大沼由紀のバラよ、荒野に咲け!

"Espontánea-フラメンコ、自然発生的な-"再び

2004、05.07年"Espontánea-フラメンコ、自然発生的な-"というタイトルの公演を打ち、早9年が過ぎた。もうこのシリーズは封印するか、もしくは私がフラメンコに関わり生きて来れた感謝のしるしに、最後にもう一度だけやるか、そんなふうに思いをめぐらすことはあったが、考えても仕方のないこととして、懐深くにしまい蓋をしていた。だが今年5月、アクースティカから購入した1枚のCDが、その蓋をポンと開けてしまった。

それはTomás Rubichi(トマス・ルビチ)の「EN EL NOMBRE DE UN BARRIO」と題されたCDだった。

トマス・ルビチ トマスは、2004,05年と続けて私の公演に来てくれたDiego de los Santos"Rubichi"(ディエゴ・デ・ロス・サントス"ルビチ")の甥にあたる。コマーシャリズムから一線を画したディエゴのカンテは、フラメンコ通からこよなく愛された。「アイ」と言ったその瞬間から、嘘がすべて排除され、虚飾に満ちた世界は去って行った。2004、05年の公演で、何もかもがテレパシーで進んでいくフラメンコの交流が起き、私はその後、またユキに歌うぞ、というディエゴを呼ぶことが出来なかった。怖かったのだ。あれ以上何を起こせるというのか。そして2007年、サンディアゴ地区のアルティスタの招聘を決めた時に、ディエゴの訃報を受け取った。
 
あれから9年。トマスのカンテは、私がヘレスのフラメンコにビックリして魅せられて追い掛けて来た23年間の記憶を蘇らせた。ディエゴが亡くなり、途切れたと思ったものは、途切れるはずがなく、こうして脈々と息づいていた。
そして、"Espontánea"がやって来た。

ヘレスの街並 自分の中に起きたことを反芻する。突然にやって来たものは、もうそこにある。拒めないものであることを確信すると、ギタリストのDomingo Rubichiに連絡をした。
「トマスのCDを聞いた。トマスはディエゴ同様、踊りに歌う人じゃないのは知っている。ましてや日本人の踊りに歌うのは、彼にとってどうかわからない。でも、もしトマスが来てくれるなら、またディエゴの時のように劇場公演をやりたい。」と。

「俺がトマスに話してくる。」と言った数時間後、
「Tomá OK.」
という返事が来た。

 ドミンゴが来る。トマスが来る。そうしたらもちろん、José Rubichiのパルマだ。ホセにはすでに、私が連絡する前にドミンゴから連絡が入っていた。ここまで進めてから後は、直接ヘレスで話そうということにした。電話やメールでの複雑な話し合いは私には気が重い。すぐに渡西の準備に入った。
 
 ヘレスのコンパスにはなんと言ってもパルマ、最低2人のパルマが欲しい。そこで私の中に浮かんだのは、以前石塚隆充君が自身のリサイタル時に招聘し、私のライブに1日だけ出張してくれたAli de La Totaだ。あの時は、ドミンゴのギターにマヌエル・デ・ラ・マレナのカンテ、ホセとアリのパルマというメンバーだった。地にピッタリとくっつきながらグルーブするあの感触は忘れられない。しかしアリはサンティアゴの人だ。ファミリア・ルビチはバリバリのプラスエラ。ホセとアリのコンビはすでに経験済み、問題ない。でも、アリ以外全員ファミリア・ルビチのメンバーの中ではどうだろう?目をつぶる。耳を澄ます。想像する。

うん、いける。アリと話そう。連絡先は知らないが、向こうで誰かに聞けばいい。

トマス/ドミンゴ/ホセ・ルビチ/アリ・デ・ラ・トタ 長い間、毎年欠かさず訪れていたヘレスだが、ここ2年ご無沙汰だった。久しぶりのヘレス。この空気、この言葉のリズム。しばらく離れた分、より強く感じる。5日間という限られた滞在の中、4人それぞれに会って話すことにする。4回同じ話を繰り返し説明し交渉するのは難儀だが、1人でもすごいエネルギー量を持つヒターノ4人まとめて相手に出来るほどの技は、私にはない。私は、誠心誠意、真心で話すのみ。

 三人三様ならぬ四人四様。全員に会って話をなんとかまとめた頃には疲労紺倍。話す内容より何より、まず強く感じるのは、「生きる」エネルギーだ。それぞれがそれぞれの話し方で、それぞれの考えを言ってくるわけだが、そこには強烈な生きる力がある。あれに比べたら私なんか、まるで死人だ。

 トマスはベルナルドという息子を連れて来た。
「こいつは俺の年になったら、俺を超えるカンタオールになっているよ。」

トマスのCDの最後に、ファミリアのブレリアが収録されているが(もちろんベルナルドも歌っている)、私はそれを聞いた時、「あなた達だけで充分だよ!」と、持っていた靴下を天井高く放り投げた。それは嘘偽りなき、私の本心。この子が、また脈々と続く血統の、誇り高き歌を継いでいくのだ。

過去3回のEspontáneaは、自分が追い求め続けたヘレスのフラメンコの中で、自由に踊りたいという純粋欲求から生まれた。今は、彼らだけでやれば完璧なフラメンコの中に、自分の身を置く矛盾との戦い。何故そんなことをする?何故?

自分を追い込んで追い詰めて、嘘を潰し、その先の一点を見たいのだ。

最後に友が送ってくれた言葉を。

-月日は、ファミリア・ルビチの面々にも、そして由紀さんにも等しく降り積もりました。きっと新たな場所へといざなってくれる、大切な時となることでしょう-   

金子文乃

 
Esponta公演フライヤー
 
第4回大沼由紀舞踊公演 EspontáneaⅣ-フラメンコ、自然発生的な-
日にち 11月2日(水) 19時開場 19時半開演
11月3日(木・祝) 16時半開場 17時開演
場所  座・高円寺2
料金   8500円 (当日9000円) 全席指定
ご予約・お問い合わせ espontanea@y-mobile.ne.jp (エスポンタネア事務局)
出演者 大沼由紀(バイレ)
トマス・ルビチ(カンテ)
ドミンゴ・ルビチ(ギター)
ホセ・ルビチ、アリ・デ・ラ・トタ(パルマ)

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大沼由紀 プロフィール

フラメンコ舞踊家。日本大学芸術学部卒業後、フラメンコに出会い佐藤佑子に師事。1992年渡西。 ラ・トナ、アナ・マリア・ロペス、アンヘリータ・ゴメス等に師事。約3年のスペイン生活の中、特にヘレスのフラメンコに強く惹かれ、現在の自身の舞踊スタイル、教授スタイルへと結びついている。99年、中野にエストゥディオ・ブレーニャを開設。カンテを愛し、フラメンコの真髄へと突き進むその真摯な姿勢と深いアルテでカリスマ的な人気を誇る。
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