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第144回 フェスティバル・デ・ヘレス 2019 vol.5 ハビエル・パティーノ、"ボリータ"、ぺぺ・デル・モラオ/Festival de Jerez 2019 Javier Patino, José Quevedo "Bolita", Pepe del Morao

2019年のヘレスのフェスティバルも幕を閉じ、各地から集まってきたフラメンコファンやレッスン生で賑わっていたヘレスの街にもまた日常が戻ってきます。以前は「日本人がたくさん来る」と言われていましたが、ようやく東洋人の中での違いが分かるようになってきたスペイン人から「今年は中国人が多いよ」と耳にしました。実際に街の中でも、昨年に比べたくさん見かけました。フラメンコは、アジア全体にも広まっているようです。

さて、フラメンコは「踊り」である前に「音楽」つまり、聴くものであることは、よく書かせていただいています。ソレアなどの深くて重めの曲種で歌の入っているものは、イージーリスニングやBGMには向かいかないかもしれませんが、ノリのいいタンゴや中南米のリズム起源のグアヒーラスやコロンビアーナス、明るいアレグリアスなどは通勤や家事の合間になかなかお勧めできます。スペイン語の歌詞は分からないから...という方もおられるでしょうが、では日本の音楽シーンで市民権を得ているシャンソンやボサノバ、ジャズの歌詞は全てわかるかというと、よほどの語学経験のある方でないと難しいでしょう。しかしながら、フラメンコがこれらの音楽のように聴くものとして広まらなかったのは、踊りがあるかどうかの違い。フラメンコは踊りの方が先に有名になってしまい、フラメンコ=踊り、ダンスという分野に振り分けられてしまったからかもしれません。

IMG_5848.JPG聴いて楽しむフラメンコとしてお勧めしたいのが、フラメンコギターのアルバムです。フラメンコギターは独特のタッチとスピード感、躍動感、力強さがあります。筐体をパーカッションのように使うなどのテクニックもありますし、古典から現代ものまで幅広く楽しめます。ここへレスは、フラメンコギタリストも多く輩出しており、国内外からフラメンコギターを習いに来る人も多い土地です。そんな場所でありながら、ヘレスのフェスティバルの22年の歴史の中で、フェスティバル中の踊りや歌に対する賞の授与はあったのに、ギターはなかったのです。そこで、去年から「Guitarra con Alma」という賞が設けられ、その贈呈式が行われました。第一回の受賞者はマヌエル・バレンシアで、もちろんへレスのギタリストです。


一口にヘレスのギタリストと言っても、習った人や血筋によっても、演奏に違いがあります。フェスティバル中の公演では、ソロでの演奏をじっくり聴けるコンサートも開催されました。3公演全て、ヘレスのギタリストによるもの。

ハビエル・パティーノ、ホセ・ケベド"ボリータ"、そして最終日の最終公演のぺぺ・デル・モラオ。

JAVIERFERGO_PATINO_01.jpgハビエル・パティーノは1974年生まれ。2枚目のアルバムでもあり、このコンサートのあタイトルでもある「Deja que te lleve」には、自分の心に導かれて生まれた音楽で、聴く人を音楽の旅に案内したいという思いが込められています。昨年は歩くことが困難でソファーに座っての演奏でしたが、今年はソロコンサートで元気な姿を見せました。穏やかな曲のソロ演奏でスタートし、アンダルシアとタイトルをつけた、シギリージャへ。父へ捧げる曲です。

JAVIERFERGO_PATINO_04.jpg弦楽三重奏やゲスト歌手にコンサートでもよく組んでいるヘマ・カバジェロ、そして、パティーノにとって幼い頃から憧れの存在であったヘレスのカンタオール、サルモネテを招きました。サルモネテは現在、56歳。薬物で身体を壊したせいか年齢以上に見え、舞台から去る時も介助の人が導きました。しかし、本人曰く「神様が与えた才能」は奪われることはなく、歌は力強く、これぞフラメンコと思わせるもの。ビデオの後半に少しだけその様子が入っています。


JAVIERFERGO_BOLITA_01.jpgホセ・ケベド "ボリータ"も同じく1974年生まれ。若い頃から踊りの伴奏を敷いていたので、踊り、カンテのタイミングに精通しています。今回のコンサート「Caótico Redux」は、昨年秋にセビージャにビッグバンド構成で公演した「Caótico」の小規模版。ホーンセクションは3人のみです。フラメンコチームは変わらず、パーカッションに、かつて「UHF(Ultra High Flamenco)」というグループで一緒だったパキート・ゴンザレス、カンテにエル・ロンドロ、パルマはカルロス・グリロのヘレス出身の二人、コントラバスにはロシオ・モリーナの「アフェクトス」公演にも出ていたパブロ・マルティン・カミネーロ

JAVIERFERGO_BOLITA_03.jpgシギリージャでは繊細なトレモロが冴え、複雑なファルセタの中にシギリージャのコンパスが浮かび上がってくる演奏が印象的。アレグリアスでは吹奏トリオが軽やかに奏で、ジャズ的なアレンジというよりも、ずっとフラメンコ感が続いていました。ギターも終始歯切れよく、活気ある楽しいコンサートでした。ボリータは、初日のアルヘンティーナのコンサートでも弾いており、その記者会見で会った時に以前より痩せた印象。「ストレスだよ」と言っていましたが、コンサートで楽しそうに弾く様子に一安心。



JAVIERFERGO_PEPEMORAO_01.jpgぺぺ・デル・モラオは、1985年生まれ。アーティストの名前によくある「デ(デル)・〇〇」は、「〇〇の」という意味で、〇〇にはファミリー、出身地や母親の名前を入れることが多いです。ぺぺ・デル・モラオは、ギタリスト、マヌエル・モラオの孫、モライートの甥。つまり、モラオさんファミリーのぺぺ、ということになります。ちなみに、ぺぺという名前は、元は「ホセ」。その起源は「ジョゼ、ジョセップ」です。夜中12時からのコンサート。ここ近年、オフ・フェステバルのコンサートもこの時間にあり、そこではお酒が飲めたり、夜中じゅうやっていたりするので、最終日はそちらに流れる人たちも増えてきました。

JAVIERFERGO_PEPEMORAO_02.jpg舞台にはずらりと9脚の椅子が並びました。出演メンバーは皆、ヘレス、サンティアゴ地区のヒターノの仲間達。こてこてのフラメンコだけかと思ったら、途中、ハープ奏者が登場してコラボ。しかし、残念ながら音響のトラブルでマイクが音を拾えませんでした。その他にゲスト的にスポットで登場したのは、バイオリンのベルナルド・パリージャ、そして「同じファミリーであることが誇らしい」とギタリストで従兄弟のディエゴ・デル・モラオを紹介しました。

演奏中に、会場でアラームが鳴るという珍しいトラブルもありましたが、最後の挨拶で「今日のコンサートは、アルマ(魂)とアラルマ(アラーム)も込めて...」と冗談にして、無事コンサートは終わりました。

それぞれ、短いですがビデオがありますので、3人のギタリストの聴き比べはいかがでしょう。

写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.

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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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