スペイン情報満載!フラメンコ・ウォーカー

第141回 フェスティバル・デ・ヘレス 2019 vol.2 ホセ・デ・ラ・トマサ、ペリコ・パニェーロ、エバ・ジェルバブナ「「Cuentos de Azúcar~砂糖のものがたり~」/Festival de Jerez 2019 José de la Tomasa, Perico Pañero, Eva Yerbabuena, Sato Anna

毎日、アンダルシアらしい青空が続く中、今年のフェスティバルは順調に進行しています。以前は自由席だった会場でのコンサートも全席指定となったので、長い列を作ることもなくなり、ゆったりとバルでシェリー酒やタパスを楽しみながら開演を待つことができるようになりました。(とは言え、筆者は公演後脱兎のごとく移動しており、そのような優雅な生活はできておりません。)

JAVIERFERGO_PANERO_02.jpgゴンザレス・ビアス社のシェリー酒のボデガ(酒蔵)で三日目の夕方から、二人のカンタオールのコンサートが開かれました。一人目はペリコ・エル・パニェーロ。ギタリストの故パコ・デ・ルシアと同じアルヘシラスの出身です。とてもナチュラルなカンテで、ソレア、シギリージャ、ファンダンゴと歌っていきます。そしてブレリアでは、最初の淡々とした物静かな歌い方からガラリと変わり、立ち上がっての熱唱。ギターのアントニオ・カリオンの演奏が素晴らしく印象に残るもので、ファルセタに聞き惚れ、ギターを聴いているだけでも踊りだしたくなるような躍動感もありました。やはりフラメンコという踊りは音楽から生まれてきたものだなと実感します。

二人目は大御所、ホセ・デ・ラ・トマサ。セビージャ出身で、正統派カンタオールにして博学で、風格あるヒターノの紳士。そのオリジンはへレスにあるようで、自分の血筋の源であるへレスで歌うということで、今回のギター伴奏は、へレスのギタリスト、ホセ・ガルベスに声をかけました。二人は顔見知りではあったけど、一緒に仕事をするのは今回が初めて。いつもながら魂の込もった歌でミネーラ、ソレア・ポル・ブレリア、ファンダンゴ、シギリージャと歌っていきました。マイクなしで前に進み出て歌う場面では、大きな会場にも通るさすがの声量でした。


そして21時からは、エバ・ジェルバブエナの「Cuento de Azúcar」。以下、先だってシティオの眼の掲載した記事(「エバ作品を読み解く。 日本初演「Cuentos de Azúcar~砂糖のものがたり~」の見どころ」はこちら。)の続編となります。

ようやく生で観ることのできたこの作品。ゲスト出演の里アンナさんへのインタビューと記事を書くにあたって映像を何度も観ましたが、映像から感じた印象はすべて裏切られることはなく、むしろ確信を持てました。そして、当然ながら立体の迫力は映像を大きく上回り、より感動を覚えました。

JAVIERFERGO_YERBABUENA_01.jpg公演前、現地スペインの人から「日本とのコラボだね」と言われると、微妙な違和感が。「日本、というより奄美の文化とのコラボよ」と言い直したものの、「いや、奄美は日本だし」と思い直したり。作品の中に出てくる、里アンナさんの歌うシマ唄の歌詞の内容や別れの時の風習、悲恋に終わった男女の物語など、日本人なら誰でも説明できるか、と言ったらおそらく答えはノーでしょう。しかしこれは、ある意味、フラメンコにも通じるところがあります。フラメンコはスペインのものですが、ヒターノの言葉が混ざっているフラメンコの歌詞やそれぞれの曲の起源や内容をスペイン人なら誰でも説明できたり体験したりしているかというと、同じく「ノー」。

観客席にはフェスティバル期間中なので、スペイン人だけでなく世界各国の人たちがいます。幕が開くと、まずはエバ・ジェルバブエナ一人が銀色の波や貝に似たオブジェで形作られたサークルの中にいます。パコ・ハラーナのギターに合わせてエバの体に触れる手が不思議な動きをし、やがて闇に吸い込まれるように消えます。続いて奄美の歌姫、里アンナさんの歌が始まると、いつも何かしら雑音がする会場が、水を打ったように静まり返りました。まるでみんなが一音も聞き逃さないよう、息を飲んで耳を傾けているような空気感がありました。見事に響いた美しい歌声に「まるで魔法をかけられたようだった」「今まで聴いたことのない声だった」という声を終演後に多く耳にしました。エバの公演では以前も外国人シンガーを入れたことがありましたが、アンナさんの存在感はかなり大きかったようです。そして、エバのバイレもより熱を増し、素晴らしい相乗効果を生んでいたことは確かでした。

JAVIERFERGO_YERBABUENA_03.jpgオブジェに囲まれて「島」と見立てられたサークルの中で、アンナさんが一人で歌う場面は別れのシーン。島を出ている男性を見送る女性。別れの形見に何を置いていこう?自分の汗のしみこんだ、この手ぬぐいを置いていくことにしよう。という歌詞の送り節を歌うアンナさんの手には手ぬぐいが握られていました。この別れの歌は宇検村(うけんそん)という奄美の村に伝わるものだそうです。

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続く場面では、フラメンコのカンテ陣が熱唱。赤い大きなマントンをエバの上に被せていくシーンは、波に飲み込まれているような、そしてその波の赤さに血を感じる不思議な効果を感じました。これも実際に観ないと感じなかった点です。

エバとフェルナンド・ヒメネスが二人で踊る「カンツメ」のシーンは(詳しくはシティオの眼の記事を御覧ください)、逢瀬を楽しんでいるはずなのに、どこか何かに操られているような、そしてエバ扮するカンツメの悲しみが伝わってくるよう。それもそのはず。最初にアンナさんが歌う歌の歌詞は、死んでしまったカンツメをなんとか生き返らせたいのに、薬も効かない、お医者さんに見せてもダメで、どうしても生き返らせることはできなかったという内容でした。高度なテクニックを要する様々な動きを見事にシンクロさせた踊りも見どころです。

JAVIERFERGO_YERBABUENA_05.jpgエバがサークルの外に去っていく(=カンツメの死なのですが)のに気づかないように踊り続けるフェルナンド扮する恋人の岩加那。そこに、アンナさんがお魚の風船と共に登場。シリアス路線で来た流れの中で、このお魚風船にだけは会場からちょっと笑いが漏れました。しかしこれは、お魚=岩加那、アンナ=カンツメで、二人が楽しく過ごしていた日々の回想として、一人になった岩加那のバックに流れているシーンです。そしてアンナさんのセリフでは、十五夜のお月様はいつも美しく照らしてくれるけど、私の愛しいあの人が私に会いに来てくれる時は(二人の姿を誰かに見られないように)雲よ、お月様を隠して下さいというような内容。おおっぴらに恋愛のできなかった事情があっての女心を綴っています。
それに続いたフェルナンドのソロは、裸足のまま、サパテアードはありませんが、とにかくその身体能力と動きの美しさには目が釘付けになりました。ロシオ・モリーナの作品「Bosque Ardora」でも、難しい振付をワイルドでセクシーに踊りを目を引きました。そこにさらにエバの要求するさらに難しい動きが加わるという超難関を見事にクリア。ノリに乗っているバイラオールです。

こういうストーリーはプログラムには書いてないので、現地の方々に伝わっているかどうかは分かりませんが、歌の内容を知りたかった、知らなくても何かストーリーがあることは分かった、と言っている人はいました。

JAVIERFERGO_YERBABUENA_06.jpg音楽面で奄美とフラメンコが出会うのは後半。グインと呼ばれる裏声を使った独特のこぶしを利かせた奄美の声と三線。かたや、カンテ・フラメンコとギター。奄美の祝い唄「六調」とフラメンコの「タンゴ」が行き交う宴の輪が生まれました。ここでも二つの芸能が存在することによる相乗効果なのか、フラメンコカンテ陣がいつにも増して熱唱していたように感じました。そして、続くアレグリアス。そこに切り込んでくる、奄美の囃子に合わせても踊るエバ。まさに音楽を感じて表現する、フラメンコそのもの。

最後のエバのソロが終わると、湯呑みセットを持ったアンナさんの登場。ビデオで観た時よりもほんわかした労いの空気がよく伝わってきたのは、回数を重ねてきたこともあるのでしょうか。会場も温かい拍手を二人に送りました。

再度、幕が上がり、その中には二人が抱き合っている姿。それに対し、スタンディングオーベーションでさらに大喝采。へレスの会場は今まで観たことのないエバの姿、初めて聴く奄美の美声に大満足だった様子です。
ますます、2019年3月に控えた日本公演が楽しみになりました。実際に観ても、一人でも多くの日本の方に観ていただきたいとお勧めできる作品でした。エバとアンナ、二人のスターと優れたミュージシャン達をお見逃しなく!


写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.


⬛公演情報

●東京公演:場所 東京国際フォーラム ホールC

★超お得❣エバ・ジェルバブエナ来日公演特別優待チケット発売中!
 販売期日は3月4日(月)20時まで。
(フラメンコ・シティオメルマガ会員+アクースティカ会員限定!)
 詳しくはこちらから

3月22日(金) 19:00 「Cuentos de Azúcar ~砂糖のものがたり~」
3月23日(土) 14:00 「Cuentos de Azúcar ~砂糖のものがたり~」
3月24日(日) 15:00 「Flamenco Cardinal ~フラメンコの粋」
SS席 12,000円 [中央ブロック6列目以内保証]
S席 9,500円
A席 7,500円 (全席指定・税込)
U-25チケット 5,500円 (当日引換券・税込)
 ※観劇時25歳以下対象、当日指定席引換、要身分証明書/チケットぴあにて前売販売のみの取扱い。

●大阪公演:場所 森ノ宮ピロティホール (大阪府)
2019/3/26(火) 14:00開演「Cuentos de Azucar ~砂糖のものがたり~」

備考
※未就学児童入場不可
お問い合わせ
サンライズプロモーション東京
 0570-00-3337(10:00~18:00)
https://sunrisetokyo.com/detail/1822/


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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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