前回のフラメンコ・ウォーカーでお伝えしたように、ヘレス・フェスティバルの最終日に「ガルシア・セグン・ロルカ (Garcia Segun Lorca)」をビジャマルタ劇場で公演したバイラオーラ、エバ・ジェルバブエナ(Eva Yerbabuena)。その一週間後には、ロンドンのフラメンコフェスティバルで、最新作の初演が控えていました。(写真左:ロンドンのサドラー・ウェルズ( Sadler's Wells)劇場での公開リハーサルの様子)(写真下:サドラー・ウェルズ劇場エントランス)

AYTEATRO.jpg舞踊団として11作目となる新作のタイトルは「!Ay!(アイ!)」スペイン語の感嘆詞で、喜び、悲しみ、嘆き、痛み、安堵...色んな場面に使われる言葉。エバ自身は、どんな思いを込めてこのタイトルをつけられたのでしょうか?初演を終え、2日目の開演前の時間を縫って、お話を伺うことができました。昨年、二人目の娘さんを出産し、復帰後の第一作のタイトルは「次女が生まれて、最初に言った言葉なのよ。」とのこと。2月から3月にかけて、なんと5公演ものレパートリーを各地で公演しているエバ。"踊ることを"を自分自身の人生のミッションと捉えてから、それに抗うことなく踊り続けてきました。la foto-4.JPG

しかし、18年前の初めての妊娠のときは、その後のキャリアに大きな不安を抱いたと言います。今まで築いてきたもの、そして出産後また復帰できるのか...その恐怖を今回の作品の冒頭で表現していました。音楽はバイオリンの弦を弾く音。黒の衣装でスポットライトに照らされたエバは、彼女特有の言語とも言える動きで不安、畏れ、それをぬぐい去ろうともがく姿を表現。インタビュー前に初演を観た際でも、それは十分に伝わってきました。彼女の踊りは外に向かって訴えかけるというより、彼女自身の小宇宙の中で自分自身や他の誰か、または感情や状況との対話が行なわれているように感じます。人間の奥底にある暗闇を直視し、それに飲み込まれないパワー。きらびやかで華やかなショーの世界ではありませんが、彼女が踊りを通じて発する言語を理解できるようになればなるほど、その魅力やアーティストとしての素晴らしさがさらに伝わってくるのです。エバの言語、これがなかなか難しいので、私もこれからまだ勉強しなくてはなりません。そして今後も引き続き、私のささやかな理解でもお伝えしていきたいと思います。

さて今回の作品。カンテにはエバ公演に欠かせない3人、ヘロモ・セグーラ(Jeromo Segura)、ホセ・バレンシア(Jose Valencia)、エンリケ・エル・エストレメーニョ(Enrique El Extremeno)。ホセ・バレンシアは最初のシーンで、エバのバイレとの絡みがあり、そこではリビアーナ(Liviana-曲種名)を歌いました。伴奏は前述したようにバイオリンの弦の音のみ。ヘレス・フェスティバルから他の踊り手との公演や自身のソロコンサート、さらにエバの別の公演と立て続けにあり、しかも今回の作品のリハーサルはほんの数回という状況で、よくこの"段取り"を覚えていられものだとびっくり。数年前と比べて声も円熟し、踊り手たちの「保険」と言われるアーティストであることに改めて納得しました。カンテのみの場面もあり、ヘロモとエンリケのブレリアの掛け合いでは、比較的おとなしいロンドンの観客の間からも喝采が湧いていました。AYSIGUI1.jpgギターのパコ・ハラーナ(Paco Jarana)は作曲も全て担当。バイオリンはアルカンヘルの最新アルバムの中のファンダンゴ・デ・ウエルバでも演奏しているヴァディミル・ディミトレンコ(Vladimir Dimitrenco)、パーカッションはアントニオ・コロネル(Antonio Coronel)。彼らのチームワークがあってこそ、短い準備期間でもエバの美味しいとこどりの作品を完成させることができたのでしょう。余談ですが、このロンドンの劇場では、飲食物を持って客席についてもいいのです。日本、そしてスペインでもこういう光景は見たことがないので出演者からも驚きの声がありました。(写真右上:シギリージャでの登場シーン)

もうひとつ、今回ご紹介するのは衣装。この作品を通してエバの着ている真っ黒な衣装は、上下に分かれていて、間近で見るとパーツ毎に何枚もの布によって作られているのです。エバの体型を美しく出せるように計算して施されたスカート部の細やかなカーブ。そしてスカートの後ろ、裾にかけて数段のフリルになっているレースはすべて手作業で作られているので、機械織りとは違い柔らかくボリュームのある仕上がりになっています。客席からは直接見えない部分であっても、このデザインと縫製があってこそ、着る者の身体のラインをより美しく際立たせるのです。途中、舞台上で幾つかの衣装パーツをつけて衣装替えするシーンがありました。髪飾り、フリンジ付きの袖飾り、スカートの上につける巻きスカート。黄色地に黒の水玉のこれらのパーツをつけるだけで全く別の衣装のよう。明るく光が射したように変わり、タンゴ・デ・トリアナ(Tango de Triana)を踊りました。エバの衣装を担当しているのはロペス・デ・サントス(Lopez de Santos)というブランドを立ち上げているガブリエル(Gabriel)とマヌエル(Manuel)。今回のツアーにはガブリエルが同行。「フラメンコ衣装は扮装じゃない。踊る人の一部になるものだ。」と言う信念で、一流バイラオーラの支持を得ています。エバの他にアデラ・カンパージョ(Adela Campallo)、マヌエラ・リオス(Manuela Rios)らセビージャの踊り手を中心に支持を集めています。
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(写真左より:袖に付けるパーツを説明するガブリエル/黒の衣装に重ねて付けるスカートの見事なレース/黒の衣装の上部。ストレッチ性のある素材と透けを防ぐデザイン。ベルトの細かい部分まで丁寧に作られています。)

 この舞台上7名のアーティスト達による6幕からなる「!Ay!」の最後は、マントン(大きめのマント)を使ってのシギリージャ(Seguiriya)。マントンを引き摺るようにして後ろ向きで登場し(写真上の場面です)、オーソドックスなフラメンコで最後を締め、2日間にわたっての3公演を大喝采に包まれ終了しました。"アイ!"で始まる人生の様々な場面、晴れの日もあれば悲しい日もあります。その中で沸き起こる心模様をバイレに込めたこの作品。スペインでの初演は4月11日マラガのセルバンテス劇場です。AY_EvaYerbabuenaCIA4c.jpg

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
先行きが見えない...
壁を感じている...