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第109回 フェスティバルレポート休題。アルベルト・セジェスのインタビュー、ロシオ・モリーナDVD発売/Entrevista con Alberto Sellés, DVD de Rocío Molina "Afectos"

アンダルシア州のヘレス・デ・ラ・フロンテーラで開催されていたフラメンコ・フェスティバルでの公演。来年の日程も発表され、期間中にビジャマルタ劇場で行われた公演の人気投票では、バイラオールのエドゥアルド・ゲレーロ(Eduardo Guerrero)の公演がトップを取ったというニュースも入っています。下記は今年のフェスティバルのダイジェスト映像。全ての公演を数秒単位でカバーしています。

まだご紹介していない公演が残っています。フェスティバルに出演しているスペイン人アーティストや公演を記事を通じて紹介することで、フラメンコを学んでいる人や職業としている人にとっては良いお手本として、趣味で鑑賞を楽しみたい人にとっては、こんなアーティストがいるんだと"認知"していただけるきっかけとなりますよう、これからも記事をアップしていきます。

715A1781_copy.jpgというのも、カタカナの名前は覚えられない!顔が覚えられない!顔と名前が一致しない!と言う声をよく耳にするのです。ギタリストもソリスタとしても一流の人が伴奏で出ていても、認知できてるのとできていないのとでは、聴くときの思い入れも多少違って来ると思います。また、フェスティバルのクラス受講者の座席は、あらかじめ決められているので、必ずしも前方の席とは限りません。後方席からでは顔の認知が難しく、また、せっかく前方に当たっても、そもそも名前や顔の前知識がなければ識別→認知には至りません。ちなみに私は、初めてスペインにフラメンコを学びに行く前の5年間、当時海外に住んでいましたが、日本や他国からフラメンコ雑誌や映像を取り寄せたり、フラメンコに関する映画や買ったCDで演奏しているアーティストについて調べたりして、やたらと名前を覚えていました。当時はインターネットの情報も少なく、読めないドイツ語のサイトまで参考にしていましたが、そのおかげで実際にスペインの公演で観たときに「あ!あの人は○○だ!」と分かるのが楽しかったことを記憶しています。(写真は今年の授賞式。左からマヌエル・リニャン、アントニオ・モリーナ"エル・チョロ"、アントニオ・マレーナ、ピラール・オガジャ、アンドレス・ペーニャ)

記事でスペインの公演を紹介しても、たくさんの名前が一度に出て、カタカナの羅列になっては印象に残りにくいので、できるだけ少数ずつご紹介したいところです。一方で、まずは「どこかで聞いたことのある名前」のレベルの人を作るのも大切なので、ついつい欲張って載せてしまっているとジレンマがあります。またフェスティバルの記事では毎日のように公演が続くため、内容だけを載せるだけの更新が増えすぎると一回の記事の重みも無くなります。フラメンコ・ウォーカーはブログではないので、読む人にもアーティストにも、少しでも意味のあるものになるよう、変に急いで詰め込まずにお送りしていこうと思います。

と言うわけで、今日は若手アーティストと自宅で鑑賞できる公演映像の紹介です。今までの中で、登場するアーティスト名がもっとも少ない記事になるかもしれません。もちろん、残りのヘレスのフェスティバルの公演の様子は、これからも引き続きアップしていきます。

IMG_7654.JPGヘレス・フェスティバルの初日、ラファエル・エステべ(Rafael Estevez)新監督のアンダルシア舞踊団で活躍していたバイラオール、アルベルト・セジェス(Alberto Sellés)。以前にも紹介したことがありますが、2014年にこのヘレスのフェスティバルでのソロ公演で新人賞を受賞。それ以来、注目して来ました。そもそものきっかけは、そのソロ公演のギターを担当していたギタリスト、ラファエル・ロドリゲス(Rafael Rodriguez)の一言。公演当日、偶然車で途中まで乗せてもらい、その時に「今夜踊るアルベルトは、なかなかいいんだよ。」と。ベテランアーティストの商売っ気のない褒め言葉はかなり信用できます。しかもまだそんなに有名ではない若手に対して。スペインのフラメンコの世界はとにかくたくさんの人がいます。踊りや歌う人だけでなく、プレスや評論家、公演を作るスタッフやフラメンコを広めるための政府機関や個人団体。アーティスト候補たちのレベルも高く、うまく踊れる人はいくらでもいます。もちろん、すでにスターである層や中堅層も厚い中で、若手の中で才能のある人を潰すことなく育てていくこともフラメンコ界の未来にとっては大切なことです。その才能を見極める眼も本場は厳しいものがあります。
そんな中、台頭して来たアルベルト・セジェス。2期連続でアンダルシア舞踊団のメンバーとなり、これから約3年間はまた舞踊団メンバーとして研鑽の日々が続くこととなりました。去年の秋のセビージャのビエナル(2年に一度のフラメンコフェスティバル)で、前アンダルシア舞踊団として最後の公演を終えてフリーとなり、だった時期にアルベルトにインタビューをしました。

アンダルシア舞踊団に3年いましたが、その経験を通じて、あなた自身に変化はありましたか?
- 素晴らしい影響を与えてくれたよ。ラファエラ・カラスコ(Rafaela Carrasco)、ダビ・コリア(David Coria)、アナ・モラーレス(Ana Morales)、ウゴ・ロペス(Hugo López)、そしてカンパニーのみんなと一緒にいる中で、お互いから学ぶという経験もしたし、踊るだけでなく作品全体を見ること、照明などの舞台づくりに必要なことを別の視点から見ることもできるようになった。そして何と言っても良い仲間ができて、人間としても成長することができたよ。

舞踊団では、ラファエラ、ダビ、アナなどが周りにいましたが、あなたのバイレは誰の影響を最も受けていると思いますか?
− ハビエル・バロン(Javier Barón)!バイレの形やスタイルで、一番自分がしっくりくるのは、ハビエル・バロンなんだ。その他にもアンドレス・ペーニャ(Andres Peña)やラファエル・カンパージョ(Rafael Campallo)かな。

ハビエルに出会う前に、既に踊りのベースはできていましたよね?  
−へレスでアンヘリータ・ゴメス(Angelita Gómez)やパトリシア・イバニェス(Patricia Ibáñez)に習っていて、クラシックでトラディショナルなバイレフラメンコを学んできたよ。でも前衛的なフラメンコも好きだから、違うスタイルだからと排除するつもりはないよ。僕はまだ若いし、いろんなことをやってみたいという気持ちが強いんだ。だけど、今の自分はトラディショナルなフラメンコを踊るということに自分のスタイルを見出しているよ。

今日偶然、ハビエルに会ったのですが、インマネンシア(Immanencia: ハビエルとアルベルトが共演している作品。過去記事こちら。)の中で、あなた自身がソロで踊る曲として"ペテネーラ(Petenera:フラメンコの曲種名で、ヒターノの間では不吉な曲として忌み嫌う傾向がある)"を選んだと聞きましたがそれはどうしてですか?
  − カンテ(歌)の中で、前からペテネーラが好きだったんだ。でも、タブラオではペテネーラを踊ることは滅多にないしね。だからこれは自分をあえて窮地に追い込むための挑戦でもあったんだ。
ALBERTO.JPG
特に男性はあまり踊らない曲ですよね。振り付けは誰が?
 − そうだね。僕が自分でやったよ。

またペテネーラを踊るとしたら、変えたいところとかありますか?
  − そうだね、もっと良くするために変えるところもあるだろうし、その時の歌詞によってインプロも入ってくるだろうね。新鮮さを失わないようにね。今回は一つの作品の中で踊るものだから、レマテやジャマーダ(フラメンコの踊りの中で合図となる所作)の場所は、ある程度振り付けとして決めてはいるけど、それ以外は、その時のインスピレーションで自由に踊っている部分もあるからね。

今回の共演者のハビエル、ラファエルそしてあなたの三人はそれぞれ個性が違いますよね。彼らから色々学びましたか?
 − 3人ともクラシックなスタイルのバイレではあるけど、それぞれに違うよね。本当に光栄なことに彼らからはたくさん学んだよ。例えば、ハビエルからは、舞台上での軽やかさやそのパソの美しさ。ラファエルの精密さや力強さ。それぞれ違った素晴らしい点を学ばせてもらったよ。

またカンパニー(舞踊団)で踊りたいですか?それともソリスタとしてやりたいですか?
 − 僕は振り付けされることから学ぶのが好きなんだ。カンパニーにいるといろんな人が振付をして、その人のビジョンや作品の作り方を学ぶことができる。そして自分が作品を作る時に、それぞれから学んだことを取り入れていくことができる。

舞踊団にいると、歌手もいろんな人が来ていたと思いますが、この人の歌で踊ってみたいとかありますか?
 − どの歌手もみんな好きだよ。

「ティエラ・ロルカ(Tierra Lorca: ラファエラ・カラスコ監督アンダルシア舞踊団最後の作品。)」の時は、グラナダ公演ではマイテ・マルティン(Mayte Martín)がゲストで歌ったようですが、どうでしたか?
 − 信じられないくらい素晴らしかったよ。彼女の繊細さは大好き。他にもダビ・パロマール(David Palomar)も大好き。100%いい気持ちで踊ることができる。でも、基本的に誰が歌うかは僕には関係ないんだ。ただし、本当に心から歌っていることだけは外せないね。僕自身も、その時の出来の良し悪しは別としで、心から踊っているから。

IMG_7653.JPG舞踊団の契約が終わった今は、いろんなタブラオで踊ってますね。
  - ありがたいことに、僕はタブラオと縁が切れることはないんだ。とにかく踊ることが好きなんだ。大劇場でもタブラオでも。タブラオならではの、マヒア(魔力)やインプロもあるし、調子の悪い時もあれば、すごくいい時もある。そんな中から、自分の良さが出てくることもあって、それが劇場の仕事の時にも生きてくることがあるんだ。

今後の予定は?
 − タブラオの仕事の他に、セビージャや海外でのクラスの予定もあるし、オンラインで勉強したいこともあるんだ。

有名なカンタオール(アウレリオ・デ・カディス:Aurelio de Cádiz))の孫なので、歌わないのかってよく訊かれませんか?
 − そうだね。カンテは大好きでとても大事に思っているよ。歌うけど、もっぱらシャワーでの鼻歌だね。フィエスタではよく歌うし、舞台でもカンタオールのコーラスを入れたりはするよ。

(と言っていましたが、アンダルシア舞踊団ではアレグリアスのカンテを披露して会場を沸かせました。下記映像はコルドバのコンクールでのソロ。)

プロの踊り手はカンテをよく知っている必要があると思いますか?
  − もちろんそうだね。カンテの知識を持っているべきだね。そのカンテにどういうインテンションがあるかを汲み取れたり、どこでレマテが入るかがわかってないと。ギターについても同じことで、どこでどんな感じのファルセタが入るかとか、どこで切れるとか、どこで応えていくかとか。とても難しいことだけどね。

(言葉の問題で)カンテで何を歌っているのか理解できなくても踊れるでしょうか?
- 僕はよく英語の歌を聴くんだけど、そんなに英語はできなくても、音楽として聴いて、感動できる部分はあるよ。フラメンコも同じことで、例えばジャズの音楽や歌手の声になにかを感じることができるように、言葉を超えて何か伝わるものがある。その音楽が自分の心に響けば踊れるということだね。
そうだね、だから音楽を感じるということが大事だね。

JAVIERFERGO_BFA_07.jpg以前は舞踊団の練習が毎日のようにあったと思いますが、今はどういう練習をしていますか?
 − サパテアードや筋トレを2、3時間、できるだけ毎日やるようにしている
例えば腹筋は欠かさない。踊るときに色々な動きをするために体をコントロールするには腹筋がしっかりしてることが必要。サパテアードの音がきれいに出るように練習することも大切。そして、バランスを保つために体の軸を意識することもね。

このインタビューから約一ヶ月後、新アンダルシア舞踊団のオーディションがあり、アルベルトは再度メンバーに選ばれました。この時に口にしていた「舞踊団でいろんな人の振り付けから学びたい」と言っていた希望が叶いました。現代の若手男性舞踊手も多種多様ですが、その中でも男性らしい正統的なスタイルを清々しく踊り、早くも自分らしさを身につけたバイラオール。来月(2017年4月)には、大阪でのホール公演にゲストとして来日するようなので、お近くの方は生でご覧になるチャンスです。情報はこちら。

その大阪、そして東京にも一昨年の秋に来日したのがバイラオーラのロシオ・モリーナ(Rocío Molina)。今回のヘレスのフェスティバルでは新作「Caida del cielo」が観られると楽しみにしていたのですが、まさかの公演中止。ツアー先のバレンシアで腹痛を起こし、病院に行ったら急性盲腸炎で緊急手術を余儀なくされたようです。本人は「踊りたい!」と非常に残念がっており、その日、一緒に公演の記者会見するはずだった、ヘレスのカンタオール、アントニオ・マレーナ(Antonio Malena)もロシオにもここにいて欲しかったと挨拶の時に言っていました。アントニオは、プーロフラメンコの旗手の一人。プーロ(純粋)を唱える人は、イスラエル・ガルバン(Israel Galván)やロシオのような個性的な創作作品を発表するアーティストを否定するのではと安易に考える人もいるかもしれません。しかし、本当のフラメンコ、自分のルーツをしっかりと持っているアントニオにとっては、「観客も様々だし、彼らの存在も必要。自分は自分のフラメンコ、ヘレスのフラメンコをしている。(同じヘレスの中でも)サンチャゴ地区とプラスエラ地区でだって違いがあるんだから。」と異才の存在も認めていました。

AFECTOS.JPEG残念ながらヘレスでは、ロシオのバイレを観るのはお預けとなってしまいましたが、今月末(2017年3月30日)、日本で来日公演を行なった作品「アフェクトス(AFECTOS)」のDVDが発売されます。この商品は日本版ですので、普通のDVDプレーヤーで再生可能です。メイキングオブやインタビュー映像も収録されていて、舞台で見るクールなロシオとは違った姿も垣間見れます。生の公演では一瞬のことで見逃してしまう動きも、DVDなら何度でも観られて、いかに簡単そうに超難技をこなしているかがよく分かります。私はこの公演を生で何度も観ましたが、最初の一回は全てを汲み取ることができませんでした。しかし、二度目、三度目と観ても全く飽きず、むしろ「わー、こんなことしてたんだ!」と発見が増えていった作品です。出演者もロシオの他に、カンテとギターのロサリオ・ラ・トレメンディータ(Rosario La Tremendita)とコントラバスのパブロ・マルティン(Pablo Martín)とたったの三人なので、顔、名前ともすぐに覚えられると思います。そして、この二人とも以前、このウォーカーで取り上げているので、再認知していただけると嬉しいです。パブロはこちら。
ご予約、ご購入のお問合せは発売元のエリア・ビー、Amazon.jp、そしてアクースティカでも取扱いがあると思います。(発売前のため未確認)

写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ  (その他はクレジットに準ずる)
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.

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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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