポル・ロス・リンコネス」ホセ・アンヘル・カルモナ

「ポル・ロス・リンコネス」ホセ・アンヘル・カルモナ

セビージャ近郊ロス・パラシオス出身。大おじは、アントニオ・マイレナやペペ•マルチェナらに弾いたギターのマエストロ、マノロ・カルモナ。 デビューから19年、3枚目のアルバムにして、ようやく自身の希望が叶って“フラメンコ”のアルバムを発表。
販売価格 : 2,730 円(税込)

坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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