大沼由紀のバラよ、荒野に咲け!

長屋和哉ライブin増上寺『夢の通ひ路~無限の響き』での不思議な体験

東京タワー近くの増上寺で、
昨年の公演「FABULAE-フラメンコへのオマージュ」に出演して下さった
長屋和哉さんがライブをすると言うので、友人と出掛けて来た。

神社仏閣は本来好きな場所だが、こういう機会がないと、なかなか普段は行くこともない。
せいぜいお正月の初詣くらいだ。
思い起こせば高校生の頃、学校をさぼって、自転車でどこに行くかと言うと、神社やお寺だった。
他の土地のことは良く知らないが、私の田舎の会津若松市は、ちょっと自転車を走らせると、あちこちに神社仏閣がある。
古びた神社やお寺の境内に入ると、心がすっと落ち着いた。学校で皆が勉強している間に、誰にも知られることなく、シンとした場所にいることが、なんとも言えず楽しかった。

長屋さんはアンビエントミュージックというジャンルのミュージシャンで、
「おりん」や「シンギングボール」、「ゴング」などの生音と、
コンピューターを駆使して、独特の音楽を奏でる。

天井最初の30分はトークタイム。
畳敷きの部屋に座布団が並べられ、正座の人もいれば体育座り、
胡坐の人も。やっぱり畳っていいなー。この感触。この匂い。
草花図が嵌め込まれた天井の、それは見事なこと。

長屋さんとは昔からの知り合いというわけではないので、
初めて聞く話ばかりで、とても興味深かった。
徹底した孤独の中から生まれるものでないと、人と繋がらないんじゃないかとか。
それって私も全く同感。
気楽に楽しく作ったものは、受け取る側も楽しいんだけど、
相手の奥深くにグッと刺さるようなものとはちょっと違う。
点は点に刺さり、そこに繋がりの糸が生まれるのではないだろうか。

中学生の頃から西洋の音楽をずっと聞いて、
そういうものを自分でもやっていたけれど、何かこう、
自分のものでない形の上に乗っかっているような違和感を覚えていたとか。
音楽という国境がないように思えるジャンルでも、
そうか、そうなんだ、
長屋さんも色々な葛藤を経て、今に至るなんだなー、と妙に納得したり。

長屋楽器「おりん」とは、仏壇のところにある、チーン、って鳴らす、あれですが、
おりんを鳴らした時に、
あの「響き」を音楽に出来るんじゃないかと思った、という話も面白かった。
仏壇でチーンと鳴らして手を合わせた時に、人は普通そんなふうに考えないんじゃないだろうか。
もちろん、私もそんなふうに思ったことはない。
音楽を作りたいと思ったら、メロディーラインを奏でられるものか、またはリズムが出せる楽器が欲しいだろう。
あるいは声。そうではなく、「チーン」の響きの中に、長屋和哉の「音楽」があったとしたら、それはとても面白いことだと思った。

トークタイムの後は、演奏タイム。
70分ほどのライブで、横になって聞いてもOKとのこと。
それはいい!私はよほど座り心地のいい椅子でないと、30分もすると疲れて来る。
座布団に座っていても同じだ。横になって聞けるのだったら、これ以上いいことはない。

ライブが始まると、最初は皆さん座って聞いておられたが、
あれよあれよという間に座高が無くなっていき、
見ると、さっきまで正座で話を聞いていた最前列のかわいらしいお嬢さんまで、横向きで寝ているではないか。
もちろん私も座布団を枕替わりに、美しい天井を眺めながら、長屋さんの奏でる音を全身に浴びる。
そのうちに半覚睡状態。
これぞリラックス。こんな時間、普段の日常には無い。贅沢で、ほんとに気持ちのいい時。

半分まどろみながら、聞いているような、
夢を見ているような、そんな時間が過ぎ、
ある時、ん?これは起きなくては、と身体がそう言うので起き上がると、
全く持って不思議なことに、
増上寺 竹林その頃からたくさんの人が、わさわさと身体を起こし始め、
およそ10分後くらいに訪れたライブ終了時には、無事全員がちゃんと座って拍手が出来た。
とりわけ音が大きく変わったわけでもなんでもないのに、
何やらテレパシー交感でもしたかのように、
会場全体が一つなり、長屋和哉の音楽の終わりを捕まえられた。
暖かな拍手が光摂殿に鳴り響く。

フーっと大きく息を吸って、庭に出た。
そうか、もうすぐ七夕なのか。
増上寺の笹には、願い事が書かれた短冊がたくさん付けられていた。
私も短冊に願いを書いて、笹の葉に結ぶ。
小さい頃は、祖父が笹をどこからか調達して来て、
短冊を吊るしたあとは、大きな川に流しに行ったものだ。
今ならゴミを勝手に捨てる違法行為だが、あの頃はまだのどかだった。
笹に揺れる色とりどりの短冊。どうぞ願いが叶いますように。

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大沼由紀 プロフィール

フラメンコ舞踊家。日本大学芸術学部卒業後、フラメンコに出会い佐藤佑子に師事。1992年渡西。 ラ・トナ、アナ・マリア・ロペス、アンヘリータ・ゴメス等に師事。約3年のスペイン生活の中、特にヘレスのフラメンコに強く惹かれ、現在の自身の舞踊スタイル、教授スタイルへと結びついている。99年、中野にエストゥディオ・ブレーニャを開設。カンテを愛し、フラメンコの真髄へと突き進むその真摯な姿勢と深いアルテでカリスマ的な人気を誇る。
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