大沼由紀のバラよ、荒野に咲け!

ロス・ピンチョスよ永遠に~最終ライブを終えて~


博多の名店、フラメンコファンに愛されてきた「ロス・ピンチョス」が、2019年4月20日、ライブの幕を閉じた。
数々の心に残るライブを生んだあの舞台は取り除かれ、
100%スペインレストランとして新たなスタートを切る。

今までもお料理には充分定評がある店だった。
博多の中心から少し離れた場所にも関わらず、
たくさんのお客様があの味を求めて足を運んで来た。

スペイン人アルティスタ達は、
ライブ前から、打ち上げに出てくるはずの料理が楽しみで仕方ない。オーナー相良さんの拘りにより、お料理もフラメンコライブも間違いなく上質な店だったのだ。

そんなロス・ピンチョスからフラメンコライブが無くなるなど、
誰が想像しただろう。
1年ほど前、ライブを辞めるようだという噂を聞き、
なんとしてもオーナーの相良さんに会わねばと思った。
直接その理由が聞きたかった。

「料理人でスタートしたから料理人で終わる。」
真っ直ぐな目で相良さんは私にそう言った。
フラメンコが好きで好きでたまらなくて、
この決心に至るまでに6年もかかったという。

相良さんと私はほぼ同い年、
そしてロス・ピンチョスも、うちのスタジオも20年。
人生折り返しての勝負どころで、
初心に返る、という選択した、その潔さ。
一本筋を通す、という生き方を見る思いがした。

多彩なアルティスタ達のライブが、
走馬灯のようによぎる。
日本人はもとより、
アンヘリータ・バルガス、コンチャ・バルガス、
ドローレス・アグヘータ、ドミンゴ・ルビチ、
フェルナンド・デ・ラ・モレナ、ヘスス・メンデス、エル・トロ・・・、
挙げだしたらきりがない。

紛れもなく本物のフラメンコ達があの舞台に立ち、
ものすごいフラメンコを見せ、
そのたびにロス・ピンチョスは
フラメンコの匂いを染み付かせていった。

そんなライブの歴史に終止符を打つべく、
4月20日にラストライブを行う運びとなり、
微力ながら私がその大役を仰せつかった。

チケットは発売開始2分で完売。
北海道から、沖縄から、
全国各地からフラメンコファンが駆けつける。
皆、この店でのフラメンコに特別の思いがあるのだ。

私で務まるのか。大丈夫か。
重責に眠れない夜が続いた。

「大丈夫です!
ロス・ピンチョスではいいライブになるんです!
心配しないで!」
博多のアフィシオナーダがそう言って私を励まし続けた。

ラストライブのメンバーは、
カンテにマヌエル・デ・ラ・マレナ、ギターが斎藤誠、
バイレは佐藤浩希と私。
この4人と決めた。

今までかつてこんな人数をいれたことがない、
という超満員のお客様。
全員固唾をのんで一心に舞台を見つめる。

フラメンコ特有のあのビシッとした緊張感から、
少しずつ空気はあったまっていき、
最後はお客様もアルティスタも、
あの場にいた全員のフラメンコ魂が炸裂した。

yuki5.JPGこれぞロス・ピンチョスならではのロス・ピンチョスライブ!
もう二度とこの舞台に立つことはないのだと思うと、
胸が締め付けられる思いだったが、
フィン・デ・フィエスタに登場した相良さんと、
相良さんの片腕であるきんちゃんの見事なブレリアに、
皆笑顔、笑顔、店中が最高の笑顔。

お二人のブレリアを初めて見たひろ君、
「Bailais major que yooooo!!!!
(俺よりうまいじゃないかー!)」と叫ぶ。
分かる分かる。
プロの踊り手は皆、そう思うのだ。
だからこの店は最高なんだ。

客様も参加しての打ち上げでは、
渾身のスペイン料理が
次から次へとテーブルに並び、歓声が上がる。
ながーいテーブルに
ズラッとアフィシオナード達が座った光景は、
スペインのファミリアの食事風景のよう。
素晴らしい食事と、笑いの絶えない会話。
これ以上何が必要って言うんだ!

ロス・ピンチョス、
いつまでも私達に感動と笑顔を与え続けてください。
これからも末永く、よろしくお願いします!

yuki2.JPG


■ロス・ピンチョスラストライブ プログラム
一部
1 Bulería (Dichosa hora) 佐藤浩希 大沼由紀 (振付/佐藤浩希)
2 Cantiña 佐藤浩希
3 Solo de guitarra (Bulería) 斎藤誠(パルマ/マヌエル・デ・ラ・マレナ、
佐藤浩希)
4 Siguiriya 大沼由紀
5 Fin de fiesta
二部
1 Martinete 佐藤浩希 大沼由紀
2 Taranto 佐藤浩希
3 Soleá 大沼由紀
4 BuleríFin de fiesta


※編集部からのお詫び
この原稿は、ライブ終了からほどなく筆者の大由紀さんより届けられていたのですが、編集担当(西脇美絵子)の入院・療養のため掲載が大幅に遅れてしまいました。筆者の大沼さんおよび関係者の皆様、この連載を楽しみにされていた読者の皆様に心からお詫び申し上げます。

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大沼由紀 プロフィール

フラメンコ舞踊家。日本大学芸術学部卒業後、フラメンコに出会い佐藤佑子に師事。1992年渡西。 ラ・トナ、アナ・マリア・ロペス、アンヘリータ・ゴメス等に師事。約3年のスペイン生活の中、特にヘレスのフラメンコに強く惹かれ、現在の自身の舞踊スタイル、教授スタイルへと結びついている。99年、中野にエストゥディオ・ブレーニャを開設。カンテを愛し、フラメンコの真髄へと突き進むその真摯な姿勢と深いアルテでカリスマ的な人気を誇る。
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