大沼由紀のバラよ、荒野に咲け!

¡ VIVA JERE ! 「Jerezanísimo」、「eco」、「CURSO de cante(DVD)」

 7月末の蒸し暑い日の午後、アルバロ(アギラール・デ・へレス)とマヌエル・デ・ラ・マレナとロシオ、そしてチャノ・デ・ヘレスが、私のスタジオのある中野までやって来た。
「ライブを企画して欲しい!」「楽しいことがしたいんだ!」「ユキ、一緒にやろうよ!」
ヘレサノ4人が集まり、機関銃のように繰り出す言葉はコンパスそのもの。一方の私は、足もまだ完治していないし、ライブ開催に伴う煩雑さも頭をよぎり、8月中にやりたいと言う彼らを前に、「そんな急に言われてもね、、、場所も難しいよ」とか言いながら、グズグズ。

いやしかし、ヘレサノ4人に囲まれて逃げることは至難の業である。なんのかんのと開催が難しい理由を言い連ねてはみるが、そんなことで引き下がる彼らではない。だって彼らはやりたいのだから!覚悟を決めて重い腰を上げ、エスペランサの田代さんに電話をする。
「田代さん、大沼です。今、ヘレサノ4人に囲まれてるんですけどね。」
「えっ、なに?どうしたの?」
「ライブがしたいって言うんです。しかも8月中に。」
「えっ、誰なの?」
「アルバロとマヌエルとロシオとチャノです。」
「えーっ???やろうよ。やりましょう。大歓迎ですよ。」

エスペランサと全員のスケジュールを摺り合わせたところ、8月19日火曜日なら出来ることが分かり、即決定。田代さんがすぐに情報をアップしてくれることになった。

日にちが決まると、誰かが「ライブのタイトルを決めよう!」と言い出した。皆めちゃくちゃ盛り上がっている。学生みたいだ。
「○○○はどうだ?」「△△△は?」
「俺はもう言ったから、次はお前が言う番だ」喧々諤々。
「Jerezanísimo!」誰かが言った。
「それだよ!」私が手を上げた。決定。

Jerezanoに-isímoという絶対最上級を付けた造語。響きがいいじゃないか。
めんどくさがりの私も、このタイトルで急にワクワクして来た。私はjerezanaじゃないけどね。でも彼らのヘレス魂を存分に発揮させる役を担えればいいかと。

こんな急なことで、果たしてお客様に来ていただけるのか、田代さんと二人で心配したけれど、それは全くの杞憂に終わった。一週間後チャノが作ったチラシが出来た時には、すでに予約打ち止めになっていた。


チャノ8月19日。満員のお客様の中、Bulería de Jerezで幕を開ける。あー、これだ、このコンパスなんだよ。限りないワクワク感と、それと同時に泣きたくなるような、光と影のような感覚。宇宙の果てまでも飛んで行けるような、でも、ぐっと重く手綱を引くような、その両極端が共存している。

これぞサンティアゴ!というチャノのギター。フィエスタの匂いが充満している。コンパスが笑っているみたいだ。マヌエルの重厚なカンテは、ペソのあるマルカールを誘い、踊り手の輪郭をグッと際立たせる。ロシオは、この若さでこの自然さで踊るってどういうことなんだろう。歌と共にあるバイレなのだ。
アルバロそして、アフィシオンに満ちたアルバロのカンテ。アルバロが、「俺は俺の力で歌ってるんじゃない。先人達が残したフラメンコへのレスペト、それが俺を歌わせているんだ」と言う。何度も、すべてはレスペトから、という言葉を繰り返す。それは私の胸を打つ。ドンドン打って来る。彼らは本当に心底フラメンコを愛していて、そして何よりもまず、深く尊敬している。彼らのアフィシオンの奥深さに触れると、自分のアフィシオンなんて無いに等しいんじゃないかって思わされる。圧倒されるのだ。すごいよ、ほんとに。そしてその純な心に泣けて来る。

ユキしかしフラメンコは懐が深く、そんな私をも巻き込んでいってしまう。

フィン・デ・フィエスタでは、マヌエルもチャノもアルバロもロシオも、ヘレサノでしかない一振りを披露し、Jerezanísimoな夜が終わった。
エスペランサ全員

10月は、"eco"という題が付いた公演のために、同じヘレスでも、プラスエラ地区のアルティスタがやって来る。ギタリストのドミンゴ・ルビッチと、パルメロのホセ・ルビッチは、私の公演ですでにご存知の方も多いかと思いますが、今やヘレスのフラメンコを支える存在だ。歌い手のエル・ミヒータは、温かみのある声質の中に、フラメンコの奥深さと味わいがたっぷり詰まってる。踊り手のカルメンは、10年前にヘレスのブレリアを教えるアナ・マリア・ロペスの助手として来日、その後踊り手として目覚ましい成長を遂げ、昨年ウブリケのナショナルコンクールで優勝するという快挙を成し遂げた。

これは、ヘレスのフラメンコに魅せられた日本人としては、私の次世代と言える大阪の秦晴美さんが企画したのもので、今回は福岡・東京・大阪の3か所で公演が行われる。彼女は大阪とヘレスを行ったり来たりしながら、ヘレスのアルティスタの招聘や、大阪でのご自身のブレリアクラスなど、文字通り日本とヘレスを繋ぐ活動をしている。

エコーチラシ表エコーチラシ裏

そしてもう一人、ヘレスに根を生やし、ヘレスのフラメンコを生活の中で味わうという、私がしたくても出来なかった生き方をしている日本人女性がいる。そんな彼女がプロデュースした、アルティスタも日本の愛好家もどちらも幸せになるような、素晴らしいDVDがあるので紹介させてください(アクースティカで購入可能です)。

「CURSO de cante pot BULERIAS de Jerez」
クルソデカンテ

チャノのギターはサンティアゴ、10月はプラスエラ、と書きましたが、その違いの説明も出てきます。ヘレスのフラメンコを身近に感じられること間違いなしです。

以前、踊り手のマリア・デル・マル・モレノと歌い手のアントニオ・デ・ラ・マレナ(マヌエルの弟)が開いたクラスで、サンティアゴはボデガ文化、プラスエラはバル文化、その違いがコンパスの違いにも繋がっていると聞きました。サンティアゴは、ボデガがある=経済的な余裕がある→フィエスタが開かれる、そう、フィエスタ命!一方プラスエラでは、バルに男連中が集まって、机を叩きながら歌う、聞き入る。何かこう、光景が浮かんで来ませんか?そういう下地があってこその、この違いなのかと納得。その後アントニオが色々歌ってくれて、これはどっちだ?と来る。クラス全員で、当たったー!とか、外れたー!とか、ワイワイガヤガヤ。

ヘレス話で長くなりました。
ではまた次回に!

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大沼由紀 プロフィール

フラメンコ舞踊家。日本大学芸術学部卒業後、フラメンコに出会い佐藤佑子に師事。1992年渡西。 ラ・トナ、アナ・マリア・ロペス、アンヘリータ・ゴメス等に師事。約3年のスペイン生活の中、特にヘレスのフラメンコに強く惹かれ、現在の自身の舞踊スタイル、教授スタイルへと結びついている。99年、中野にエストゥディオ・ブレーニャを開設。カンテを愛し、フラメンコの真髄へと突き進むその真摯な姿勢と深いアルテでカリスマ的な人気を誇る。
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