マイテ・マルティン「テンポ・ルバート」&ブイカ来日公演のお知らせ / Mayte Martin "Tempo Rubato", Buika en Japon

バレンタインデーは、スペイン語では「ディア・デ・サン・バレンティン(Dia de San Valentin)」。聖バレンティンの日という意味で、別名「恋人たちの日(Dia de los enamorados)」とも言われています。

スペインでは、日本のように女子が男子にチョコレートを贈るという習慣はなく、恋人たちが"お互いに"愛を表現する日。男性は女性に、花とチョコレートボンボンを、女性は男性にコロンなどをプレゼントするのが定番のようです。ハートのオブジェや風船が飾られた2月14日、セビージャのロペ・デ・ベガ劇場では、歌手マイテ・マルティン(Mayte Martin)のコンサートが開催されました。

マイテ・マルティンは、フラメンコ歌手ですがボレロ歌手としても素晴らしいキャリアがあり、ボレロのファーストアルバムは、盲目のジャスピアニスト、テテ・モントリウ(Tete Montoliu)との「フリー・ボレロ(Free Bolero)」。ボレロ王とも称されるモンチョ(Moncho)やキューバのオマラ・ポルトゥオンド(Omara Portuondo)との録音もあります。マイテの歌うボレロはフラメンコ風ボレロではなく正統派。それゆえに、ボレロ歌手と言えるのです。

今回のコンサートは、昨年からスタートした作品で、タイトルは「テンポ・ルバート(Tempo Rubato)」。イタリア語の音楽用語で、感情のおもむくままに自由にテンポを変えて演奏することです。共演は、弦楽四重奏のカルテット・キホーテ(Quertet Quixote)、ギター、コントラバス、バーカッション。セビージャでは初演なので、一体何を歌うのか、どんな内容なのかはあまり知られてなかったはず。それでも、セビージャの人たちが早々にチケットを買い求め、公演前にして完売のニュースが流れたことに、マイテはとても感謝していました。

MI0001008523-2.jpg「テンポ・ルバート」は、愛を謳ったバラードで構成されており、アルゼンチンタンゴの巨匠、カルロス・ガルデル(Carlos Gardel)の名曲「Sus ojos se cerraron」や、ピアノデュオのラベック姉妹(Katia & Marielle Labueque)とのアルバム「De Fuego y De Agua (日本発売名:愛のソネット)」で録音したロルカの詩を含む数曲、そして自作の曲がレパートリーに加わっていました。「このプロジェクトは、20年前から温め続けていたもので、自分にとっては「愛の日記」のようなもの。」と語ります。2007年にラベック姉妹とのアルバム制作にあたって、その「日記」から何曲かを実際に録音してみて、ピアノも良いけど、このロマンティシズムを表現するには弦楽の音色が合うと思い、バルセロナの作曲家ジョアン・アルベルト・アマルゴス(Joan Albert Amargos)にアレンジを依頼して作り直したそうです。

IMG_0031.jpg"愛の歌"と言っても、バラ色の幸せばかりではなく、どちらかと言うと悲恋的内容が多いのが「どれだけたくさんの別れがあったことか」が推測される日記。メランコリックで美しい弦楽の響き、時には力強いギター、繊細なパーカッション、そして何よりマイテ・マルティンの艶と濡れのある歌声は、聴衆を虜にしていきました。曲が終わるごとに鳴り止まぬ拍手。曲が終わってお約束的にパチパチと叩かれる拍手とは違って、この日の拍手は客席から湧き出てくるような響きだったことが印象的でした。

「今日は自分にとって特別な日」と、想いを募らせてのコンサート。マイテの歌手としてのキャリア、それは、アルバムを多発することなく、売るために仕事や内容を変えるような妥協を一切せず、世間に迎合しないで自分が正しいと思う音楽の道を貫いてきた故に、厳しい局面もありました。フラメンコ歌手でありながら、ボレロを歌うのも「他の層にも売りたい」からではなく、彼女の歌唱の起源の一つがそこにあり、美しいと感じるものを歌いたいという気持ちからのはずです。自分の心に正直過ぎると世渡りが難しいのはどの世界でも一緒かもしれません。

マラガ出身の両親で、バルセロナ生まれのマイテにとっては、セビージャはある意味アウェイ。そして、フラメンコの本場であるこのセビージャで、フラメンコ歌手として知られながら、フラメンコのレパートリーではないコンサート。それにも関わらず、公演前の完売、そして観客の温かい拍手や声援は格別のものだったのでしょう。深々と頭を下げ、MCの合間に、珍しく声を詰まらせる場面すらありました。

IMG_0110.jpgアンコールに応えに再び舞台に現れると、会場のあちこちから、あれ歌って!これ歌って!とたくさんの声が飛び交ってきました。「26年前に作った曲で、これは誰のためにというわけではなく、自分の心の叫びのようなものだった」という「S.O.S」。他の歌手もカバーで歌ったヒット曲に、観客も大満足。「グラシャス、マイテ!」の声援の中、感動的なコンサートは幕を下ろしました。この「テンポ・ルバート」はアルバムとして録音が予定されているとのことです。

2000年にマイテの歌声をここセビージャで初めて生で聴き、その「声」に惚れ込みました。マイテの歌うレパートリーを理解しようと、その曲の起源を辿ったり、他の歌手による歌唱も聴いたりしているうちに、カンテ・フラメンコの素晴らしさに気づかされたようなものです。同時にボレロの世界もマイテの歌唱を通じて興味を持ちました。素晴らしいヴォーカリストは、聴く人の人生の楽しみをも増やしてくれるもの。日本にもファンの多いマイテ・マルティンですが、2005年以来、来日していないのが本当に残念です。スペイン人のヴォーカリストの来日公演が少ない中、近々(2017年3月4日)、ブルーノート東京で来日公演をするのが、マイテの故郷バルセロナに近い、パルマ・デ・マジョルカ出身のブイカ(BUIKA)。

アー写170303_BUIKA.jpg以前は、コンチャ・ブイカという名前で活動していました。ギニア人の両親ですが、国籍はスペイン。マジョルカのヒターノ(ジプシー)地区で生まれ育ち、フラメンコ音楽も身近にあったようです。彼女も様々なジャンルを歌いこなすヴォーカリスト。その特徴ある声を聴けば、一つのジャンルに押し込めておくことがもったいないというのがお分かりになるでしょう。人生を歌うスペイン歌謡(さしづめ日本の演歌のようなもの)から、ジャズ、レゲエ、アフロ、そしてもちろんフラメンコと、ちょっと高めのハスキーボイスで、ブイカならでのテイスト、まさに"ブイカ節"で歌い上げます。

来日公演のレパートリーがどのようになるかはわかりませんが、率いるメンバーの中には、"ザ・フラメンコ"なアーティストがいます。まずは、パーカッションのラモン・ポリーナ(Ramon Porrina)とピラーニャ(Pirana)。二人は兄弟で、父親は、カンタオール(フラメンコ歌手)のラモン・エル・ポルトゥゲス(Ramon El Portuguez)。そして、祖父もカンタオール、ポリーナ・デ・バダホス(Porrina de Badajoz)。カンタオールのグアディアーナ(Guadiana)は叔父にあたります。
ヘスス・デ・ロサリオ(Jesus de Rosario)も、マドリードの有名なヒターノ地区生まれのフラメンコギタリスト。彼らの「音」を聴く楽しみもあるコンサートになりそうですね。詳細はこちら
"神と語るための言葉"と言われるスペイン語で歌われる曲の耳心地を、日本で味わってみてはいかがでしょう。

FOTOS: Mayte Martin (C)Isabel Camps / BUIKA (C) BLUENOTE TOKYO
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