晴天が続いていたアンダルシアのヘレス・デ・ラ・フロンテーラですが、週末から曇り模様。とはいえ、気温はあまり下がらず、相変わらずの暖冬。日本から持ってきたカイロも出番なく終わりそうです。

フェスティバルも中盤にさしかかり、土曜日は、フェスティバル史上最多企画デー。昼12時から夜の12時開催のコンサートまで、なんと6公演。さらにはペーニャで2公演!体がいくつあっても足りないフラメンコまみれの日となります。

IMG_5594.jpgそんなスケジュールの中、今、ここヘレスのフェスティバルでしかできない体験、できるだけ多くのアーティストたちの作品や素顔に触れ、フラメンコを日本に紹介するための正しい情報をゲットしようとしていますが、そうすると足りなくなるのが文章を書く時間。ただの感想やブログなら時間はかからないのですが、この「フラメンコ・ウォーカー」はフラメンコやアーティスト、そしてスペインの紹介記事としての読み物になるようにと考えています。実際に今すぐ、スペインに来て本場のフラメンコを観ることができなくても、いつかチャンスがあるかもしれません。また、ビデオやストリーミングで観ることで、日本で本場のフラメンコを楽しむこともできます。好きかどうかはご自身の目で見て判断していただきたいですし、持っている知識やその時の自分の状態によって、心に響くものは変わってきます。お気に入りと出会って、フラメンコをより楽しんでいただくための情報やヒントをご提供したいと思っています。他人の書いた文章だけで、好き嫌い、観る観ないを判断されるのは、アーティストにとって残念なことでしょう。そのために、何をここに書いていくか、情報は正しいか、誤読はないかとチェックしていると素早く書くことができず、実際のフェスティバルの進行にはついて行っておりませんが、時期を問わずに楽しめる内容になるよう努めますので、ご容赦ください。映像のご紹介も将来的にもっと充実させる予定ですので、お楽しみに。

240220COMITRE_04.jpg舞台と客席の距離が近いライブ会場的なサラ・パウルで、今年最初に見た公演は、バイラオーラ、パウラ・コミトレ(Paula Comitre)の「カマラ・アビエルタ(Camara abierta)」。カマラはこの場合は、部屋という意味ですが、どちらかというとプライベート個室的なニュアンス。そこに、アビエルタ=オープンという言葉を持ってくるということは、プライベートな空間をあえて公開するといったニュアンスを含んでいるのではと推測します。室内、ならぬ舞台内では、パウラが一人で踊り、ギター、カンテ、パーカッションと言うシンプルな構成。劇場ほど使い勝手の良い会場ではないのですが、作品の雰囲気を出すにはむしろ良かったとも言えるでしょう。

DSCN3106.jpgパウラ・コミトレは、2013年に20歳そこそこでアンダルシア舞踊団のメンバーに。今回のフェスティバルの初日公演を飾ったラファエラ・カラスコが監督を務めた時に、厳しい選考を経てメンバーに選ばれました。小柄で可愛くて、メンバーの中でも一番下の妹的な感じでした。ラファエラの監督任期終了で、メンバーはバラバラになりましたが、翌年には、アンダルシア舞踊団に同じ時期に在籍したダビ・コリアのカンパニーのメンバーとして、このヘレスのフェスティバルに出演。その次の年は、ラファエラ・カラスコの公演に、そして今年はソロ初作品で登場です。(写真:会見場にて、左がパウラ・コミトレ。右はマリア・モレノ)

会見場に現れたパウラは、数年前の来日時に一緒に出かけた時と比べて、すっかり大人っぽくなっていて、アンダルシア舞踊団の後、数々のタブラオで踊り、実力と自信がついていることを感じさせました。

240220COMITRE_02.jpgこの作品は、メルセデス・ルイスとダビ・コリアが舞台監督や振り付けに協力、ラファエラ・カラスコも振付に参加。歌もアンダルシア舞踊団時代に歌っていたメンバーが揃い、パウラのソリスタとしての出発を支えています。

黒のバタ・デ・コラで登場し、ダビ・コリアの振付らしいキレのあるモダンな動きを入れながら踊っていきます。床に仰向けになりサパテアードをしたり、まるで川を流れていくような動きや、続くタラントの踊りの中では、バタ(ドレス)の長くて重い裾を回転しながら投げては取りを繰り返したり、非常に難易度の高い振り付けをこなしていきました。

240220COMITRE_03.jpg最近、多くのバイラオーラが取り入れている、舞台上での衣装替え。パウラも袖に引っ込むことなく舞台後方で髪をほどき、衣装替え。さっきまでのパウラとは別人のような野性味を出し、カルメン・アマジャにインスパイアされたマルティネーテを、歌とパーカッションだけで披露。最後のカンティーニャスは、アレンジの効いた振り付けで、ダイナミックでスピード感あふれるマントンさばき。フアン・カンパージョの切りさくようなギターの音やミゲル・オルテガのカンテも印象的で、ラストは床に広げたマントンの上に裸足で上がるという演出。共演者がパウラを包み込むような素敵な作品となっていました。
その一部は下記の映像で。本場スペインでは、"若手"と言われるアーティストでもそのレベルがいかに高いかを感じられました。5年後、10年後、誰がどう花開いているか、今から楽しみです。

DSCN3107.jpgフェスティバル4日目、ビジャマルタ劇場では、ヘレスのフェスティバルでは恒例となっている、日本を代表するフラメンコアーティスト、小島章司氏の公演「ロルカ・ポル・バッハ(Lorca x Bach)」が公演されました。小島先生自らのアイディアでのこの作品。元々オペラやクラシックもされていた小島先生は、日頃からバッハも聴かれているとか。ロルカ(フェデリコ・ガルシア・ロルカ:1898- 1936)に関しては非常に造詣が深く、実際ロルカの生家であり終焉の地となったグラナダでの催しにも招かれたとか。ロルカとの間に魂の繋がりすら感じておられるのではないかと思ったほど、舞台上での姿は、ロルカの詩の世界を体現しておられました。

演出にはいつもタッグを組んでいるハビエル・ラトーレ。2007年から、小島氏と組んで、スペインの詩人へのオマージュ作品を作ってきて、今回はようやくロルカに。"材料は一流だから、あとは料理の腕次第だ"と会見で述べていた通り、詩、音楽だけでなく、出演者も一人一人がレベルが高く、各演目ごとに題材に合った"調理"がしてあり、見ごたえのある作品となっていました。

中身は3部構成。1898年から1936年までのロルカの詩をモチーフにした第1部。続いて「バッハ・フラメンコ組曲」と題した第2部では、バッハの曲の中に、フラメンコの曲がチラッと姿を見せるような編曲の音楽。例えば、アダージョにファルーカ、フーガにガロティン、など。

250220KOJIMA_01.jpgオープニングは、バッハの「トッカータとフーガ」から。ハビエル・ラトーレの流れるような美しい動き。そこに、小島先生が登場し、ラトーレが誘うように舞台上での二人の踊りが繰り広げられました。音楽の一音一音を愛おしむように、動きの一つ一つに魂を込めて踊っているように感じた小島先生の姿。第3部の「芸術とドゥエンデの幾何学」では、80歳というご年齢で、健康上でも様々な危機を乗り越えてこられたにも関わらず、力強いサパテアードも入る気迫のバイレの「タラントス」で、圧倒的な存在感を示しました。「踊りが私に命を与えている。踊り続けることで生かされている」との言葉通り、音楽に突き動かされるような舞姿。本場スペインで、名実ともにフラメンコアーティストとして認められている小島章司に、惜しみない拍手が贈られました。

250220KOJIMA_02.jpgオープニングも含めて13幕。その中でも印象的だったのは、黒のマントンを巧みに使ったホセ・マルドナード(Jose Maldonado)とカレン・ルーゴ(Karen Lugo)のペアの踊り。最初、ホセの前にいるカレンは、マントンに上半身が隠れていて、スカートだけが見える状態。まるで、ホセがスカートを履いているように見える状態。まるで一人が踊っているように巧みに動き、やがてで踊り出し、やがて女のカレンが姿を現し、二人での踊りになります。二人の距離は離れたり、近づいたり、またマントンの中に隠れたり...まるで一人の人間の中で、男性と女性の両性が共存したり、反目したり、時には自由に、時には束縛し合い...そこにロルカの姿が重なるように感じました

250220KOJIMA_07.jpg同じく第1部で「ラ・タララ」の曲で踊ったスペイン古典舞踊(クラシコ・エスパニョール)では、クラシコならではのスピード感、美しい角度での回転なども見どころ。2部でも、スペイン国立バレエ団のバイラリンがカルメン・コイのペアで、ガロティンを踊りましたが、スペイン舞踊のエスクエラ・ボレーラのテクニックが入ることで、より華やかな表現や、時にはコケティッシュさが加わっています。フラメンコと同様、スペイン古典舞踊もこれからも注目していきたいスペイン芸術の宝です。

そのほんの一部ですが、下記映像にて。

写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
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