音楽の世界に限らず、コラボレーション企画の多い現代。他ジャンルのアーティスト同士の交流は新たな世界を広げますが、そのためには各界で本当に実力のあるアーティスト同士であることが望ましいと思います。「?風」に表面的にアレンジするのではなく、必然性、目的を見据え、互いに通じる何かを探究する時、本物と本物の対峙。そこから生まれるパワーは、観る者、聴く者に新たな興味やさらなるアフィシオン(愛好心)を湧かせてくれるでしょう。

フラメンコと他ジャンルの交流というと、まずギターでは、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)がアル・ディメオラ(Al Di Meola)、ジョン・マクラフリン(John McLaughlin)と組んだ"スーパーギタートリオ"、トマティート(Tomatito)とピアニストのミシェル・カミロ(Michel Camilo)の『スペイン』『スペイン・アゲイン』など、ジャズミュージシャンとのセッションが多いようです。バイレは、イスラム系が取り入れられることが多く、映画『ベンゴ(Vengo)』『ヴェルティージュ(Vertige)』ではスーフィーの回旋舞踊、昨年9月のビエナルでファルーコ・ファミリーが北インドのカタック舞踊と共演しました。イスラエル・ガルバン(Israle Galvan)のように、日本の舞踏にインスピレーションを感じる踊り手もいます。カンテでは、エンリケ・モレンテ(Enrique Morente)がグラナダのグループ、ラガルティハ・ニック(Lagartija Nick)やレナード・コーエン(Leonard Cohen)らロックミュージシャンとコラボレーションしました。

さて、ここ最近、新しく出てきた動きが「フラメンコ × バロック」。スペインはバロック音楽(古楽)も盛んで、多くのグループが活躍しており、古楽器ヴィオラ・ダ・ガンバはスペイン生まれの弦楽器なのです。
image__evayerbabuena_3461660639258552791.jpg今年4月、フラメンコとバロック音楽とのコラボレーションによる作品が、バイラオーラのエバ・ジェルバブエナ(Eva Yerbabuena)とセビージャ・バロックオーケストラの共演で、セビージャの元修道院"エスパシオ・サンタ・クララ(Espacio Santa Clara)"で公演されました。これは、中世にセビージャで宗教画を描いて活躍した画家、フランシスコ・デ・スルバラン展に先がけて行なわれたイベントで、スルバランの描いた聖女達をモチーフにした内容。拷問を受けてもキリスト教への信仰を捨てず、奇跡を起こした19人の聖女達。その中で、エバはモーロ王の娘でありながらキリスト教に改宗し、キリスト教徒の囚人を助けた為に殉教した聖カシルダを舞いました。プロモーションビデオには、自らを聖カシルダに重ね合わせて語り始めると、涙で声をつまらせる姿が。また、エバの纏う衣装に施された薔薇は、聖カシルダにまつわる奇跡を表したもの。ドレスの前掛けにパンを隠してキリスト教の囚人に運んでいたのが見つかった時、パンが薔薇の花に姿を変えたことで難を逃れたと言われています。聖女達の美しさと残酷な運命を表現したエバは、このフラメンコにバロックを取り入れた今回の試みを『アンダルシア、そしてスペインの文化の豊かさを再認識させてくれた素晴らしいプロジェクト』と会見で語りました。

スルバランの作品は、プラド美術館はもちろん、ルーブル、ボストンなど世界的に有名な美術館で展示されています。彼が活躍したのは大航海時代真っ只中の16世紀。セビージャが新大陸との交易で栄え、文化的にもバロック芸術の拠点となる礎を作った時期です。フラメンコ史から見ると、15世紀から16世紀にかけてスペイン各地でヒターノの定住が進んだこともあって、アンダルシアの土地でフラメンコが形作られてきた時期です。

 フラメンコの曲種のひとつの分類に「カンテス・デ・イダ・イ・ブエルタ(Cantes de ida y vuelta)」があります。「Ida y vuelta」は「往復」という意味。つまりこの場合スペインと新大陸の間を行って帰ってきたものです。大航海時代、スペイン人が、アメリカ、南米大陸、カリブ諸島を旅したことによって、それらの地の音楽に影響を受けて作られた曲です。例えばキューバの影響を受けた「グアヒーラス(Guajiras)」(濱田吾愛氏が「カンテ指南 グアヒーラ1」グアヒーラ2」にて取り上げておられます)、コロンビアの「コロンビアーナス(Colombianas)」、アルゼンチンの「ヴィダリタ(Vidalita)」など。

391308_269926116382489_1049808080_n.jpg大航海時代には、政治的、経済的、そして文化的にもスペインは大きな変化と発展を遂げました。元々スペインにあったバロック音楽、そして生まれかけていたフラメンコも、この時代の洗礼を受け、その後それぞれの道を確立していったのです。その歴史をひも解いてお互いが対話をしたらどうなるか!?それを実現したのが、カンタオール、アルカンヘル(Arcangel)とバロック界注目のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ファミ・アルカイ(Fahmi Alqhai)率いるセビージャを拠点に活躍するスペインバロックのグループ、アカデミア・デ・ピアチェーレ(Accademia de Piacere)のプロジェクト「ラス・イダス・イ・ラス・ブエルタス(Las Idas y Las Vueltas」です。この映像は今年1月のオランダ公演でのもの。曲はバロックの「グアラッチャ(Guaracha)」?フラメンコの「グアヒーラ」。バイレは、パトリシア・ゲレーロ(Patricia Guerrero)です。

昨年のフラメンコフェスティバル、ビエナル・デ・セビージャでの、このコンサートの様子はこちらでレポートしました。その時に入手した彼らのCDを聴いていると、ここ20年近くフラメンコしか聴いていない私の耳にも、バロックの旋律がすんなり入ってきて、いつの間にか口ずさめるようになっていました。これは彼らがそれぞれの本質を失うことなく作り上げた音楽によって、まさに「対話」が実現したということかも知れません。同じスペイン生まれの音楽、たしかに共通点はあるのです。とは言え、バロック音楽の知識はほとんどないため、帰国後、今回日本での販売元となっていただいた会社の方に聴いていただくと「このガンバ奏者はすごい!」と。実際にその後、ファミ・アルカイは、バロック音楽の殿堂的レーベルへの所属も決まり、今まさに注目の奏者となっています。Fahmi Alqhai .jpg
今年4月「スペイン音楽大航海記」として、日本での正式販売がスタートしたこのプロジェクトのCDは、音楽界で非常に権威のある月刊誌「レコード芸術」の5月号、6月号にも取り上げられ、クラシック音楽の専門家の方から「フラメンコのもつ生命力にあらためて驚かされるとともに、この探究に共感する人には是非一聴をすすめたい」とのお言葉をいただきました。

旅に出たくなる気持ちにさせてくれるこの音楽を聴きながら、フラメンコ・ウォーカーは次の旅に向けて準備中です。

(右写真:ヴィオラ・ダ・ガンバを持つファミ・アルカイ)Fotos : Luis Casilla

追記:CDに入っているスペイン古謡「ハエンのモーロ乙女」の演奏とバイレの映像がありました。音が聞き取りづらいですが、カンテ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、そしてバイレがビシッと決まっていて、一見の価値あり。

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