まだ夜とは言えない明るさのセビージャ、20時半。マエストランサ劇場でのビエナルの開幕公演「エンリケ・モレンテ:グラナダ、セビージャ、ニューヨーク...」は、20分間の休憩を挟んで夜中の0時半まで続きました。

2010年に67歳でこの世を去ったエンリケ・モレンテ(Enrique Morene)。がんの疑いのある食道の腫瘍を取り除く手術で入院しましたが、死因は脳内出血による脳梗塞。その死を巡っては医療ミスという話が明るみに出て、没後も家族はより深い悲しみに襲われたことと思います。
30枚近いアルバムを出し、さまざまな新しい試みに挑戦してカンテフラメンコの可能性を広げてきたエンリケ・モレンテ。当時はカンテの異端児と見られたこともあったようですが、彼の残した作品は今やフラメンコの歴史に残るものとなっています。ジャンルや世代を超えた共演も積極的に実現し、常に相手から何かを学ぶことを喜びとしたエンリケ。

その父の姿を見て育った三人の子、エストレージャ(Estrella)、ソレア(Solea)、エンリケ(Enrique)。(映画「フラメンコ・フラメンコ」にも家族で出ていました。)カンタオーラとしてはもっともキャリアの長いエストレージャの堂々たる歌いっぷり。そして、これが「血」なのかと感じさせるソレア、エンリケの声。父エンリケとまるで同じ成分の金属が混ざっているような響きがありました。息子、エンリケに至っては、声の落とし方が似ているなーと思ったところが何度かありました。

共演者には、エストレージャ、ソレア姉妹の歌の後、まず最初に登場したイスラエル・ガルバン(Israel Galvan)。バイレなのにマイクの前に立った?!と思ったら、アルバム「Suena al alhambra」の一曲目のマルティネーテを思い切り彷彿させる演出。ちなみに隣にいたエンリケ・モレンテ作品をよく知らない人に「なんで(イスラエルは)咳をしていたんだ?」と訊かれました。その理由は、この曲を聴くと分かります。イスラエル・ガルバンは、2005年に出されたこのアルバムのビデオにも出演しています。また逆に自身の作品「アレーナ(Arena)」にエンリケがコラボしていました。
バイレではもう一人、エンリケ・モレンテの作品の中でも、最も注目されたものの一つ1997年の「オメガ(Omega)」にコラボレーションしたハビエル・ラトーレ(Javier Latorre)。この夜は、タラントを天にいるエンリケに捧げるかのように踊りました。

inauguracion5.jpgカンテ陣には、エル・ペレ(El Pele)、カルメン・リナーレス(Carmen Linares)、アルカンヘル(Arcangel)、フアン・ホセ・アマドール(Juan Jose Amador)、トマス・デ・ペラテ(Tomas de Perrate)。アルバム「オメガ」に収録されているロルカの詩にレオナール・コーエン(Leonar Cohen)が曲をつけた「Pequeno vals vienes 」を歌ったカタルーニャの歌手、シルビア・ペレス(Silvia Perez)。出身地も声のタイプも全く違うこの顔ぶれ。エンリケの交流の広さがうかがえます。
ギターには、エンリケの伴奏を務めていた、ダニ・デ・モロン(Dani de Moron)とアルフレッド・ラゴス(Alfredo Lagos)。

最後は、エンリケがコンサートでやっていた円陣のフォーメーション。今回は人数が多く、客席側からは壁のようになってしまって、輪の中のパフォーマンスが見えにくかったのはやや残念でしたが、アンコールのブレリアでは長丁場だったにも関わらず、ハビエル・ラトーレ、イスラエル・ガルバンの全く違うタイプのブレリアも堪能でき、無事幕が下ろされました。(写真左からソレア、エンリケ、エストレージャ/撮影;Antonio Acedo La Bienal Oficial)

DSCN1310.JPGさて、翌日。午前の記者会見はイスラエル・ガルバン。前日の舞台で昨年に日本に来た時よりも「スリムになった?」と思ったのですが、実際会うと確かに!本人に尋ねると、10キロくらい痩せたとか。そんなに減らせるところがあったなんて!明日は「FLA.CO.MEN」の公演。タイトルの意味は?の質問に「僕はよく知らないんだよ。(ディレクターの)ペドロがつけたから」と真っ正直な答え。飾らないお人柄です。舞台に立つと、まるで別の生物のような変貌ぶりは、やはり天才なのでしょう!明日の舞台が楽しみです。

Copyright: FOTO de espectaculo:Antonio Acedo

お詫び:パソコン環境の関係で、スペイン語表記のアクセント記号の向きが反対になっております。ご了承ください。

3つの壁の乗り越え方

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