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第83回 へレス・フェスティバル 2016 Vol.8 / Festival de Jerez 2016 Vol.8

JAVIERFERGO_REVERSIBLE_05_copy.jpg去る3月29日、2016年のヘレスのフェスティバルの公演作品の中から、批評家たちが選出する賞、Premio de la Críticaが発表されました。受賞したのはマヌエル・リニャン(Manuel Liñan)。作品「レベルシブレ(Reversible)」の公演を評価されました。公演についての記事はこちら

この賞は昨年はイスラエル・ガルバン(Israel Galván)に、その前年がベレン・マジャ(Belén Maya)。ちなみに第1回(1999年)はアントニオ・エル・ピパ(Antonio El Pipa)、続いてアントニオ・マルケス(Antonio Marquez)、サラ・バラス(Sara Baras)。最近では、ロシオ・モリーナ(Rocío Molina,2009)、ホアキン・グリロ(Joaquín Grilo,2010)、マルコ・フローレス(Marco Flores,2012)、イサベル・バジョン(Isabel Bayón,2013,、メルセデス・ルイス(Mercedez Ruíz,2007,2011)らが受賞しています。いずれも現代を代表するアーティスト達です。

JAVIERFERGO_CHORO_01_copy.jpgそして、目立った活躍をした新人に贈られる賞、Premio de revelaciónには、アントニオ・モリーナ"エル・チョロ"が選ばれました。この賞は、ヘレスにあるレストラン「バル・フアニート(Bar Juanito)」のオーナーが創設したもので、オルガ・ペリセー(Olga Pericet,2010)、マヌエル・リニャン(2012)、カリメ・アマジャ(Karime Amaya,2013)、サラ・カレーロ(Sara Calero,2014)アルベルト・セジェス(Alberto Selles,2014)、ルイサ・パリシオ(Luisa Palicio,2015)らも過去に受賞しています。

少し間が空いてしまいましたが、ヘレスのフェスティバルの公演について、またいくつかピックアップしてみます。

ジャズとフラメンコの出会いと言えば、まず思い浮かぶのが、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)。1977年ジャズギタリストのアル・ディ・メオラ(Al Di Meola)のアルバム「Elegant Gypsy」の中の"Mediterranean Sundance"に参加したこと。これをきっかけに、ジョン・マクラフリン(John McLaughlin)、ラリー・コリエル(Larry Coryell。後にアル・ディ・メオラが代わって参加)とのスーパーギタートリオが結成され、フラメンコギターが広く世界に知られることになりました。
JAVIERFERGO_LARA_01_copy.jpg最近では、ジャズフラメンコという言葉もありますが、これについてはミュージシャンの来歴によっては、どんなフュージョンとなっているのか、一言では言えないように思います。ちなみに、パコ・デ・ルシアは自分自身の演奏をジャズ風に変えることはなく、あくまでもフラメンコを貫きながら、見事に二人のジャスギタリストの奏でる音楽と融合させました。それ故に、ジャズ側がフラメンコ音楽から多くのインスピレーションを得ることになったのでしょう。フラメンコギターを中心とするフラメンコ音楽は、ジャズや他のジャンルの音楽のように一般的にポピュラーとはまだ言えません。しかし、世界のトップジャズプレーヤーがパコの奏でるフラメンコに魅せられたように、他の音楽とは違う魅力があるはずです。ジャンルを超えてより多くの音楽ファンの耳に届くチャンスという意味で、ヘレスのギタリスト、サンティアゴ・ララのリリースした新アルバム「フラメンコ・トリビュート・トゥー・パット・メセニー」は興味深いものがありましたので、そのコンサートにも足を運びました。

JAVIERFERGO_LARA_04_copy.jpgジャズファンとして、そしてミュージシャンとしてジャズ音楽への敬意を持って取り組んだこのアルバム。大好きなジャズギタリスト、パット・メセニー(Pat Metheny)の曲を自分なりの言葉で表現したと言います。実際、パット・メセニーとも会い、アルバム制作の希望を伝え、完成後は本人に聴いてもらってお墨付きもいただいたとのこと。満員のコンサート会場には、心なしか英語圏の人が多かったような印象。アルバム収録時のフルメンバーではないものの、ゲストにカンタオーラのロシオ・マルケス(Rocío Marquez)、そして、バイレにサンティアゴの伴侶でもあるメルセデス・ルイス(Mecedez Ruíz)を迎えてのコンサート。記者会見で「メルセデスは、もともとそんなにジャズが好きじゃなかったんだけど...、コンサートでは踊ってくれるんだ」と奥方への感謝の気持ちもチラリ。おなじみのパット・メセニーのレパートリーが、フラメンコ独特のギターのタッチ、パルマ(手拍子)やパーカッションが入ることにより、よりリズミカルに、かと言ってフラメンコのコンパス(リズム)を強調しすぎることなく、心地よくアレンジされていました。

JAVIERFERGO_ARCANGEL_01.jpgコンサートでは、ヘレスのフェスティバルでは、実に2000年以来となるアルカンヘル(Arcángel)のカンテ・コンサートがフェスティバル最終日に行われました。昨年、新アルバム「タブラオ(Tablao)」をリリース。それを聴くと、以前よりやや低く太めになった声質の変化が感じられたので、約半年ぶりに生声を聴くのを楽しみにしていました。日本でアルカンヘルのソロコンサートを企画して実現したのが2007年。その頃から比べると、日本ではカンテに対する関心度も格段とアップし、踊るにしても、弾くにしても、カンテを知ることが大切だという認識が根付いてきたようです。コンサート前、アルカンヘルと話していて「今ならもっとお客さんに来てもらえるだろうね」と、当時、集客に苦労したことを懐かしく思い出しました。そもそも、アルカンヘルの声、煌めく糸のような繊細さと、細くとも決して「か細く」はない、狙った音に的確に刺さるような声が好きでした。その声とは微妙に違うテクスチャー、より力強い声になっていたものの、その歌唱力は変わることなく観客を惹きつける力を増していました。以前、フランスのフェスティバルのカンファレンスで、「アルカンヘルがスペインに生まれてくれてよかったよ。こうしてフラメンコの世界にいてもらえるから。他の国に生まれたら、その国でも必ず素晴らしい歌手として活躍していただろう。」と元ビエナルディレクターのドミンゴ・ゴンザレス氏が言っていたのを思い出しました。

unspecified.jpegコンサートは、机で指を打ち鳴らすリズムに合わせてのプレゴン(Pregón)から始まり、延々とフラメンコの様々な曲種を自然に繋げて歌い続ける展開。得意とする地元のファンダンゴ(Fandangos)あり、ソレアポルブレリア(Soleá por burlería)あり、タンゴ(Tangos)あり。時間にするとかなり長い一曲を、実に滑らかに聴かせてくれました。さすが、カンテへの知識の深さがうかがい知れます。(写真右:左からロス・メジスの二人、アルカンヘル、ダニ・デ・モロン、アグスティン・ディアセラ)コンサートの映像はこちら。


JAVIERFERGO_JEREZPURO_05_copy.jpg今回のフェスティバルは20周年記念ということで、地元のバイラオーラ、マリア・デル・マール・モレノ(María del Mar Moreno)がスペシャルバージョンの「ヘレス・プーロ・エセンシア(Jerez Puro Esencia)」を公演しました。「プーロ(=英語のピュア)」という言葉に相応しく、純粋なるフラメンコ:カンテ、ギター、バイレの伝統的なスタイル、そして地元ヘレスへの愛と誇りに満ちた内容=ブレリア、ビノ(ヘレスのワイン=シェリー酒)、ギター、カンテ、モライート(ギタリスト)、セマナ・サンタ(聖週間の行列)、そしてバイレ。ヘレスの劇場にフラメンコを観に来た人が見たかったものをぎっしりと詰めたプレゼントをくれたような作品でした。長年のコンビで息の合ったアントニオ・マレーナ(Antonio Malena)のカンテとマリアのバイレの対峙から厳かに始まった後は、会場通路から地元のアーティストが続々と入場。舞台上でカンテとバイレだけのシンプルかつ粋なブレリアの連打。これぞ、ヘレスのブレリアというものを存分に味わせてくれました。公演のダイジェスト映像はこちら。

JAVIERFERGO_JEREZPURO_04_copy.jpgヘレスのアーティストたちは、生まれた時からフラメンコと共にあります。それは、他の都市に比べて、より濃厚な印象があります。アントニオ・マレーナ、マカニータ(Macanita)という二人の歌手も、幼少時からフラメンコを歌っていました。その映像が舞台で流されました。どう見ても10歳にも満たない二人が大人顔負けな、老練なコブシを回して歌います。そして、スクリーンの前には現在の本人たちが続いて歌うという演出もありました。個人的に何よりもこの公演で嬉しかったのは、アンヘリータ・ゴメス(Angelita Gomez)が舞台に立ってくれたことです。ヘレスのブレリアを、最高に粋にお茶目にかっこよく踊るバイラオーラ、というよりマエストラというべき人物です。

JAVIERFERGO_JEREZPURO_06_copy.jpg1940年ヘレス生まれ、ということは今年76歳になられますが、今でもフェスティバルではクラスで教えておられます。私事ですが、踊りを辞めた後もほぼ毎年、15年前からアンヘリータのクラスだけは受け続けてきました。マエストラの小柄な体から発される、不思議なフラメンコパワーのおかげで、フラメンコを好きでいられたと言っても過言ではないかもしれません。ビジャマルタ劇場の大きな舞台に現れたアンヘリータの姿は、シャキッとしていて、遠くから見るときっと少女のように見えたことでしょう。それくらいシャキッとしたお姿です。アンヘリータは実はフェスティバルが始まる2週間くらい前までは体調を崩していたそうなのですが、フェスティバル中は毎日レッスンをし、できる限り公演にも足を運んで若いアーティスト達のフラメンコも観ておられました。常にアップデートし続けておられるのも若さの秘訣かもしれません。公演の映像に入っているのは、シギリージャ(シリアスな曲種)なので、ブレリアの映像もこちらにご紹介します。

マリア・デル・マールももちろん、アンヘリータの生徒で、彼女がヘレスで持っているアカデミアは、アンヘリータから受け継いだものです。フラメンコで最も大切な「レスペクト」。ファミリアの血が重んじられることの多いヘレスのフラメンコ界に単身入ったマリア。彼女の努力と既存のフラメンコの世界へのレスペクトが実って、今やヘレスを代表するバイラオーラとして、世界各国でプーロ(純粋)なフラメンコを伝える公演を続けています。その経験からも、"ヘレスで行われるフェスティバル"の意味を汲んで、地元のファンだけでなく、そこに集まった各国の人々の期待に応える作品を公演できたのかもしれません。MUY JEREZ(とってもヘレス)な一夜でした。

写真:ハビエル・フェルゴ© Festival de Jerez/Javier Fergo
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.

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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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