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第126回 フェスティバル・デ・ヘレス 2018 ディエゴ・ビジェガス、ヘマ・カバジェロ/Festival de Jerez 2018 Diego Villegas, Gema Caballero

28876990_10211170362647186_294010995_o.jpg欧州が異常気象の中、アンダルシア州カディス県には竜巻到来。船がひっくり返る被害もあった模様。不安定な天候は続きながらも、時折雲間から青空が見える日もあるヘレス・デ・ラ・フロンテーラで行われているフラメンコ・フェスティバルも終わりに近づいてきました。これが終わると、キリスト教行事であるセマナ・サンタ(聖週間)がの時期となります。今年は3月25日からの一週間。既に、街のあちこちには、観覧用の座席が設置されていたり、夜、車の通りが少なくなってから、パソと呼ばれる山車を担いで歩く練習が始まっています。

今回は短めにコンサートの二つご紹介します。

JAVIERFERGO_VILLEGAS_006.jpgヘレスからほど近い、サンルーカル・デ・バラメダ出身のディエゴ・ビジェガス(Diego Villegas)のコンサート、「Bajo de guía」。ディエゴは、管楽器奏者。管楽器には木管楽器と金管楽器がありますが、ディエゴは木管楽器のクラリネット、アルトサックス、テノールサックス、フルート、ハーモニカを演奏します。管楽器でフラメンコを演奏、と言うと意外な感じがするかもしれませんが、その先駆けはホルヘ・パルド(Jorge Pardo)。フラメンコギタリストのパコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)のグループで活躍したことでも知られていますが、彼によって木管楽器がフラメンコ音楽と結びつけられたのは1970年代頃のことです。ディエゴは幼い頃、まさにこのヘレスで、ホルヘの演奏を聴いて、いつかここで、自分のアルバムを発表して舞台に立ちたいと思ったと言います。その夢が叶った想いを込めた曲も今回のレパートリーに入っていました。

JAVIERFERGO_VILLEGAS_002.jpgこのコンサートは、一昨年のセビージャのビエナルでも公演されましたが、その時は教会でのコンサート。今回はメンバーも変わり、。ゲストには、バイラオーラのマリア・モレノ(Maria Moreno)が登場しました。同じカディス県出身なので、ディエゴの作った曲のイメージは伝わりやすく、ほとんどリハーサル無しでもリラックスして踊れたようです。

JAVIERFERGO_VILLEGAS_003.jpgオープニングは、フルートでのブレリア(曲種名)。それに続いて明るい曲調のミラブラス。この曲は、アラゴン地方の民族舞踊ホタとの共通点が見られることから、別名「ホタ・デ・カディス」とも称されるそうです。曲の途中に、マリア・モレノが現れ、真っ白なマントン(大きな布)とバタ・デ・コラ(裾の長いドレス)で、羽ばたくように生き生きと踊りました。会場のサラ・パウルの狭いステージスペースでも巧みにバタ(尻尾のように伸びたドレスの裾)を操り、往年の名バイラオーラ、パストーラ・インペリオを思わせるようなクラシカルなポーズも決めていました。

ディエゴはユーモアを交えたMCもなかなかうまく、曲の合間にいろんなエピソードも交えてきます。「ジャスミンの花束」というタイトルをつけた「ソレア(曲種名)」は、フランコ政権下の女性が抑圧された時代、孫たちにジャスミンの花をたくさん取る競争をさせて、日常の中に何か楽しみを作って明るく過ごそうとした曽祖母、厳しかった60年代を生きた女性たちへのオマージュとのこと。歌詞はなくとも、彼の演奏には何か語りかけるものがあります。そして、曲を作るにあたってのバックストーリーを聞くことによって、より鮮明に曲の中に描かれているものへのイマジネージョンを膨らませやすくなりました。演奏は、5種類の木管楽器を曲ごとに変えて使い、曲の中には常にフラメンコのリズムが刷り込まれています。南米大陸との行き来で生まれた曲種ヴィダリタ(Vidalida)をベースにした曲では、ディエゴのハーモニカ演奏に、マリア・モレノが緩急のあるブエルタ(回転)を入れながら、キレがありセクシーなバイレを披露して華を添えました。

JAVIERFERGO_VILLEGAS_001.jpgそして、ディエゴが突然「あー、実は一つ問題があるんです...」と切り出します。「もうカディスのカーニバルのシーズンが終わっちゃったので、コーラス隊も解散してしまってるんです。次の曲はコーラスが必要なので...客席の皆さんにお願いしたいです。」ということで、会場全員で「レレレーーイ...」とコーラスを練習して、演奏に合わせて歌う趣向もあり。その後は同じカディス県のサンフェルナンド出身の伝説のカンタオール、カマロン・デ・ラ・イスラへのオマージュとして、彼の歌った子守唄「Nana del caballo grande」を。これは、フランコ政権下で暗殺された、スペインの詩人、フェデリコ・ガルシア・ロルカの戯曲「血の婚礼」の中に出てくる歌です。

最後のブレリアは、思わず踊りだしたくなるようなフラメンコ感あふれるノリ。黒のレースのドレスで再登場したマリア・モレノがその思いを叶えるように、パンチの効いた踊りで爽快に楽しませてくれました。


フェスティバル中のもう一つのコンサート会場は、サラ・コンパニア(Sala Compania)と呼ばれる1574年に建てたれた元修道院。長い間、使われなくなっていたものを2003年にイベント会場として改装して、再利用が始まりました。中のホールは細長く、舞台は小ぶり。音響さん泣かせの構造です。

JAVIERFERGO_GEMACABALLERO_001.jpgそこで行われた、ヘマ・カバジェロ(Gema Caballero)のコンサート「Lo traigo andao」。グラナダ出身のヘマの歌いっぷりは、ベレン・マジャ、ラファエラ・カラスコ、マヌエル・リニャンらの舞踊公演で歌っていた頃から気になっていました。鈴を転がすような美しさの中にも力強さのあるフラメンコの声です。今回のコンサートは、アルバム「DE PASO EN PASO」からのレパートリーもありますが、アルバム収録時とは違い、バイオリンチェロを加えての別フォーメーション。グラナダの詩人ロルカが採譜し、自らのピアノとアルヘンティニータの歌で録音したアンダルシア民謡をベースにした曲が、チェロの音から静かに始まりました。

JAVIERFERGO_GEMACABALLERO_003.jpg舞台の中央には、ソファーが。「なんでここにソファーがあるのかって思ったでしょ?これには秘密があるの。後で教えるね。」と言い、まずはマラゲーニャとハベーラ(いずれもフラメンコの曲種名)を歌いました。そして、後で語られたその秘密とは、ギタリストのハビエル・パティーノ(Javier Patino)は、脚の疼痛で歩くことができない状態だったのです。自分がソロとして活動し始めてからずっと弾いてもらっているハビエルに出演して欲しいという気持ちに応えて、車椅子で来てくれたそうです。「ソファー、意外と座り心地いいのよ。サロン・デ・パティーノって感じで悪くないじゃない!」確かに、二人でソファに座っている図、なかなか良かったと思います。

JAVIERFERGO_GEMACABALLERO_004.jpg最後は、お仕事の歌である「Panaderas(パン屋さん)」。テンポ良い曲で、パン屋の女性たちの、テーブルの上で生地をこねながらの作業が進みそうです。下記の映像はコンサートの前半のみからなので、この曲の場面は残念ながらありません。なかなか楽しいこの曲はCDにも収録されていますので、コンサートを逃した方は是非聴いてみてください。

このような古い民衆の歌のメロディー、リズム、ハーモニーをしっかりと踏襲し、現代に甦らせるとともに、今までの自分のフラメンコ歌手としてのキャリアをなぞる曲の数々で構成されたコンサート。トラディショナルなレパートリーと、曲ごとに施された新しいアレンジが耳に心地よいヘマの声で丁寧に歌い込まれた、クオリティーの高いコンサートとなりました。ヘマ・カバジェロは、いい歌を聴かせてくれる現代のカンタオーラの中に名前の挙がる歌手の一人です。

写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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