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第64回 モン・デ・マルサン・フラメンコフェスティバルレポ Vol.3/Mont-de-Marsan(3)Pastora,David Palomar,Antonio Reyes,Susi,El Choro,Carmen Ledesma

pastorafarru.jpgフラメンコの公演では、よくタイトルやテーマに「Homenaje(オメナへ=オマージュ)」という言葉が使われます。オメナへとは「敬意や尊敬を表す」こと。以前は、亡くなったアーティストへの追悼公演的なものが多かったのですが、最近ではオメナへの対象とされるアーティストが生きている間にやってこそ、本来の意味のオメナへ公演となると見直されています。フラメンコは生きた芸術。時代と共に変化していくことは否めません。そして、教本や楽譜がない芸術だけに、オリジナルを守り伝えることが難しいけれど非常に大切だということは、今までも何度かふれたかと思います。そのためにも、この現代、舞台に立つアーティスト達がフラメンコ芸術を築いたマエストロ達へのオメナへの気持ちを持ち続け、そのアルテ(芸術)を継承し、私たち観客にも伝えて続けてほしいものです。(写真:祖父ファルーコの姿を重ね合わせて踊るファルー。パストーラ・ガルバン公演より)

pastora1.jpgセビージャ派のバイレを築いたマエストラ達へのオメナヘである、パストーラ・ガルバン(Pastora Galván)の「&dentidades(イデンティダデス)」。昨年のセビージャ、そして今年初めのへレスに続いて3度目の鑑賞となりました。回数を重ねる毎に作品の完成度が高くなってきたこともあるでしょうが、観る方も初見よりはずっと細かいところまで作品の意図を汲めるようになってきたのか...パストーラの姿が、時にはマチルデ・コラル(Matilde Coral)に、時にはマヌエラ・カラスコ(Manuela Carrasco)に重なって見える瞬間すらありました。今のアーティストは「真似をしているだけでアイデンティティーがない」と言うパストーラ。お手本にする先輩やビデオなどの資料も今のようになかった先人達が、いかにバイレを通じて自分のアイデンティティーを打ち出してきたか。それを探ってきたパストーラ。記者会見でも取り上げたアーティスト達について次々と語っていました。PASTORA22.jpg「マティルデとロリ・フローレス(Loli Flores)はとても対照的で、ロリは踊る時、目をつむって内に向かって踊っていたわ。目の前のものを見たくないかのように。そしてミラグロス(Milagros Menjibal)はクラシカルな踊り手。ワインとチーズがあっていつしか誰かが踊りだすような家の中でのフィエスタの場面で浮かんだのがカルメン・レディスマ(Carmen Ledesma)の存在。そしてマヌエラ・カラスコはバイレの女神。彼女はタブラオ(フラメンコのショーを見せるレストラン)という場で、実地で踊りながら鍛えられた人。そして、自分自身であるパストーラの場面では、今日のフラメンコを表現したい。」彼女達のビデオを繰り返し見て勉強したパストーラ。しかし、決して「真似」ではない、パストーラによるマエストラ達のアルテがそこにあったのです。

FarruPastora.jpgセビージャ公演と同じく、バイレのゲストはファルー(Farru/写真:左)。フアナ・ラ・デル・ピパ(Juana la del Pipa/写真右下)の重厚なカンテで、祖父ファルーコが得意とした「ソレア」を踊りました。前半は祖父の振り付けでトラディショナルに。そして後半は今のファルーらしさの出たバイレになっていました。フアナ、ファルーそしてもちろんパストーラもそれぞれフラメンコ界では名門ファミリーの一員。個人としてのアイデンティティーのみならず、ファミリーのアイデンティティーも守り続けているように思えました。いわゆる「家」。日本の古典芸能である歌舞伎に通じるものがあります。歌舞伎の世界には新しい試みとして、"スーパー歌舞伎"、"歌舞伎NEXT"などありますが、そこに出演している歌舞伎役者たちはちゃんと古典の舞踊や芝居ができた上でやっていること。歌舞伎座で主役を張れるほどの役者たちが挑んでいるからこそ許されるもの。フラメンコの革新においても同じことが言えるでしょう。juanapasotra.jpg古典芸能を幅広く現代の人々により分かりやすく、身近に感じてもらうというのは、先代たちの時代にはなかった課題です。新しい歌舞伎を観たことをきっかけに、歌舞伎自体に興味を持つ人が現れ、歌舞伎そのものの歴史や先代の役者達が見直されるようになる可能性が生まれます。フラメンコもオメナへ公演をやることで、オメナへの対象となっているマエストロたちに人々の眼が向くことも期待できるかもしれません。そこから学んだり、映像で楽しんだり。伝統芸能、民俗芸能を守っていくのは、役者達だけでなく民衆の力もあると思います。

DAVIMON1.jpg翌日の第一部は、カンテ・コンサート「De la Barrosa a la Caleta」。Barrosa=バロッサとは、カディス県のチクラナ・デ・ラ・フロンテーラ(Chiclana de la Frontera)の海岸のある地区。ギタリスト、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)の曲(アレグリアス¨La Barrosa¨こちらで聴けます)にもその名を残しています。Caleta=カレタも同じくカディス県カディス(Cádiz)の海岸。この二箇所は海岸線沿いに繋がっています。この、チクラナからカディスにかけての、いわゆる"Bahía de Cádiz"の港町とその近隣の村からは、港町特有の明るさと粋さを盛り込んだカンテも生まれ、地元のカンタオール達が名唱を残しました。reyesmon1.jpgあのカマロン・デ・ラ・イスラ(Camarón de la Isla)もこの地区の出身ですね。

出演は、チクラナ出身のアントニオ・レジェス(Antonio Reyes/写真右下)とカディス出身のダビ・パロマール(David Palomar/写真左)。それを引き継ぐ若手...いや今や中堅の2人です。ダビ・パロマールは「カディスのカンテには独特のニュアンスがあるんだ。話しかけているような。甘美で、リズミカル、そして愛情に溢れている。そして、奥深い。」と語っていました。

コンサートの冒頭は、一人ずつが登場し独唱。続いてまずはダビ・パロマールのステージ。今年のヘレス・フェスティバルでのコンサートの縮小版的なもの。ギターも同じくラファエル・ロドリゲス(Rafael Rodriguez)。要所要所でラファエルの演奏が光っていました。語りかけるようなブレリア(Bulerias)、タンギージョ(Tanguillos)。打って変わって重厚感のあるシギリージャ。そして最後は、故チャノ・ロバート(Chano Lobato)への"オメナヘ"。Davimon2.jpgガロティン(Garrotín)をタンゴ(Tango)のリズムに乗せて歌い、やがて、El PiyayoとEI Titi(共に往年のカンタオール。彼らの歌ったタンゴにそれぞれの名前がつき、今も歌い継がれています)のタンゴにカディスらしく軽快に繋げていきました。歌唱力、表現力共にカディスのカンテの継承者としての実力を存分に発揮していました。アントニオ・レジェスは、まずはソレアから。艶と色気のある声でじっくりと聴かせました。続くタンゴも、せかせかとノリだけを追い求めるのではなく、じっくりと歌い上げていたのが印象的でした。

SUSIM1.jpg
夜の第二部。今度は「De Huelva a Sevilla」。同じアンダルシア地方でもぐっとポルトガル寄りに移動。Huelva=ウエルバからSevilla=セビージャにかけてのアーティストの登場です。パストーラ・ガルバンの公演の中で、マエストラの一人として取り上げられていた、カルメン・レディスマ(Carmen Ledesma バイレ)、アントニオ・モリーナ"エル・チョロ"(Antonio Molina "El Choro"バイレ)、ラ・スシ(La Susi カンテ)。当日朝の記者会見でも、しきりにカルメンと同じ舞台に立てることが光栄だと言っていたエル・チョロ。SUSICLEDESMACHORO010.jpgのサムネイル画像彼にとってカルメンは、子供の頃からずっと見て育った、憧れのバイラオーラだったそうです。

そして本番。まずは、ディエゴ・デル・モラオ(Diego del Morao)のギターで、スシのカンテ。本人も舞台上から観客に言っていたように、残念ながら本調子ではなかったようです。最後のブレリアでは、自分を鼓舞するかのようにバイレを入れ、かなり長い時間歌い続けていました。エル・チョロは、ソロでソレアを踊り、正統的男性バイレを精魂込めて踊りました。「カンタオールが歌い出した途端、頭が真っ白になったんだよ。そこからはもう出てくるままに踊ったよ」と後で語ってくれたチョロ(写真左)。まさに音楽とその時の感情から自然に湧き出てきた、本物のバイレ・フラメンコを見せてくれました。そして、カルメンはマントンでカンティーニャスをベテランの貫禄たっぷりに。もちろん、観客待望のカルメンのタンゴもありました。最後はベテラン若手でがっしりと抱き合い、約4時間弱にわたる長い公演は幕を閉じました。carmenm1.jpg個人的な思い出ですが、2000年セビージャのビエナルでフェスティバルが開講した踊りのレッスンの出席したのですが、その時の先生が、カルメン・レディスマ(写真右)でした。いつも温かく生徒を見守り、誰もが認めるそのお人柄。そして何より、女らしさの中に粋のが感じられるフラメンコという踊りを目の当たりにできたことで、バイレの楽しさを知ることができました。心に残る師、アーティスト、そこに集う人達との出会いは、フラメンコに限らず、芸術を通じて得られる宝物のひとつです。

FOTOS DE ESCENARIO(舞台写真): Marta Vila Aguilá /Makiko Sakakura(坂倉まきこ/FLAMENCOLABO)

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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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