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第147回 フラメンコの炎が北の地で再燃!Flamenco On Fire 2019特集 Vol.1/ Flamenco On Fire 2019 en Pamplona Vol.1

-nxEsuDF.jpeg猛暑の日本から、スペインへ。こちらでも湿気は少ないながら、夏らしい夏が待っていると思いきや、パンプローナのあるナバラ地方はかなり涼しい気候。例年になく、すでに長袖の上着や夜はコートでも十分なくらいの冷え込み。しかし、街中はフラメンコであちこち熱く盛り上がっています。(右:オープニングイベントに集まった人たち)

今年で、6回目を迎えるフラメンコフェスティバル、Flamenco On Fire。毎年内容はますます充実し、超一流アーティストの演奏を劇場だけでなく、野外でも無料で聴けるという、素晴らしいフラメンコとの出会いの場を増やしています。有名講師による無料のフラメンコ講座や人気ダンサーのレッスンも1日だけでレベルを問わず、一時間半で50ユーロ。スペイン的にはお安いというほどではありませんが、お試しで、しかもきちんとオーガナイズされているクラスなので、旅程の中にも組み込みやすい企画です。

NlpOlpnc.jpegさて、今年のオープニング企画は、パンプローナの大聖堂の鐘、ガブリエラの500周年を祝うオマージュ。大聖堂の前は、地元の人で埋め尽くされました。教会の合唱隊の賛美歌の後、大聖堂の左右にあるバルコニーから、それぞれカンタオールのダビ・デ・ハコバ(David de Jacoba)とランカピーノ・チコ(Rancapino Chico)が、鍛冶場で使う10キロある金床を叩き鳴らしてリズム合わせて「マルティネーテ」を歌いました。リズムをとるのは、先ごろ再結成して話題のグループ、ケタマのホセミ・カルモナ(Josemi Carmona)とフアン・カルモナ(Juan Carmona)という豪華な布陣。全員、ヒターノ(ジプシー)です。



KTBKOj-m.jpeg夕方17時からは、フラメンコについてのマスタークラス。アントニオ・ガデスのドキュメンタリーにも登場しているフラメンコ学の権威、ファウスティーノ・ヌーニェス(Faustino Núñez)氏の講義が、なんと無料!三日間のクラスですが、ほぼ満席。フラメンコの常識、非常識をズバッと指摘しながらの、曲種の説明がありました。数多くのフラメンコの曲種を体系化し、ギターと歌を交えて、その成り立ちや起源を分かりやすく説明。メキシコに昔からある歌が、フラメンコの曲の元になっていたり、南米起源の歌がフラメンコに形を変える様子など、興味深い内容でした。

tkR014s5.jpeg19時からは、今や生きる伝説とまで言われるカンタオール、ランカピーノ(Rancapino)の野外でのコンサート。ランカピーノは、翌日、市役所のバルコニーからのコンサートにも登場。劇場ではなく野外であっても、聴いてもらえるのは嬉しいし、楽しかったよ、と。バルコニーで一流の歌手に歌わせるなんてという意見も始まった当初はありましたが、アーティスト自身が楽しんで、しかもコンサートよりも様々な人たち、老若男女、地元、旅行者、通りがかり...、そういう人の耳に届く珍しい機会を楽しんでくれているのは一番かと。



qGgzUAMD.jpeg21時からは、メイン劇場のバルアルテで、早々にチケットの売り切れたサラ・バラス(Sara Baras)の公演「Sombras」。このフェスティバルでは、各公演の前に必ずプレゼンターが登場するのですが、初日の夜のこの公演のプレゼンターをやらせていただきました。昨年のエバ公演の時とは違って、スポットライトではないため、満員の客席の顔が丸見え、という状況。皆さんが、サラの公演を楽しみに座っておられる空気がひしひしと伝わってきました。そして、劇場の客席も男女比、年齢比も偏りなく混ざっている感じで、日本のように特に女性が多いということはありません。この辺りに、フラメンコに対する認識の違いとその認識が育つ環境の違いがあるように感じました。

TpLtyyry.jpegサラ・バラスは、アンダルシアのカディス出身。母親の教えで踊り出し、早くから注目されていたものの、家庭の方針でプロ活動は17歳から。1998年に舞踊団を結成してから、すでに13作品、公演回数は4000回を超え、カルロス・サウラ監督の映画や自身のドキュメンタリー、さらには、トム・クルーズ主演の「ミッション・インポッシブル」にちらりと登場したり、バービー人形が作られたりと、華やかな経歴のバイラオーラです。

r1RPeUBN.jpeg舞踊団の結成20周年を記念する作品の「Sombras」は、2年前に、このフェスティバルで初演。彼女の十八番である「ファルーカ」を随所に取り入れた構成。もともと男性のために作られたファルーカの踊りを、女性のサラがパンタロンで踊るというのは、20年前にはなかなか勇気のいることでしたが、サラの男性顔負けの超絶サパテアードとキレのある身体の動きで見事に踊り、女性がこの曲を踊る先駆けとなりました。40代後半となった現在でも、その踊りは変わらず。この日も、見事なサパテアードに拍手が沸き起こる場面が何度もありました。舞台美術でも、光と影を印象的に使い、完成度の高い舞台展開。カンテ(歌)は、ルビオ・デ・プルーナ(Rubio de Pruna)と昨年のフラメンコ・オン・ファイヤーでソロコンサートをした、注目の若手歌手、イスラエル・フェルナンデス(Israel Fernández)。

u-NiCLNc.jpegひと通りショーが終わると、サラがマイクを手にして、観客に挨拶。そして、「舞台上で、男性陣はほぼ全員パパだけど、ママは私と彼女だけなの。」と、舞踊団の一人と抱擁。そして客席に来ている、ライ病症候群の子供を持つママ友を讃える一幕も。「ありがとう!パンプローナ!私はここが大好きよ!」との熱烈ラブコールに、地元の人も大喜び。作品中も、各場面ごとに拍手をするタイミングが分かりやすく、エンターテイメント性の高いフラメンコで、観客を楽しませるアーティストでもあります。



xi05DH47.jpeg夜11時半からのコンサートは、ランカピーノ・チコ(Rancapino Chico)のコンサート。舞台上には、酒場の雰囲気を出すためか、お酒の置かれたテーブルと椅子。そして、3人のお客さん役が座っていたのですが、三方から舞台を囲む客席の配置なので、どう見てもこの人たちの後ろ側の観客は、全く舞台が見えなくなっているのです。最後まで、お客さん役の背中だけを見て終わるのだろうか?と案じていたら、そこはさすがに臨機応変なスペイン。一曲終わったところで、サクッと撤収。最初に気づかなかったのか?という声も聞こえてきそうですが、それも含めてフラメンコならではの面白さすら感じる一幕でした。

rbIQaRSc.jpegコンサートの始まりは、父親のランカピーノが息子と向き合って座り、カンテの心得を語り、息子に舞台を任せて降りていきます。父から息子へのカンテの継承をしっかりと受け止めるかのように、ランカピーノ・チコの歌は、トラディショナルで自然。正統派のフラメンコが堪能できるコンサートでした。奇しくも、ファウスティーノ・ヌーニェスのフラメンコについての講義で、フラメンコでよく使われる「プーロ」という言葉は、純血ということではなく、真に心から成されたものを言う解釈がありましたが、そういう意味での「プーロ」を感じさせる歌声のコンサートでした。


写真:ハビエル・フェルゴ© Flamenco On Fire /Javier Fergó
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坂倉まきこ(Makiko Sakakura) プロフィール

1994年から10年間ラテンアメリカで過ごす。そこでフラメンコと出会い、本場スペインに通い始める。数多くのアーティストの舞踊クラスに参加する一方、カンテ、ギター公演も見逃すことなく各地で鑑賞。日本へ帰国後、スペインでの経験を活かし、コーディネーターとしてスペイン人アーティスト招聘企画やフラメンコ通訳、翻訳、執筆などに携わる。現在も日本〜スペインの往復を続けながら、フラメンコの広報活動に従事。主な仕事にアルカンヘル来日公演の企画制作、NHK「黒木メイサ スペイン フラメンコ 魂の踊りと出会う旅」コ―ディネイタ―、DVD「アントニオ・ガデスその人生と舞踊の倫理」字幕作成等。スペインのフラメンコ誌Guia FLAMA 日本担当(www.guiaflama.com)、2012年ビエナル・デ・セビージャ:ヒラルディージョ賞審査員。

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