大沼由紀のバラよ、荒野に咲け!

1日1時間の10年と1日10時間の1年

庭に生えている草など取って、
ガラスの瓶にほおり込む。
適当にやっても何故かさまになるから面白い。

玄関や窓際に置く。
そのうちに枯れてしまうのだけれど、
この間アイビーから小さな芽が出て来た。

さすがアイビーは強い、
と思って下を見ると根っこが生えている。

そうか、
根っこがあれば新芽が出るのかと当たり前のことに感心し、
全く持ってフラメンコもそうだと、
つくづくそう思った。

ヒターノ達と接していると、
圧倒的なフラメンコの根っこを感じ、
立ちすくんでしまう。

何代も前から受け継がれてきたもの、
それぞれのファミリアが持っている誇り(これがまた強烈だ!)、
フラメンコをやることの必然。

深く太い根っこから栄養を吸収し、
新たな芽が出て、脈々と受け継がれていく。
それを間近に見ると、
自分がフラメンコを踊るなんて一体どういうことだと、
気持ちが悪くなる。

根っこなんかないのだから、
これが自分なりのフラメンコです、
と開き直るのもありなのかもしれない。

だがしかし、
例えば同じ振付を踊ったとしても、
フラメンコらしい、
フラメンコらしくないという線引きは確かにあって、
せっかくフラメンコに惹かれて始めたのだったら、
そこから目をそむけたらつまらない。

他のダンスではなくフラメンコを踊るのだったら、
フラメンコ特有のあの感じ、
そう、グッと空気が重くなって、
さあこれからただならぬことが起きると
予感させるあの感じがなかったら、
ただ足を打つということで
人をびっくりさせるだけの踊りになりかねない。

大沼由紀
踊りを芽とすると、
発芽させる根っこが必要なんだと思う。
フラメンコのファミリアに生まれたわけでもなく、
フラメンコが
いつも身近にある街に住んでいるわけでもない。

どうしたらいいのか。

なんだそんなことかと言われそうだが、
ただ一つの方法は、
とにかくカンテを、ギターを、
先人達の素晴らしいフラメンコを
「聞く」ことだと思う。

踊るための知識として聞くのではなく、
ただただ心を無にして、
味わうことだと思う。

その日の自分が欲しているすごいフラメンコを聞く。
とても贅沢な時間だ。
たくさん並んだCDの中から1枚、
プレーヤーの中に入れる。

毎日そういう時間が持てるわけではないので、
それが出来る日は、あーなんといい日だと思う。

深く聞けば聞くほどに、踊りから遠ざかる。
それがいい。

時には立ち上がり、一歩を出す、
しかしまた座って聞き続ける。
そしてまた立ち上がり、目をつぶって聞きほれる。
オレー!と思わず言う。

フラメンコを聞くのはエネルギーが要るので、
効率よく情報を得るような聞き方が出来ない。
時間はいくらあっても足りないが、
少しずつ積み重ねるしかない。

よくこんなことを思う。
1日1時間の10年と、
1日10時間の1年、どっち?

手っ取り早く結果を出したかったら
1日10時間1年だけれど、
もちろん、10年がいい。

年月の重さが感覚を育ててくれる。
継続は力なり。続けることだ。

すぐになんでも答えが見つかるこの時代、
私も1日10時間タイプで
早く結果を出したくなること多々あるが、
それが自分に染み入ってはくれないことも分かっている。

生活する中で見つけた時間の積み重ねが、
いつの間にか
栄養をぐんぐん吸い取る根っこを生やすと、
そう思いたい。


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大沼由紀 プロフィール

フラメンコ舞踊家。日本大学芸術学部卒業後、フラメンコに出会い佐藤佑子に師事。1992年渡西。 ラ・トナ、アナ・マリア・ロペス、アンヘリータ・ゴメス等に師事。約3年のスペイン生活の中、特にヘレスのフラメンコに強く惹かれ、現在の自身の舞踊スタイル、教授スタイルへと結びついている。99年、中野にエストゥディオ・ブレーニャを開設。カンテを愛し、フラメンコの真髄へと突き進むその真摯な姿勢と深いアルテでカリスマ的な人気を誇る。
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