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第128回 フェスティバル・デ・ヘレス 2018 サラ・カレーロ「Petisa Loca」/Festival de Jerez 2018 Sara Calero

3月8日は何の日かご存知ですか?1975年に国連が定めた「国際女性デー」です。この日は世界的に、あらゆる女性を祝う日らしく、スペインでも「おめでとう!」と声をかけられ、恥ずかしながら、この日のことを知らなかったもので、最初は戸惑いました。20年以上前からこの日に日本にいないので、実際に目にしたことはないのですが、日本各地でも「国際女性デー」にちなんだイベントが行われていたようです。日本にいた女性の皆さん、この日に「おめでとう」と言われましたか?

JAVIERFERGO_CALERO_008.jpg国際女性デーというものを制定した背景には、参政権などにおいての男女間の不平等や女性差別があります。一口にマチズモ(男性優位主義)と言っても、国によって、そのマチズモぶりには違いがありますが、どの国でも昔からマチズモは存在していました。スペインも同様。特にスペイン内戦後のフランコ政権下では、女性の権利が著しく制限されていました。女性は、労働も離婚も禁止。良妻賢母であることだけが求められていました。フランコ政権に支配されていたのは、1939年から1963年の間なので、そんなに遠い昔の話ではなく、今の中堅アーティストたちの親や祖父母の世代が経験してきたことです。

現代の日本では「核家族」が増えましたが、スペインでは、家族は一緒に住んでいることが多いようです。結婚しても近くに住んだり、たとえ学校や仕事の関係で離れてしまっても、日本に比べると家族や親戚が集まることは多いようです。なので「おじいちゃんっ子」「おばあちゃんっ子」も多く、昔のいろんな話を聞く機会もあり、スペイン激動の時代の歴史を直接聞いて育っています。

JAVIERFERGO_CALERO_004.jpgヘレスのフェスティバル中に当たった「国際女性デー」。この日の夕方の公演は、サラ・カレーロ(Sara Calero)の「ペティサ・ロカ(Petisa Loca)」。サラ・カレーロは、以前ご紹介したこともあるように、元スペイン国立バレエ団のプリンシパル。(過去記事はこちら)クラシコエスパニョール(スペイン古典舞踊)からフラメンコまで完璧にこなすダンサーです。彼女も祖父母に可愛がられて育ち、おじいちゃんから「Petisa Loca」と呼ばれていたそうです。Petisaとは"小さな"という意味、Locaは英語の"クレージー"。孫を可愛がっていたおじいちゃんがつけたニックネームなので、そのニュアンスは汲み取れるかと思います。その名前をタイトルにした彼女のソロ公演は、スペイン内戦を経験し、戦後生き延びるためにアメリカに移住した祖父の人生からインスピレーションを受けて作ったもの。その時代を生き抜いた様々な苦況下の女性達の姿をモチーフにして編み上げていった作品です。

開演に先立って、サラ自身の声で、メッセージが読み上げられました。
そこには、国際女性デーによせて、彼女からの二つの願いが込められていました。一つ目は、もっとたくさんの女性が、プロとして芸術の世界で創造力を発揮し、活躍しますように。二つ目は、ダンサーにとって、表現するための唯一のツールであるのが身体。舞台上で一糸まとわぬ女性ダンサーの身体が、どうか単にスキャンダラスで、挑発的で、奇をてらったもの、性的なものとされて終わりませんように、という願い。他の分野に比べ、スペイン舞踊及びフラメンコにおいては、ヌードという表現はいまだに好奇の目でしか見られていない傾向にあり、女性の身体を美しいものと捉える前に、エロティックなものとだけ捉えられて終わることへの懸念からでしょう。

image__Petisa_Loca_Sara_Calero_Jerez_0499_8904721862811481781.jpg作品は、同じ劇場で数日前にソロコンサートを行なった、カンタオーラのヘマ・カバジェロ(Gema Caballero)とのコンビで進められていきます。ギターには、ホセ・アルマルチャ(José Almarcha)。最初のシーンは、詩人パブロ・ネルーダ(チリ人でノーベル文学賞受賞)の詩をヘマが歌います。そこには、多くの犠牲者を出したスペイン内戦中のマドリードの様子が生々しく語られています。「この街で流された血を見に来てごらん!」と訴えるように歌うヘマ。

image__Petisa_Loca_Sara_Calero_Jerez_0515_6670707551998502461.jpg続いて、サラが床から起き上がりながら踊り始めます。それはまるで、路上で血を流して亡くなった人たちの身体から魂が抜け出して立ち上がり、この世に思い残した何かを表しているような切なさを感じさせるものでした。

ヘマから首に十字架をかけられての踊りは、怒りと悲しみで行き場を失った魂を鎮めるかのよう。サルト(=ジャンプ)などのスペイン古典舞踊のテクニックをふんだんに取り入れたバイレで、カンテと見事に絡んでいきます。

JAVIERFERGO_CALERO_001.jpgこの「供養」的な場面でスペイン内戦が終りを告げますが、ここからの"終戦後"が当時の人々にとっては、さらなる闘いの始まりでした。フランコ政権下、反対派であった人民戦線側とみなされた人々への大量の死刑宣告により、多くに人が海外に亡命。スペイン国内でも弾圧と規制の中、女性の権利はことごく剥奪されていきました。

舞台の中央には、小さな木のコンテナ箱があり、そこからサラが衣装や小物を出して、それぞれの場面を踊っていったのですが、このコンテナは、船に乗って国外に出たということを示唆していました。また、サラ自身が船の帆となるようなフォーメーションも作り、場面はスペイン国外へと転換することを表わします。国外では"亡命者"。生きていくためにはなんでもしなくてはいけませんでした。娼婦に身を落とした女性もいました。アメリカ、アルゼンチン、キューバへと渡った女性たちを待ち受けていた貧困と亡命者への差別。そんな中で、たくましく、美しく、悲しみを乗り越えて生きていく女性たちへの想いを織り込みながら、女性の様々な人生や表情を踊りで表現しているように見えました。

JAVIERFERGO_CALERO_007.jpg小悪魔的な夜の女からマラカスを持って踊るコケティッシュな女まで、どんな役でもこなし、モノトーンにならないバイレ。衣装はミニマムで、むしろ身体の線を隠すことなく出して、全身で表現をしていました。ロシオ・モリーナもそうですが、自らごまかしの利かないシチュエーションを作り出し、全てをさらけ出して踊っても、一瞬たりとも隙のない美しいフォルムを保つのは至難の技です。ブエルタ(回転)やクラシコ独特の体の使い方が曲や場面によって使い分けられ、フラメンコを踊るときも、クラシック出身の踊り手にありがちな上品すぎるフラメンコにも陥ることもなく、力強く、ペジスコ(キュッとつねられるような感覚)を感じさせました。

image__Petisa_Loca_Sara_Calero_Jerez_0920_7284206279742766460.jpg音楽に合わせて綺麗に踊ることだけではなく、何かを「表現」することを大切にするサラ・カレーロ。それ故に、マエストロたちが作った伝統的な振り付けをそのまま踊るだけでなく、自分自身の言葉(踊り)で表現したいと、誰もが憧れるスペイン国立バレエを自ら退団したという経歴の持ち主。国際女性デーにふさわしい、女性を描いた作品の公演でした。

今回は舞台の内容だけなく、スペインの歴史にも少しふれてみました。予備知識を持って観ると、少し違った見方もできるかもしれません。もちろん、予備知識がなくても、クオリティの高いクラシコ・エスパニョールとフラメンコで、十分楽しめる作品です。たっぷりトレイラーをご覧になりたい方は、下記をどうぞ。絶妙なパリージョ(スペイン舞踊のカスタネット)や得意のサルトの場面もちらっと観ることができます。

写真/FOTO : Copyright to ANA PALMA/ deflamenco.com(https://www.deflamenco.com/) & JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.

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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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