Farruquito-16.jpg2016年9月8日から10月2日まで25日間にわたって開催されたスペイン最大のフラメンコ・フェスティバル、第19回ラ・ビエナル・フラメンコが閉幕しました。プログラム発表後、オープニングを飾るはずの公演の中止、スペイン国立バレエ団の公演キャンセルによるプログラム変更。さらには、マラガのオーケストラを率いて大作を奏でる予定だったギタリスト、マノロ・サンルーカルの体調不良によるフェスティバル開幕後の公演キャンセルにより、大劇場マエストランサが一晩空くという異例の事態もありました。

2000年からビエナルに来始め、2012年から、"楽しむ"と言うより"伝える"というプレスとして関わってきましたが、今年は様々なところで、今までにない状況が起こリました。例えば、売り切れ公演の続出。その一方で劇場やタブラオで企画されていたオフフェスティバル的な公演の宣伝が行き渡っておらず、ビエナル公演にあぶれた観客をうまく呼びこめていなかったように思います。次回のビエナルは第20回記念バージョンとして、充実したものになるよう期待したいです。

ビエナルは終わりましたが、期間中の公演を取り上げながら、アーティストやフラメンコ、スペインについてご紹介していきます。

今回は、バイレの(踊り)の公演からのご紹介。セビージャの名門アーティストのファミリアの中でも、男性バイレの血統といえば"ファミリア・ファルーコ(Familia Farruco)"。エル・ファルーコ(El Farruco 1935-1997)に始まるこの家系。ファルーコは14歳で結婚し、15歳で一女の父となります。セビージャにタブラオ「グアヒーロ(Guajiro)」がオープンし、フラメンコ黄金時代の幕開けとともに、このタブラオに夫婦で出演することになったものの、翌年、妻が交通事故死。たまたま出演できなくなったバイラオーラの代役を務めた帰り道でした。その後、再婚するも、その妻も22歳の若さで病死。一人息子の初代ファルキートは、バイラオールとして期待されていましたが、1974年、18歳の若さで事故死。同時に義理の息子も亡くすという悲劇が続きました。この息子の死をきっかけに長く喪に服し、舞台から遠ざかっていましたが、二人目の妻との間の娘、ロサリオ(Rosario 芸名:ラ・ファルーカ La Farruca)の息子、つまり孫のフアン=現在のファルキートに望みを託してバイラオールとして育てることに希望を見いだし復活します。その姿は、カルロス・サウラ監督の映画「フラメンコ」のワンシーンでも観ることができます。(1:24あたりから始まります)

1997年、ファルーコが亡くなりますが、その後もファミリアの不幸は続きました。2001年ファルキートの父エル・モレーノ(El Moreno)が、公演先のアルゼンチンの舞台で倒れたまま帰らぬ人となりました。38歳の若さです。2005年にはファルキートがひき逃げ事件を起こし、被害者は死亡。刑務所に入ることとなりました。昨年(2015年)は、巨体を軽やかに翻して踊る独特のアイレ(空気感)を放っていた伯母のピラール・ラ・ファラオナ(Pilar "La Faraona)が55歳で病死。妹のファルーカの公演に亡くなる10日前出演した姿を見たのが最後となりました。現在のファミリア・ファルーコは、ファルキート、次弟で「ファルーコ」の名を継ぐアントニオ(Antonio "Farruco")、末弟のマヌエル"エル・カルペタ"(Manuel "El Carpeta)、そして、彼らとは従兄弟にあたり故ファラオナの息子、エル・バルーリョ(El Barullo)の4人が中心となっています。

今回のビエナルでは、ファルキートとエル・バルーリョの公演がありましたので、ご紹介します。ファルーコは、オフ・フェスティバルで「フラメンコンシエルト(Flamenconcierto」を公演。2015年フランスのフェスティバルで同じタイトルで公演した際の記事がこちらにあります。

El-Barullo-02.jpgピラール・ラ・ファラオナの息子、エル・バルージョは、サンタ・クララ修道院の中庭のステージでの公演。1990年生まれの26歳。ファミリアの一員として5歳でデビュー。ファルー(現在のファルーコ)とは1歳違いということもあって、ファルキートたちとは兄弟のように育ってきました。バルージョのバイレは、現時点でファミリアの中でエル・ファルーコのスタイルを一番引き継いでいるように見えます。もちろん、他の3人もそのスタイルは身についているはずですし、ファンとしてはあのファルーコの荘厳で時に爆発的なエネルギーを発してくるスタイルが見たいもの。しかし、ファルーコの血を引く4人全員がそれをやる必要もありません。何を自分の個性としていくのか、今やりたいことは何なのかという気持ちに従って、それぞれ活動しています。

El-Barullo-06.jpg今回の公演のタイトル「アカリペン(Akharipen)」は、ヒターノの言葉で「オリヘン(Origen=起源)」を表します。「祖父、アントニオ・ガデス、そして母のファラオナに捧げる」というこの作品。馬の世話や鍛冶場の仕事など、ヒターノたちの昔の生活を表すようなシーンから始まります。若いバイラオール二人が金槌で蹄鉄を打つ音に合わせて、バルージョがサパテアードを入れるのですが、若い3人の男子の素肌にスーツのベストといういでたちは、鍛冶場の作業着とは違うので、現実というよりショーアップされた趣向。「ヒターノをやめて自由を奪われるくらいなら、死んだほうがましだ」というようなカンテも入ったりと、寸劇的に進行していきました。

途中からはストーリーはいつの間にか消え、後半はバイレが続きました。ファミリアの女性陣によるタンゴなど、ヒターノのフィエスタのような展開。女性バイレ陣の中には、エル・バルージョの姉のアフリカの姿もあり、亡きファラオナを彷彿させました。エル・バルージョのバイレは、ファミリーの中でも一際ノーブルな感じ。仲間うちだけでいるときの姿は知りませんが、外で見かける限りでは、物静かで状況をよく観察しているイメージがあります。リハーサル後に挨拶した時も(スペインでは?っぺたに軽くキスをする感じです)「あ、汗かいてるから」と丁寧に汗を拭いてから、改めて挨拶。若いながらとても落ち着いた印象でした。激しいサパテアード(足でのタップ)をしていても、上体の安定度は抜群。アントニオ・ガデス(Antonio Gades)に捧げるファルーカを踊るシーンもありました。(ファルーカは曲種名:ガデスのファルーカと言えばこれ。)

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公演が終わったのが、夜中の12時半頃。その翌朝には、マエストランサ劇場でファルキートの公演のリハーサル。そこにはバルージョの姿もありました。リハーサルには、バイラオーラのヘマ・モネオ(Gema Moneo)、マリナ・バリエンテ(Marina Valiente)、バルージョ公演に出ていたバイラオールのエル・ポリート(El Polito)、カンテのぺぺ・デ・プーラ(Pepe de Pura)、エンカルナ・アニージョ(Encarna Anillo)ら出演者勢揃い。公演冒頭に出てくるヒターノ同士の争いをバストン(杖)を使って激しく踊って表現していました。
公演タイトル「バイレ・モレノ(Baile moreno)」の「モレノ」は、前述のファルキートの父、エル・モレノからとったもの。15年前、自分のソレアを歌ってくれていた時に突然亡くなった父からは、多くの事を学んだと言います。今回の作品は、自分も父親となった今、父の歴史をなぞって作ったもので、今までの作品の中では一番個人的な内容になったとのこと。またインタビューでは、「15歳くらいの頃、自分はもう踊れていると自負していた。でもそれは無知からくる認識だった。フラメンコを知れば知るほど、そして職業としてやっていけばいくほど、その難しさがわかってきた。だから、これからも学んで練習を続けていかなければと思っているよ。」とも言っていました。

Farruquito 01.jpg舞台の幕が開くと、ファルキートはソファーで子供を抱いて寝かしつけようとしています。実生活でも一男と双子の女児のパパ。手馴れたものです。ようやくベッドに子供を置いて、ソファーに戻ってまどろんでいると...タイムスリップしたかのように、馬の蹄が響いてきて一昔前の家畜市で賑わいの場面が展開。ここからリハーサルで見た、ファルキートとバルージョの喧嘩のシーンになります。そこへ家長役のぺぺが現れることにより、一旦喧嘩は収まります。(ファルキート曰く、ヒターノの喧嘩は家長の仲裁で止まるものとのこと)
続くバルでのシーンでも、まだ二人は今ひとつ小競り合いをしている様子をブレリア(曲種名)の掛け合いで表現。ファルキート、バルージョともにお互い引けを取らないかっこいいブレリアの連続。ようやく、乾杯によって仲直りします。

Farruquito 03.jpgファルキートの作品にしては珍しくストーリー仕立てとなり、次は伴侶との出会い。父と母ファルーカの出会いを重ねたのかもしれません。結婚式の場面では、ヒターノの結婚式で歌われるアルボレア(Alborea:曲種名)。アントニオ・ガデスが舞台と映画でやった「血の婚礼」にも同様のシーンがありました。めでたし、めでたし...なのですが、その後、舞台は暗い空気へと転換。死を意味する黒服の人物が現われては消え、その中にはファルキートの息子さんの姿も。小さいながら、キリッとポーズを決めていました。
Farruquito-08.jpgそして、舞台横のソファーには黒服のファルキートがまどろんでいる様子。そこに、父エル・モレノの声でソレア(曲種名)が流れてきます。その声に目覚め、かみしめるように聞いた後、生演奏で続きを踊ります。舞台上では、妻役のヘマ・モネオをはじめとする一族が嘆き悲しむ様子が。ファルキートは、家族を置いて死んでいく父でもあり、父を眼の前で亡くした自分自身でもあるかのように打ちひしがれていきます。そこへ、一筋の光のように息子のフアン・エル・モレノ(Juan "El Moreno")、4歳が登場。ファルキートの手をとって明るい方へと導きます。(写真1枚目がそのシーン)

Farruquito 07.jpg個人的な内容になると言っていただけに、今までのファルキートの舞台のようなワイルドさを見せるのとは違い、父の思い出や家族の繋がりを盛り込んだ作品。「フラメンコのバイレは自分が誰であるかを語るもの」という本人の言葉のように、自分が誰なのか、どこにいるのかを見つめ直し、これから次の世代の息子達と共に歩み続ける決意を表した節目の作品だったのかもしれません。

写真(FOTOS):無クレジットのものは cOscar Romero Bienal de Sevilla Oficial / Makiko Sakakura
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