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第140回 フェスティバル・デ・ヘレス 2019 vol.1 ホアキン・グリロ、アルヘンティーナ、ホセ・バレンシア、マリア・パヘス、レラ・ソト/Festival de Jerez 2019 Joaquín Grilo, Argentina,José Valencia,Maria Pages, Lela Soto

今年で23回目となるヘレス・デ・ラ・フロンテーラのフラメンコフェスティバルがスタートしました。ヘレスは、シェリー酒の産地で、シェリー酒ウィークなるイベントを展開したり、「ワインの街」(シェリー酒はヘレスのワインとも呼ばれています)としてヨーロッパにアピールしたりと、フラメンコ、馬術と並ぶヘレスの代名詞。

日本では、ドライシェリー=ティオ・ぺぺでしたが、近年は、隣町のサンルーカル・デ・バラメダで作られる若いシェリー酒、マンサニージャも含め、様々なメーカーのシェリー酒が飲めるようになりました。しかし、ここへレスの地で飲むと不思議と美味しさが違います。もちろん、お値段も。そんなシェリー酒の街らしく、今年も公演の記者会見はシェリー酒の樽に囲まれた建物の中で行われています。

初日の記者会見会場での楽しみは、へレスのマエストラ、アンヘリータ・ゴメスに会えること。翌日からはクラスが始まってしまうので、この日だけは顔を出せるのだそうです。数あるフラメンコの曲種の中でもよく踊られるブレリアという曲種がありますが、へレスのブレリアには独特の「粋」があります。このアンヘリータのバイレにはその「粋」が溢れており、へレスをご紹介するにあたっては是非知っておいていただきたいアーティストです。



今年のフェスティバルのオープニング公演は、メイン会場のビジャマルタ劇場での地元へレスのバイラオール、ホアキン・グリロの公演でした。タイトルは「LA CALLE DE MIS SUEÑOS」。CALLEは英語のStreet、SUEÑOは夢という意味。「夢」を実現するコンサートだとグリロが記者会見で言っていた意味は公演を観て分かりました。

JAVIERFERGO_GRILOSUENO_01.jpgまず幕前に、夢の世界に誘う妖精(妖怪?小人?)が登場。スペイン語ではこれをDuende(ドゥエンデ)と言いますが、外国人がフラメンコの番組を作ると必ず取り上げたがるフラメンコの持つ不思議な力と言われている"ドゥエンデ"とかけているのかもしれません。
舞台上には両手を縛られて操り人形のようにされたグリロ。しかし「夢の中では別人」「飛べなければ走れ、走れなければ歩け、歩けなければ這え、とにかく前へ進め」と呪縛を解くかのようなドゥエンデの言葉。
やがて、夢の中で、夢を一つずつ叶えていきます。

JAVIERFERGO_GRILOSUENO_02.jpg最初の夢は...スーツケースを持ったグリロが現れ、中から黒地にスパンコールのジャケットを取り出してはおり、次に白いきらびやかな手袋を取り出した時点で、観客は気がつきます。マイケル・ジャクソン!フラメンコのアーティストの中にはマイケルファンは多く、マイケルに因んだ刺青までしている人もいます。マイケルのスリラーを彷彿させる動きを取り入れた踊りやジェスチャーで会場を沸かせました。

続いて、フレッド・アステアになったり、アントニオ・ガデスの「ドン・フアンの死」をそっくりそのままの衣装と振付で踊ったりと、夢街道まっしぐら。
まるで結婚式のような白い衣装でのカップルの踊りでは、よく見ると相手役はグリロ本人の奥様。事前資料には書いてなかったので、ちょっとしたサプライズ?ちゃんと夢の中にも"伴侶"も組み込んでいました。

JAVIERFERGO_GRILOSUENO_07.jpgやがて夢の世界から段々と現実に戻るように、場面はへレスを思わせる設定に。カンタオーラのマイ・フェルナンデスは、へレスの名カンタオーラ、パケーラ・デ・へレスを模したように登場。へレスに実際にある通りの名前が書かれた壁の前でホセ・カルピオが歌うフラメンコの中でも根幹にある曲、ソレアを踊り、フラメンコダンサーである本来のグリロに戻っていきます。そして、最後はへレスらしくブレリアを踊ってフィナーレ。

グリロの踊りは男性的でセクシー。サパテアード(靴で鳴らす音)の自由さと絶妙なリズム感。かつて、ギタリストのパコ・デ・ルシアのグループでも活躍していただけに音楽に対する感性が高いのでしょう。そして、"酔拳"的な上体の脱力と決めのかっこよさの緩急のある踊りは50歳を過ぎても健在です。真似をすることはできませんが、男性ダンサーには参考にしてほしいアーティストです。


続いて夜中0時からは、シェリー酒ではおなじみ、ティオ・ぺぺを製造しているゴンザレス・ビアス社の敷地内にあるボデガでのコンサート。初日は、女性歌手=カンタオーラのアルヘンティーナのソロコンサートです。

JAVIERFERGO_ARGENTINA_03.jpgアルヘンティーナは、1984年アンダルシア州ウエルバ県生まれ。2006年、22歳の時にデビューアルバム「アルヘンティーナ」を出した時のことは今でもはっきり覚えています。同じウエルバ出身のアルカンヘルが後見人のように記者会見の隣にいて、名前も似ているけど声の感じも歌い方もそっくり!と驚いたものです。デビューアルバムはギタリストも録音地もへレス・デ・ラ・フロンテーラ。にもかかわらず、なんと今回がへレスのフェスティバル、初出演!

生で聴くのは久しぶりでしたが、随分と声が逞しくなり、厚みが出てきた様子。しかし、音響のスピーカーで表面のニュアンスが全て削り取られている感じがしたのが非常に残念。きっとマイクなしか薄い音響効果で聴けたら、彼女の良さがもっと出たのかもしれません。コンサートは、今までの自分のレパートリーの中からいろいろ選んで、幅広い曲種をカバーしました。へレスに因んで、グリロ公演同様、カンタオーラのパケーラ・デ・へレスへのオマージュを込めたティエント・ヒターノもありました。

JAVIERFERGO_ARGENTINA_05.jpg長身で豊かなロングウエーブヘア。後半の薄紫のロングドレス姿はディズニーのお姫様のようなアルヘンティーナ。二人のギタリスト、へレスのホセ・ケベド"ボリータ"とセビージャのエウヘニオ・イグレシアス、の伴奏と、同じウエルバ出身のパルマとコーラス担当の双子ロス・メジスを従えての勇姿はどちらかというと王子様的なかっこよさもあります。2時間という長丁場でしたが、後半になっても声が衰える様子は全くなし。やはりプロの声帯は違います。

会場から「ウエルバを忘れないで!」と声がかかるように、ウエルバといえば"ファンダンゴ"という曲種がお約束。おなじみのアロスノのファンダンゴを観客も一緒に口ずさむ場面もありました。



二日目からは早くも盛りだくさん。15時からペーニャ(愛好家の運営するフラメンコを楽しむ会、およびバルやコンサートのできる会場を併設した施設)でのコンサートが2箇所で開催されました。同時刻開催ということなので、ペーニャ・フェルナンド・テレモトでのホセ・バレンシアとフアン・レケーナのコンサートの方へ。
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人気の二人だけあって、会場は満席。へレスとは繋がりの深いレブリハ出身のホセだけに、観客とのコネクションは十分。個人的なオマージュも込めた歌詞も盛り込んで歌っていたようで、中には感涙する人もいました。フラメンコ歌手は本当にいろんなタイプがあり、声の種類だけでなく、出身地、そして印象も陰陽両方あります。ホセは陽のタイプで、そこに力強さ、包容力、時に鬼気迫る迫力があります。オペラ歌手にもなれるんじゃないかと思うほどのブレスの持ち主です。
ギターとカンテだけという、フラメンコの基本形。この手のコンサートがじっくり楽しめるのもスペインならでは。最後は会場に来ていた地元の友人が舞台に上がり、パルマ(手拍子)やバイレ(踊り)でブレリアを盛り上げました。

ビジャマルタ劇場では21時から、マリア・パヘスの「Una Oda al Tiempo」。Odaとは頌歌...詩の世界に詳しい方ならお分かりになると思いますが、叙情詩の形式のことらしいので、直訳すると「時への頌歌」となります。オーダの形式をスペインで若い人にも浸透させた詩人、パブロ・ネルーダの詩も作品の中で使われています。

JAVIERFERGO_PAGES_02.jpgこの作品は既に昨年秋、セビージャで公演されたもの。マリアとモロッコ人の夫、エル・アルビの共作となっています。プログラムを見ると、ほとんどが、エル・アルビの詩に踊りをつけたもの。3年くらい前から二人で同時代性、伝統、詩について話し合ってきた中から出来上がった作品とのことです。

会見では、20代の頃は、人生はずっと続くと思っていたけど、55歳になった今は人生の見方が変わったわ、何より大切なのは楽しむことを止めないことよ、と言っていました。確かに、舞台上のマリアは踊ること、歌うこと、舞台の上でスポットライトを浴びることを心から楽しんでいるようでした。

JAVIERFERGO_PAGES_08.jpgマリアの舞台の特徴でもある美しい色彩は、今回も衣装、照明、セットに十分発揮されています。彼女が以前から好きだと言っている「月」も場面によって色が変わったり、時を刻む振り子になったり。そして、沈む夕日にもなっていました。共演者では、いつものようにバイラオール、ホセ・バリオスの踊りが目を引きます。昨年のフェスティバルでは、ソロ公演をしています。そして、カンタオーラのアナ・ラモンの伸びやかで美しい声もマリアの作品には欠かせない存在です。

四季をたどるかのように展開する各場面。劇場公演での舞台の見せ方はさすがで、一場面の長さも長すぎずテンポよい運び。ソロもしっかりと踊られ、抽象的な作品の多かった近年の彼女の作品の中では、シンプルにフラメンコを楽しめるもの。次回観る時は、ゆっくりと各場面のテーマと照らし合わせながら観たいと思いました。



JAVIERFERGO_LELASOTO_03.jpg夜中のコンサートは、へレスの名門フラメンコファミリーの一つ、ソルデーラから、カンタオーラのレラ・ソトが登場。父はカンタオールのビセンテ・ソト、母はバイラオーラのルイサ・エレディア、父方のおじさんには、ホセ・メルセー(José Mercé),ホセ・ソト"ソルデリータ" (José Soto "Sorderita")、エンリケ・ソト (Enrique Soto),母方にはレイ・エレディア(Ray Heredia) 、エンリケ・デ・メルチョール(Enrique de Melchor)という錚錚たるメンバーのアーティストの中に生まれた超サラブレッド。
自分自身もソルデーラファミリーの血を受け継ぐ者として歌う意志がしっかりとある26歳。コンサートには父と二人の叔父もゲスト出演し、ギターもゲストのリカルド・モレノ以外は3人ともヘレスのアーティストの2世達。ヘレスのフラメンコの未来の担い手が出揃いました。

JAVIERFERGO_LELASOTO_04.jpgオープニングはミロンガから。少しハスキーで伸びやかな声で、正統派カンテを歌っていきます。途中、父と叔父達が舞台に上がり、ソルデーラファミリ−4人でのアカペラも。レラのお気に入りのバンベーラも歌い、最後は出演者全員が舞台上に集結し、賑やかにブレリアへ。その口火を切るのは父のビセンテ・ソト。湧き出てくるかのように、次々とレトラ(歌詞)を繋げ、最後はBien pagaで終わり。カンテは特に、発音やアクセントの問題に加えて、生まれ育った環境が大きく影響してくるもの。外国人には最も習得が難しい分野です。テレモト・ファミリーのマリア・テレモトと並んで、へレスを代表する歌手になってくれることでしょう。

写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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