カマロン没後20年のメモリアルイアーだった2012年も、11月に入りもう残りわずか。この作品だけは何としても、本年度中に紹介せねばなるまい。フラメンコ界に衝撃を与え、後世までのカマロンの名声を決定づけた、1979年6月16日発売の「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」である。

 高速パルマと閃光のようなキーボードが鮮烈なタイトル曲「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」(ハレオ)を筆頭に、「タララ」(カンシオン・ロック)、「ボランド・ボイ」(ルンバ)、「ビエホ・ムンド」(ブレリア)、「ナナ・デ・カバージョ・グランデ」(ナナ)etc・・・多彩な光を放つ全10曲は、発売から33年後の今も全く色褪せない。間違いなく、20世紀を代表する傑作の一つだ。
 今年の6月、カマロンの故郷サン・フェルナンドで行われたプロデューサーのリカルド・パチョンの記念講演でも、メイン・テーマはこの「レジェンダ・デル・ティエンポ」の制作裏話であった※1。
 本作の最大の魅力は、ジャズやロックを筆頭に、異ジャンルの若く野心的なミュージシャンが集結して作り上げた、アヴァンギャルドな音楽性だ。
 随所で幻想的な音色を響かせるキーボード&ピアノ奏者のマノロとラファエル・マリメリ、ベースのマノロ・ロサの3人は、1970年代末から活躍したバンド「アラメダ」の主要メンバー。先輩格の「トゥリアーナ」と共に、スペインで勃興した"アンダルシア・ロック"の代表的存在であり、キーボードを多用した70年代プログレシッヴ・ロックの影響は、本アルバムの特色の一つである。
 フルートを操るホルヘ・パルド、パーカッションのブラジル人、ルベン・ダンタスの二人は、同時期にペドロ・ルイ・ブラスが率いた伝説的バンド「ドローレス」のメンバー。二人が後にパコ・デ・ルシアのセクステットの一員として20年以上もその黄金期を支えたのは、もはやご存知の通りだ。
 ricardo pachon.JPGセカンド・ギターのライムンド・アマドールは、弟のラファエルとのデュオ「パタ・ネグラ」でデビュー。ヒターノ居住区に育ちながらブルースに傾倒した経歴を活かし、名作「ブルース・デ・ラ・フロンテーラ」(1987)を発表。"ブルースレリア(ブルース+ブレリア)"という造語も生んだ。
 さらに、シタール(インドの弦楽器)奏者のグアルベルト、アントニオ・ガデス舞踊団のエンリケ・パントーハがパルマ、サパテアードに鉄人バイレのマノロ・ソレールと、ここまで才気煥発なメンバーが揃えば、面(上写真/サン・フェルナンドで講演するリカルド・パチョン)   白くならないわけがない。
 その上パチョンは「(ガルシア)ロルカやオマール・カヤムのようなシュール・レアリズムの詩は、カンテにぴったりだった」と語り、彼らの作品をアレンジして歌詞に採用、一歩踏み込んだフラメンコの解釈を目指したのだ。
 意外なことに、発売当時のセールスは大失敗だった。カマロンのプーロ・フラメンコ(純粋で伝統的なフラメンコ)を期待していたリスナーは、レコード店へと返品(!)に押し寄せた。あまりに先鋭的な作風は、批評家たちにすら嫌われた。こうしてリカルド&カマロンのコンビは、前衛路線の変更を余儀なくされ、再び盟友パコ・デ・ルシアを呼び寄せた「コモ・エル・アグア」(1981)で巻き返しを図っていく。
「地球は征服した。次は月だ」という挑戦的なメッセージと、宇宙船が飛ぶCMのアートワークが斬新で、今回のマリアージュに決定した相手は、先の10月に発売したばかりのシングルモルト・ウイスキー※2「アードベッグ・ガリレオ」である。
 ベッグファンならずとも、この限定ボトルの由来は面白い。アードベッグの原酒から採取した成分と焦がしたオーク(樽)の組み合わせを、無重力に近い宇宙ステーションで、2年間の熟成実験を敢行する。果たして宇宙空間はどのように熟成に影響するのか。その実験への参画を記念してのボトルなのだ。
 まだ見ぬ宇宙空間へと旅立つ、銀色に輝くウイスキー・ロケット。四半世紀以上も前、未知なる可能性へ挑戦したカマロンたちの、苦難と歓喜が交錯するフラメンコの旅路に思いを馳せ、今夜もショットグラスを傾ける。

※1 パセオフラメンコ11月号「アンダルシア巡礼I サン・フェルナンド」にて詳細なルポを掲載中。ご興味のある方はぜひ! 全国有名書店、インターネット等にて発売中。
※2 ブレンドする前の、生一本のウイスキー。日本酒で言えば純米酒のようなもの。本シリーズ第1回「サンティアゴ・ドンダイ」のラストでも解説。

 

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