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第139回 Flamenco On Fire 特集 Vol.7 ホセ・デル・トマテ、シガラ、ベレン・ロペス/Flamenco On Fire Vol.7 José del Tomate, El Cigala, Belén Lopéz

_FE_6062.jpgスペインでは、クリスマスプレゼントはサンタクロース(スペイン語ではパパ・ノエル)ではなくて、東方の三博士=レジェス・マゴスが1月5日から6日かけての夜に持ってきてくれます。なので、まだまだクリスマスシーズンは続いていますが、日本では「洋」のクリスマスから「和」の元旦へ向けて、2018年もカウントダウンに入りました。特に今年は「平成最後の」という言葉がついて周り、この1年だけでなく、平成の30年を振り返る年末となっていますね。

スペインのフラメンコ界の2018年を振り返っても、色々なことがありましたが、身近なところでは、来日回数も多く日本人との交流範囲も広かった、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラのカンタオール、ファニジョーロ(Juanilloro)が、9月に38歳の若さで急逝。セビージャでは、4月にモントージャ・ファミリーでローレ・モントージャの母でもあるアントニオ・"ラ・ネグラ"(Antonioa La Negra)が、12月にはイサベル・パントーハの従兄弟にあたるカンタオールのチケテテ(Chiquetete)がこの世を去りました。

スクリーンショット 2018-12-29 15.23.04.png明るいニュースとしては、フラメンコ・フュージョンで80〜90年代に大人気を博し、2004年に解散したグループ、ケタマ(KETAMA)が復活しました。グラナダのギタリスト、フアン・アビチュエラの息子であるアントニオ・カルモナ(Antonio Carmona)がヴォーカル。そして、従兄弟のホセミ・カルモナ(José Miguel Carmona Niño ("Josemi")とアントニオの兄のフアン・カルモナ(Juan José Carmona Amaya ("El Camborio")の3人。それぞれ個別に活動はしていましたが、またあのサウンドが生で聴けるのは楽しみです。その他にも、マドリード観光でもよく訪れられるタブラオ「コラル・デ・ラ・モレリア(Corral de la Morería)」がレストランガイド、ミシュランの星獲得というニュースもありました。(ミシュラン認定を伝える番組より。ラジオTiempo Flamencoはこちらから)


新しい世代も育ってきた一年でもありました。フラメンコは歌舞伎同様、血統が重んじられるだけに、二世、三世への期待度は大きいものがあります。もちろん、歌舞伎の世界の部屋子や芸養子のように、アーティスト家系の出身でなくとも一流の仲間入りをすることもできます。

_FE_5437.jpg夏のパンプローナのフェスティバルでは、昨年のグラナダのギタリストファミリー、アビチュエラの血を引くフアン・アビチュエラ・ニエト(Juan Habichuela Nieto)に続き、今年は、ギタリスト、トマティート(Tomatito)の一人息子、ホセ・デル・トマテ(José del Tomate)が初参加しました。今年二十歳になったばかりですが、2歳からギターを弾き始めたとのことなので、既にキャリア18年。しかも、通いで習うお稽古事としてではなく、生まれた時からギター、そしてフラメンコの大師匠の元で育ち、たくさんのフラメンコ達に囲まれて培われた感性は、疑いようもなく期待に応えてくれるもの。ギターを教えたのは、もちろん父であるトマティート。11歳くらいからギタリストとしての道を歩むことを意識し始め、13歳でその決意を固めたようです。父のレパートリーだけでなく、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)、サビーカス(Sabicas)、大叔父にあたるニーニョ・ミゲル(Niño Miguel)の曲などを弾いて腕を磨きながら、父のコンサートでセカンドギターも務め( Flamenco On Fireでも初日に出演。)、アーティストとしてのあり方も学んだのでしょう。オフステージでは、トマティート同様、スターオーラを纏っていながら、その言動はとても自然で、いい意味で普通の感覚をちゃんと持っているように感じました。

スクリーンショット 2018-12-29 15.43.54.pngフラメンコの目利き(この場合は耳利き?)や実力あるミュージシャンがたくさんいるスペインでは、大スターの息子というネームバリューだけではメッキはすぐに剥がれます。幼い頃から、既にスターである父がどれだけ練習をしているかも目の当たりにした上で選んだアーティストの道。ペーニャやタブラオ、父との大舞台でのコンサート、他のアーティストとのコラボと経験を積み、満を辞して、20歳になる今年、ファーストアルバム「プラサ・ビエハ(Plaza Vieja)」をユニバーサルレコードからリリースしました。アルバムの共演者はさすがに豪華で、デビュー作にして、エル・シガラ(El Cigala)、デュケンデ(Duquende)、モンセ・コルテス(Montse Cortés)、姉であるマリ・アンヘレス(Mari Angeles)らが歌で華を添えています。

スクリーンショット 2018-12-29 15.45.13.pngパンプローナでは、「バルコニーからのフラメンコ」に2度出演。サビーカスの生家のバルコニーでは、父のグループでも歌っているキキ・コルティーニャ(Kiki Cortiña)の伴奏。そして市庁舎のバルコニーでは、父と共に登場しました。秋には父の盟友でもあった故パコ・デ・ルシアと共演したことのあるアーティストで構成されるパコ・デ・ルシア・プロジェクトのコンサートにも出演し、フラメンコの次代を担う若手として着実にキャリアを重ねています。

昼間の12時から45分おきに市内3箇所のバルコニーを使っての「バルコニーからのフラメンコ(Flamenco en los balcones)」。地元の人々も無料でフラメンコ音楽を楽しめ、しかも登場するアーティストのラインナップも素晴らしいということで、3年目にしてすっかりフェスティバルの名物となりました。場所や時間によって、日差しが強く射し込んだり、雨の日もあったりと出演者、スタッフ、そして観客も屋内のコンサートに比べるとコンディションは万全とは言えませんが、それでも引き受けてくれるアーティスト、集まってくる観客、そしてベストな状態を作ろうと奔走するスタッフによって、今年もつつがなく開催されました。

_FE_7070.jpg最終日には、前日のエバ・ジェルバブエナの公演に出演していたホセ・バレンシア(José Valencia)がギタリストのパコ・ハラーナ(Paco Jarana)の伴奏で、ヘミングウェイが常宿にしていた部屋のバルコニーから歌いました。プレゼントされた赤いスカーフを首に巻いた二人の姿は、パンプローナ名物の牛追い祭りのユニフォームのようでした。(左:室内でスタンバイ中の二人)


_FE_7218.jpgフェスティバル最終日の大劇場最後を飾ったのは、2003年にリリースされた、キューバ人ピアニストのベボ・バルデス(Bebo Valdes)とのアルバム「Lagrimas Negras」の大ヒットで、幅広いファン層を持つフラメンコ歌手、ディエゴ・エル・シガラ(Diego el Cigala)のコンサート。浅黒い肌に鋭い眼差し。カールした長い黒髪でハスキーボイスのシガラは、その歌唱力だけでなく、容貌からも"いわゆるフラメンコなイメージ"そのもの。それもあってか、スペイン以外の海外でもフラメンコアーティストとし認知度も高く、お客を呼べるアーティストの一人でした。

_FE_7280.jpg当然、この日も会場は満員。地元パンプローナ以外からもこの日のために多くの人が集まっていたようで、チケットも早々に売り切れていました。定番となりつつある、開演時間遅れを経て、ギタリストのディエゴ・デル・モラオ(Diego del Morao)が演奏を繋ぐ中、シガラが登場。現在はドミニカに住んでいるシガラは、以前とは風貌が変化したような...人々は、3年前に奥様を亡くしてから体調も芳しくないんだと口にしていました。

コンサートは、前半はフラメンコ、後半はキューバ音楽やボレロを。途中、フェスティバルのポスターを昨年に引き続き担当したクリエーターでシガラの友人でもあるミケル・ウルメネタ(Miel Urmeneta)によるバーチャルリアリティードローイングが入りました。下記の動画でその様子がご覧いただけます。



コンサート中、お酒を切らすことなく飲み続け、ステージ上に姿がない時間も結構長かったのですが、ギターには、パケテやホセミ・カルモナが加わり、Jaime Calabuch 'Jumitus'のピアノの演奏もコンサートを大いに助けました。最後は客席にいたトマティートが舞台に上がり、少し沈みかけた空気をぐっと盛り上げてコンサートはなんとか無事に終了。


スクリーンショット 2018-12-29 16.03.26.pngそしてこのコンサートに続いて、場所を変えてのフェスティバル最終公演は、バイラオーラのベレン・ロペス(Belén Lopéz)。公演のプレゼンターは、ベレンの亡くなった母親と同じ、コルドバ生まれのブランカ・デル・レイ(Blanca del Rey)。マントンを使ったバイレでは右に出るもののいない大御所バイラオーラであり、マドリードのタブラオ、コラル・デ・ラ・モレリアのディレクターでもあります。ベレンが幼い頃から知っていて、娘のように目をかけているようです。

_FE_7543.jpgベレンはど迫力のバイレで、舞台に上がるとワイルドに豹変し、いかにもヒターノのファミリー出身という感じですが、彼女は、前述したように歌舞伎でいうところの芸養子。つまり、家族は誰もフラメンコアーティストだったわけではありません。5歳にして舞台に立ち、踊りの才能をメキメキと現しはじめた娘をみた母親が、娘にダンサーとしての道を歩ませるためにそれまで住んでいた家を抵当に入れて、一家でマドリードに引っ越してきたようです。まずはマドリードのコンセルバトリオに入学。それゆえ、バレエの基礎もでき、ワイルドな踊りの中にもバレエテクニックを取り入れているところがあるようです。

家計を助けるためにも早くからタブラオで働き始め、卒業後、15歳からは本格的にプロとして国内外で踊り始めました。まだ30代前半ですが、アーティストとしても、人としても相当の経験と苦労を乗り越えてきた強さが、あのバイレに現れているのかもしれません。真に魂のこもった、これぞフラメンコ!というバイレを堪能できた公演。アーティストの中にも彼女のファンは多く、最後は観にきていたアーティスト達がどんどん舞台に上がって、華やかなエンディングとなりました。



回数を重ねるごとに充実しながらも、新しい試みも取り入れながら成長しているスペインの北で行われる夏のフラメンコフェスティバル、Flamenco On Fire。

今年はこのフェスティバルとバスクの美食を絡めて、日本からもお客様に来ていただきました。来年はどんなサプライズがあるか今から楽しみです。是非、これからもご注目ください。

写真/FOTO : Copyright to Javier Fergo/ FLAMENCO ON FIRE , Rafael Manjavacas/deflamenco.com, Makiko Sakakura
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.

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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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