ギター部門

<ギター部門総評>

若林雅人
●フラメンコギターにしか出せない音がある。フラメンコギタリストならではの音が聴きたい。

中谷伸一
●今年は等身大の実力を発揮した出演者が多かったと思う。それゆえ、聴衆に訴えかけるカラーも様々だった。将来性が楽しみな若いギタリストの中には、女性ギタリストが一人出場、確たる存在感を示した。とはいえ、新時代到来前の静けさ、といったギター部門の公演であった。

加部洋
●今年は伝統スタイルに根差した弾き方の出場者が多かった。言い換えれは、「フラメンコに聞こえない」と感じさせる演奏者はほとんどいなかった。そういう点では、地に足が付いた姿勢で好感が持てた。これが日本におけるフラメンコの発展の過程と考えられるのかどうか。今後を注目したいと思う。

1.和田健 君(ファルーカ)

和田健 君(ギター)
●美しい。優しさを感じる。でも何かものたりない。決めの迫力だと思う。速いフレーズは一音一音しっかり弾こう。最後のピカードが滑ったのが惜しい。(若林雅人)
●演奏終盤のトレモロ部分で、一瞬の空白があり、そこからラストも急ぎ足で音がダンゴ状態のまま終わってしまい残念。曲全体も平板な印象だった。ファルーカらしさを演出する端整な音づくりと、メリハリがほしいと思った。 (中谷伸一)
●サビーカスのスタイルを基にした伝統スタイルのファルーカ。音色が美しく、情感もあるので、そこがいい所だが、一番の問題点はピカードのフレーズの多くの部分で抜けが目立ってしまったこと。緊張もあるだろうが、練習不足のようにも思える。また、全体的にサラサラ弾き過ぎているのも気になった。もっと一音一音に気持ちを込めれば、リズムのタメも生れ、生き生きした演奏になると思う。(加部洋)

2.藤嶋良博 君(ソレア)

藤嶋良博 君(ソレア)
●ソレアの大きなコンパスが感じられない。スルリと流れてしまった。親指は弦にしっかり突っ込んで、ハッキリ弾こう。(若林)
●長髪にベスト姿という颯爽とした雰囲気でイメージ一新のソレア。中盤がやや間延びした感があり、もう少しスピーディさがあれば。氏のギター哲学を大胆に強調したほうが、5分の演奏時間の場合、より観客に伝わりやすいはず。(中谷)
●最初に気になったのは、右手の弦に対するタッチで、それが浅いためかギターが胴から鳴らずに弦だけが鳴っている印象だった。また細かいアルペジオが不揃いで、流れるようにきれいに聞こえなかった。モダンな音使いは美しかったが、もっとソレアのコンパスの気持ちよさを前面に押し出して欲しかった。(加部)

3.金沢賢二 君(アレグリアス)

 3金沢賢二 君(アレグリアス)
●うまい。元気よし。曲の始まる前から音を出して、やる気まんまん。ピカードが決まってる。だが全体に軽い。曲種の問題ではなく、出音とゴルペ音が硬いのと、色々なことをやりすぎたからだと思う。(若林)
●ラスゲアード、ゴルペを多用してアクセントをつけ、アルサプーアやピカードも駆使した疾走感あるアレグリアス。定番フレーズを随所に示し、エンタテイメントに徹した印象。「サザナミ」というより、「怒涛」の演奏だった。とはいえ、存分に持ち味は出ていたと思う。(中谷)
●モダンなアレグリアは凝ったことをやろうとする余り、返ってワンパターンなってしまうことが多いが、金沢君のオリジナルは「弾き過ぎ」という意見もあるが、アレグリアの明るさやわくわく感が出ていた好演だったと思う。ただ1箇所、低音からの親指フレーズが抜けてしまったのが残念だった。(加部)

4.伏見かるな さん(タランタ)

伏見かるな 君(タランタ)
●かっこいい。曲頭の親指の音に凄みあり。間の取り方に色気あり。ミスタッチはあったが一音一音丁寧で良い。ただ一曲を通しての盛り上がりに欠けた印象。(若林)
●オーソドックスなタランタを無難に弾いた印象。凛とした演奏姿勢がいい。女性だから、という音量や力感の不足は、PAを通した限りでは感じられない。むしろもっと自由に、オリジナリティを追求していいのでは。新たな感性を、日本のギター界にひらめかせてほしい。(中谷)
●まずイントロの、女性とは思えない太い充実した音に驚かされた。そしてタランタへの生半可ではない深い思いを次に感じた。しかし、イントロが終わってパコ・デ・ルシアのファルセータになって以降細かいミスが出て来てしまった。トレモロもシビアに見れば不揃いだった。タランタのアイレは充分に感じられたので、あとはいかにミスを少なくしていくかだと思う。(加部)

5.今田亨 君(ブレリア)

5今田亨 君(ブレリア)
●曲頭のアルペジオが美しい。コード展開も美しかったが全体のつながりはもう一つ。コンパス感が弱いのとゴルペ音がカチカチするのは気になる。ラスゲアードは低音弦もしっかり鳴らそう。(若林)
●押し出しの強いギター。音圧も十分にあり、言わんとすることがはっきりと伝わる。小細工なしのストレートな演奏だが、中盤の展開が単調に流れ、コンパスも一瞬不明瞭になるときがあった。それでも若い氏の中には確固たるポリシーのようなものが見え、筆者はそれを買う。堂々とした男らしい構えも良かった。(中谷)
●アルペジオとピカードを主体にした、流れるようなイントロからしばらくは素晴らしかった。しかしブレリア独特のリズムが入ってきて、ラスゲアードやセコを多用するようになってから、急にブレリアのノリが出なくなった。そしてまた最初のテーマの戻ると良くなった。結論的に言えば、ラスゲアードやセコを使ったブレリアの独特のリズムのニュアンスを徹底的に鍛えるべきだと思う。(加部)

6.江戸裕 君(ソレア)

6江戸裕 君(ソレア)
●モロン。丁寧なフレーズが美しい。 以前の新人公演の時より音が細くなった印象。弾き急いでしまったかな。コンパスをおおらかに、ハッキリ刻めば必ず格好良くなる。ディエゴ・デル・ガストールが大好きな筆者としては重厚さ「ペソ」が欲しかった。(若林)
●ディエゴ・デル・ガストールの影響が色濃く出た一昨年のブレリアで強い印象を残した氏は今年ソレアで登場。間を重視するスタイルと親指奏法は健在。ただ、正攻法の一方でどこかで遊びも必要なのかと、個人的には感じた。今回は準奨励賞を獲得。今後のソロ活動に期待大。(中谷)
●情感たっぷりのイントロ。古いスタイルにこだわった演奏で、メルチョールやディエゴ・デル・ガストールの顔が浮かんでくる。一音入魂のスタイル。しかし、それら先人たちのギターを鵜呑みにしているのではなく、自身のスタイルとして消化しているところが立派だ。少々のミスが惜しかった。(加部)

7.野路雄大 君(ソレア)

野路雄大 君(ソレア)
●哀愁を感じる。コンパスの輪郭は甘いが、ハイポジションでのファルセタは熱がありグッときた。ピカードは丁寧に弾こう。全体にゆっくり弾いた方が説得力が出ると思う。(若林)
●白髪を丁寧に整え、ダークスーツで弾く氏のスタイルは、まさしく渋いコンセルティスタ。毎年の演奏にも、その美意識が十分に発揮されている。もし賞を狙うなら、いきなりのイメチェンで、あえて速い楽しげなパロを選んでみてもいいのでは? あくまで個人的意見です。(中谷)
●セラニートのソレアへの挑戦は何度目なのだろう。その固い意志にまず驚かされる。過去の記憶を辿ってみると、以前はもっとゆっくりなテンポで練習曲のように弾いていたように思う。しかし今年はかなりノーマルなテンポで挑戦していた。これは遠大な計画なのだろうか。テンポが上がった分、ミスも出て来たのが残念だった。今後の行方を注目したい。(加部)

8.関根彰良 君(ソレア)

関根彰良 君(ソレア)
●落ち着いていて良い。親指で弾く6弦が気持ち良い。トレモロのフレーズは会場に大きな景色を作った。丁寧で美しいのだが核になるものが欲しい。うまいが盛り上がりに欠けた印象。(若林)
●ジャズ畑からフラメンコギターへと足を踏み入れた氏らしく、軽やかなソレア。ソレアの演目が三連続だったが、見事にカラーが分かれた。素直で聴きやすく、演奏に安定感があるのは、踏んできた場数の多さだろう。ラストが唐突だったが、将来に期待を持たせる雰囲気。(中谷)
●伝統スタイルを基本にした情感あるソレア。イントロの後の低音にミスがあったので、その動揺があったとすれば、普段はもっと上手く弾けているのかもしれない。倍テンポのトレモロが美しかった。エンディングの盛り上げもスムーズだった。(加部)

9.中川浩之 君(タランタ)

中川浩之 君(タランタ)
●勢いのあるマッチョな音。舞台が客席にぐぐっと近づいた。速いピカードが弾ききれていないが、音の輪郭はハッキリしていて気持ち良い。ただ曲種を考えると音に色気が欲しい。(若林)
●骨格のはっきりしたタランタ。堅実な演奏で大きなミスも無く、曲のイメージは十分に伝わった。ただ賞を競う場合、リブレ系の曲は表面的に地味な上、速弾きやコンパス感のような、わかりやすいアピールがしにくいので、一発勝負の場では若干不利な気がする。(中谷)
●これは楽器の選択の問題で致しかたないことだが、今回の音響の状況下では出る音が金属的に聴こえた。演奏はきっちりとハッキリした音で好感が持てた。ただ、速いピカードのパッセージの音抜けが残念。更にめりはりをつけて、つまり速いパッセージは更に早く、逆に粘るところはもっと粘って弾けば、表現力は上がると思う。(加部)

10.鈴木宏宜 君(ブレリア)

鈴木宏宜 君(ブレリア)
●気持ちいいコンパス。パリージャみたい。丁寧にコピーしている。メジャーになってからの展開は急に終わってしまった印象。技術はあるがちょっと淡白。熱と太さが欲しい。(若林)
●若きハイテンションで突っ走ったブレリア。楽しそうな様子とノリが二重丸で、目を閉じて上向き加減に弾くさまは、なかなか堂に入っている。ラストまで速球一本槍の真っ向勝負で、演奏時間も短かったが、中だるみもなく、爽快だった。向こう気も強そうで、面白そうな人材。(中谷)
●ブレリアのコンパス、アイレ等々すべてを正しく受け止めた上での演奏が素晴らしかった。唯一気になったのがアルサブーアで、リズムが多少つまって聴こえたが、その他は助言も無いくらいで、返って将来を安心してしまった。「のびしろ」が沢山ある。(加部)

11.岸元輝哉 君(ソレア)

岸元輝哉 君(ソレア)
●ガッツあり。親指の出す音とゴルペの音が独特。コンパスに乗ったときのフレーズが気持ちよい。技術的な問題はあるが、フラメンコな瞬間が何度もあった。ガンガン弾こう。(若林)
●一昨年は創作曲「天の川」、昨年は「ファルーカ」、今年は「ソレア」と、徐々にフラメンコ性を深める氏。今年はクラシック的な部分と、ソレア的な部分が、曲中で二つに分断されているように感じてしまった。だが、こうした挑戦の繰り返しで、殻はきっと破れるはず。(中谷)
●ソレアをより歌わせて表現しようとする「歌心」が感じ取れた。しかしピカードやアルペジオ、トレモロ等々個々のテクニックが不完全で、表現しようとする気持ちに追い付いていなかった。テクニック全般を鍛え直せば、かなり上手くなると思う。(加部)
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