ギター部門

ギター部門総評

若林雅人
●今年は全体的に技術レベルが高かった。20年前の新人公演を思い出すと、凄い時代になったものである。そういえば曲に入る前に音をだす演奏者が増えた。理由は様々だと思うが、 一度しっかりした沈黙をつくってから演奏を始めた方が、より良い緊張感がでると思いました。

中谷伸一
●新人公演への出場は、セルフプロデュース力も試される機会だ。が、その点今回は総じて平凡な印象だった。特に、黒シャツ・黒ズボンという、普段の伴奏者さながらの地味な格好は、大舞台でのソロの場に相応しいとは言えまい。特別イベントに登場のカニサーレス氏は、ダークグレーのスーツに銀のベスト、ポケットチーフとネクタイの柄を合わせた、シンプルだが主張あるスタイルで熱演。トマティートは水玉シャツ、パコの晩年の定番は黒ベストだった。何も一流の真似をしろとは言わないが、新人公演では1000人近い観客の目が集中する。主役として、一工夫する色気が欲しい。。

加部洋
●今年は昨年と同じく伝統スタイルに根差した弾き方の出場者が多かった。昨年に一歩磨きをかけた印象だ。今年大山君が化けたように、持続する飽くなき向上心が新たなギタリストを生み出すに違いない。

写真:©大森有起

1藤嶋良博 君(ソレア)

藤嶋良博(フラメンコ・ギター/ソレア)
●親指で弾く6弦の音が太く気持ち良い。一音一音ていねいな演奏。ただ、そのていねいさがソレアの流れを止めてしまう場面が何回かあった。背後にある大きな流れを優先するべきだと思う。(若林雅人)
●コンパスが途切れた、と感じる瞬間が何度もあったのが残念だった。起伏に乏しい点が踊り伴奏のように聴こえた時も。「フラメンコは早く結論を言わなければ、すぐ終わってしまう」とはパコ・デ・ルシアの言葉。何よりも演奏に切迫感が欲しい。(中谷伸一)
●まず感じたのは音響の不調。最初はマイクに近づき過ぎかと思ったが、やはり音響の調整の問題だ。そういう点では可哀そうだった。至って伝統的なスタイルだったが、スラーの曖昧さ、ピカードのタイミング、細かいフレーズの処理など問題点も多かった。後半テンポが上がってからの盛り上げは良かった。(加部洋)

2大山勇実 君(シギリージャ)

大山勇実(フラメンコ・ギター/シギリージャ)
●熱いシギリージャだった。ギターが良く鳴っていて、モライートのフレーズが気持ち良い。もう少し無音の部分を大切にしたら、さらに凄みのある演奏になったと思う。最後にギターをマイクに「ゴツン!」とぶつけたけど、ギターは大丈夫だったかな?(若林)
●ダークスーツをサラリと着こなし、落ち着いた演奏。低音弦をたくみに強調し、シギリージャの魅力を存分に客席に伝えた。曲構成、絶妙な間と安定した技術で、この曲種でよく見られる情感過多のもたつきに陥らなかったバランス感覚は特筆もの。(中谷)
●これまでとは格段に違う別人のような演奏だった。シギリージャのエッセンスをよく分った上で、伝統の味を出しつつ、強弱のメリハリを付けていた。特に低音のファルセータでは心憎い、泣かせるフレーズに満ちていた。更にピアニッシモのフレーズも極めて丁寧に弾かれており、その強弱の対比が演奏の質の高さを物語っていた。そしてムイ・フラメンコだった。(加部)

3廣川叔哉 君(アレグリアス)

廣川叔哉(フラメンコ・ギター/アレグリアス)
●美しいイントロ。盛り沢山の充実の内容。勢いのある気持ち良い演奏だったが、リズムの刻み方を整理した方が、もっと切れが出て明快になっ たと思う。エンディングの一発「バシャ!」という音が凄かった。(若林)
●氏の特徴はスピーディでキレの良い、疾走感ある演奏。だが、音がつながり走り過ぎる印象は、三年前と同様に感じてしまった。ハイスピードの演奏は、音符をノミで刻むように、一音一音美しくクリアな粒が連続した時にこそ、真価を発揮するのだが。(中谷)
●モダンなイントロには、さあこれから何が始まるのかという期待感があった。そして本題に入ったわけだが、一番感じたのはテンポの速さにフレーズがしっかり付いて行っていないところだった。もっとテンポを落としてでもキッチリ弾くべきだと思う。ノリやアレグリアらしさは出ていたので惜しい。(加部)

4塩谷経 君(ブレリア)

塩谷経(フラメンコ・ギター/ブレリア)
●アルペジオの輪郭がハッキリしていて気持ち良い。各フレーズもていねいでハッキリ聞こえた。ひとりでブレリアを弾くのは大変だと思うが、もう少しコンパス感が出ていたら全体が締まったと思う。もしパルメーロがいたら、相当格好良かったのではないかと想像しました。(若林)
●作曲はエミリオ・マジャとあるが、パコの名曲「アルモライマ」のフレーズが頻出するブレリア。勢いと若さで押す一方、どこか元曲を上からなぞるようなぎこちなさも散見。音自体は綺麗なので、後はテクニックの向上あるのみ。今後に期待。(中谷)
●音がクリアなのは持って生まれた良いところだと思う。しかしブレリア独特のノリが聴こえてこない。またアルサプアがリズムにはまっていなかった。演奏上の注意なり意識を、もう少しコンパスのノリの方に向けるべきだと思う。特にブレリアはフラメンコのなかで ノリを最も重要視される曲だ。(加部)

5和田健 君(アレグリアス「南風」)

和田健(フラメンコ・ギター/アレグリアス「南風」)
●清々しいイントロ。確かに「南風」だ。音色優しく美しいが、ちょっと寂しく物足りなく感じる時がある。ゴルペも遠慮がちな印象なので、しっかり打ってアクセントを出した方が良いと思う。曲の終わり方が曖昧なのがもったいない。(若林)
●基本的な弾弦の力が弱い(意図的に抑えている?)ので音量が小さく、ソフトな演奏。大きな舞台ではダイナミズムに欠ける感がいなめない。特にピカードが苦しく、ラスゲアードも撫でるような指捌き。アレグリアスならではの躍動感・華やかさが欲しい。(中谷)
●「南風」と題されたオリジナルのアレグリアス。その点は素晴らしい。しかしうきうきしたアレグリアスの明るさや楽しさが出て来なかった。主にそれはリズム感に由来すると思われるが、12拍子のコンパスをもう一度見つめ直す必要があると思う。易しいフレーズでもコンパスに乗っていれば曲は生き生きとしてくるはず。(加部)

6宇田川卓俊 君(アレグリアス)

宇田川卓俊(フラメンコ・ギター/アレグリアス)
●切れ味良く始まった。足を組まずにギターを膝の上に立てた姿が格好良い。トレモロ美しく、粒の立った音は見事。ピカードに迫力があったら、さらに決まったと思う。最後のお辞儀姿も決まっている。絵になる人だ。(若林)
●スタートでハウリングに見舞われた不幸もあるが、コンパスがスムーズに流れず、それが曲中盤まで影響した感がある。今どき珍しいクラシックスタイルの構えで、大きな破綻もなかったが、「コレ!」という目玉を、より一層強調する必要があるのでは。(中谷)
●サビーカスの有名な美しいアレグリアス。情感豊かで好もしい演奏だったが、細かいミスがなければ更に良くなったはずだ。そこが残念。エンディングの盛り上げは上手かった。(加部)

7金沢賢二 君(ソレア「ジカンノヤミ」)

金沢賢二(フラメンコ・ギター/ソレア「ジカンノヤミ」)
●ガッツあり。色々なアイデアが随所に散りばめられたオリジナル曲。フラメンコギター演奏を戦いに例えるのは変かもしれないが、何度もとどめを刺さないで一撃必殺の方が良いと思う。後半その元気の良さが単調に感じられた。耳に残るフレーズが欲しいところ。(若林)
●昨年アレグリアスで準奨励賞の氏は、今回ソレア。激しさとノリは相変わらずで、中盤のフレーズには独創性が光った。タイトルの「ジカンノヤミ」を簡潔に提示できればさらに良かったかも。終始猫背で長髪が顔を覆い、表情が見辛かったのが惜しい。(中谷)
●相当レベルの高い演奏。オリジナルということも高く評価されるべきだと思う。しかしその複雑で、モダンで独自の音世界は十分に弾き込まれていなかった。言いたいことがいま一つ分らなかった。ソレアの情感として何かが足りなかったのだと思う。更なる挑戦を。 (加部)

8関根彰良 君(ソレア)

関根彰良(フラメンコ・ギター/ソレア)
●落ち着いた始まりが良い。おおらかな進行に演奏者としての懐の深さを感じる。アルペジオのフレーズ美しく、後半のテンポアップ後も走ることなくしっかりと安定していた。欲をいえば、こちらを熱くするフラメンコな瞬間も見たい。(若林)
●迷いのない最初の一音が、太くいさぎよくて格好良かった。が、その後の展開が平凡に流れてしまった。しかしながら、筆者には氏の演奏姿勢・雰囲気ともに泰然とした様子が、昨年とは別人のように映った。この"慣れ"がプラスに働けばいいのだが。(中谷)
●昨年に続いて同じくソレアに挑戦の関根君。正確なテクニックに裏付けされた美しいソレアだった。パコ・デ・ルシアのファルセータでのミスが残念。細かいミスがなかったら相当レベルの高い演奏。来年あたり化けて欲しい。(加部)

9中川浩之 君(ソレア)

中川浩之(フラメンコ・ギター/ソレア)
●輪郭のハッキリした演奏。親指で弾く6弦の音に説得力があり気持ち良い。ひとつひとつの音がしっかり客席に届き、モロンのフレーズも力強かった。内面の熱いものが表現されていて後味良し。(若林)
●毎回着実な演奏でトレモロも綺麗だったが、やはり新人公演は"公演"なので、コンサート的な側面もある。となると、エンタテイメント性、あるいは聴き手をハッとさせる何かを曲に仕込んでほしい。演奏中ずっと下を向き、顔が暗い影なままも、やはり損。(中谷)
●伝統の香り豊かなソレア。音の一粒一粒がよく出ていた。特にプルガールの音が素晴らしかった。しかしその音の良さに比べて、コンパス感には足りないものがあった。12拍のコンパスをもう一度見直して欲しい。(加部)

10岸本輝哉 君(セラーナ)

岸本輝哉(フラメンコ・ギター/セラーナ)
●良い音だ。味のある音だ。景色が深い。自分の世界をもっている。リズムのとり方が大きく気持ち良い。深呼吸するような、語りかけるような 演奏は美しく、最後までその深い呼吸で弾き終えた。見事。(若林)
●ロマンチックで静謐な世界観の指向はよく出ていた。丁寧な弾き方だが、いかんせん弾弦が弱く、音の輪郭に奥行きが不足するため、美しいが単調に聴こえてしまう。また、氏も演奏中ずっと下を向いていた。自信無げに見えてしまう。もっと堂々と!(中谷)
●変則チューニングのセラーナ。それを生かしてギターがよく歌っていた。クリアな音色はマヌエル・カーノを彷彿とさせる演奏だった。時々あるミスがもったいなかった。もう一歩だと思う。(加部)
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コメント(1)

演奏については、語る立場にありませんが、私がかかわってきた、20数回の新人公演の中で一番行儀のいいギタリストたちでした。これまでは、毎年、遅刻や、楽屋入りしていても、スタンバイしない人がいて、進行助手や、舞台監督を悩ませる人がいたのですが、今年のギター部門の参加者は、みなさん、きちんとしていました。(こんなコメントなのが悲しいですが)

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