ロシオ・モリーナ特集第2弾   

<はじめに>
来年3月7日に5年ぶりの来日を果たすロシオ・モリーナ。
フラメンコの現在(いま)を
最も体現しているアルティスタです。

★メインRocioMolina2020.jpg抜群の身体性、
溢れ出すコンパス。
作風は刺激的で斬新でありながら
エンターテイメント!
その心身に刻まみこまれているのは、
まごうことのなきフラメンコの核心と確信です。
さて、ロシオ特集第二弾となる今回執筆いただいたのは、
人気連載「フラメンコ・ウォーカー」の筆者
坂倉まきこさん。
客席からはもちろん、これまでの豊富な仕事経験を通して、
バックステージのロシオをもよく知る方です。
この夏スペインで、出産後のロシオと会い、
今回の作品「Caída del Cielo」を取材鑑賞もされてきた
坂倉さんならではの観点から、
書いていただきました。
なお、坂倉さんが執筆された
これまでのロシオ関連記事のリンク先も
最後に紹介してあります。
新しいフラメンコはちょっと…、なんて感じられているそこのあなた! 
まだロシオ未体験ならなおさらのこと、
ご一読&再読をおすすめします。
ロシオの魅力と実力をよ~くご理解いただけけるはずです。
なお、公演直後の3月13日からは、ロシオの創作現場を捉えたドキュメンタリー映画「衝動ー世界で唯一のダンサオーラー」の全国ロードショーが決定しています。(編集部)
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舞い降りた堕天使 – ロシオ・モリーナ「 Caída del Cielo」来日公演によせて

坂倉 まきこ
フラメンコ・ライター/「フラメンコ・ウォーカー」執筆者

 IMG_2236.JPGロシオ・モリーナが、5年ぶりに来日します。過去2回、2014年及び2015年の日本公演の際、プロモーションのお手伝いと来日時のアテンド通訳をしました。2014年、オーチャードホールでの初の日本単独公演の演目は、10年間のロシオ・モリーナの作品のダイジェスト版とも言えるオリジナル作品「ロシオ・モリーナ ―10年の軌跡― 」でした。「フラメンコ」という言葉は知られていても、本場の、そして”今”のフラメンコについて伝える機会の少ない日本。この公演を一人でも多くの方に見ていただくことは、ロシオ・モリーナというアーティストを知っていただけるだけでなく、フラメンコの多面性と”今”を、日本の皆様に体験していただける絶好の機会でした。公演に先駆けての来日時には、多くのインタビューをこなし、ロシオ自身も日本の文化に積極的に触れて、日本公演への意欲を燃やしていたようでした。作品の蓋を開けてみると、本当にロシオの作品の美味しいとこ取りの贅沢な内容。日本への愛を惜しみなく注ぎ込んで構成してくれた内容でした。公演の本番では、舞台袖で早替わりを手伝い、ロシオのトップフラメンコアーティストたる体力、精神力、本番での余裕に、改めて感服させられました。(写真は2016年、オーチャードホールでの開演前の舞台。)


 この公演にご来場いただいたお客様、特に初めてフラメンコを観た方からは、より新鮮な発見や感動があったという声を聞きました。しかしその一方で、ロシオに対する”誤解”がまだあることも感じました。既にフラメンコを観たり、聴いたり、実践したりしていて「フラメンコはこうでなきゃ!」というイメージをお持ちの場合、”こう”の基準は、フラメンコに対する知識、理解、経験、さらには好みによって異なります。例えば、”フラメンコは、フリルのたくさんついた水玉のドレスで踊るもの”と思っている人は、タイトなボンテージ風の衣装で踊るロシオを観て「え?これってフラメンコ?」と思うかも知れません。ロシオの生み出した新しい動きを見て「あー、コンテンポラリーダンスやってた人なんだ。」と思う人もいたかも知れません。そんな疑念を払拭して、ロシオをフラメンコから生まれたアーティストとしてクリアな眼で観てほしいと思い、その翌年の「アフェクトス」という作品の来日公演にあたっては、「スーパー・バイラオーラ、ロシオ・モリーナの明確なフラメンコ性」という記事も書きました。また、「アフェクトス」での共演者、ロサリオ・ラ・トレメンディータにもインタビューをし、その記事の中にもロシオ・モリーナについて彼女が語ってくれた部分があります。写真も入れており、ロシオを知っていただける内容ですので、ご参考までに。記事はこちらです:http://flamenco-sitio.com/flamenco-walker/2015/10/afectos-entrevista-con-rosario-la-tremendita-para-afectos.html
 フラメンコで大切なことは、その人の中にあるアルテ(=スペイン語で芸術)だと思います。アルテを構成する要素は、たくさんあるのでここでは割愛しますが、プロのアルテに欠かせないものは、どの分野の芸術でも共通でしょうが、その芸術の本来のスタイルや基本の型を自分のものとした上で、その土台の上に築かれた、アーティスト独自の表現の魅力だと思います。
 今回の来日作品は「Caída del Cielo」。3年前、初めてその内容や作品のスチール写真を目にした時は、正直驚きました。その当時は、この作品を日本に持ってきても『フラメンコ』を観にきたお客さんには理解されないんじゃないかと不安に思ったほどです。来日の次回作としては、宮崎駿の世界をモチーフに取り入れた作品「Bosque Ardora」の方が紹介しやすいのではないかな?とか。本場スペインですら、白いドレスで血糊のような塗料にまみれたロシオの写真を見て「一体何をするつもりなのかしらね?」とまだ見ぬうちから揶揄する声すら耳にしました。しかし、実際に公演を見ると、これまでも「女性」をテーマにして作品を創ってきたロシオの、さらに確固たるメッセージが伝わってきました。衝撃的なスチール写真のシーンの必要性、タブーへの挑戦の意味。批判を恐れない勇気。意志を持って天から地上に降りてきた堕天使を思わせるロシオの姿。他の誰もができない自由でスリリングな表現の数々。これこそが、ロシオ・モリーナというアーティストの醍醐味です。
 昨年12月、出産を経験したロシオ。母になる日に向かって起きる肉体の変化の中、その状況を取り入れた新作「Grito Pelao」も発表し、妊娠7ヶ月まで舞台に立っていました。出産後は、3ヶ月で舞台復帰。今年8月、出産後初めてロシオに会い、「Caída del Cielo」を再度観ました。ロシオの表現や動きは、一見サラリとやっているようで、実は超ハイレベルのテクニックと身体能力、さらには持久力を必要とします。それ故に、他では観られない、美しく滑らかな動きや、スピード感あふれるスリリングな動きが生み出されるのです。この作品「Caída del Cielo」での彼女の演出、振付に求められる技術、身体バランス、耐久力の要求レベルの高さを改めて目の当たりにし、出産後7ヶ月の女性がここまでできるのかと、女性の中に宿り得る強さも感じました。
 初演から3年。この作品の来日を前に、今では不安どころか、日本の皆様がどうご覧になるかとても楽しみです。日本公演当日は、ご覧になっている皆様にどんなインパクトを与えているだろうか?とワクワク想像しながら、スペインの空の下から公演の成功を祈っております。
 今回の来日公演では、私は公演スタッフを外れていますが、ロシオ・モリーナは、フラメンコ界にとっても、私自身にとっても大切なアーティスト。日本の皆様が、彼女に興味を持って、生で観られるこの機会にそのアルテを堪能しにお出かけいただくきっかけの一つになればと思い、この文章を書かせていただきました。来年の秋には、ギター3本とバイレ(踊り)という新しいスタイルでの新作も控えているロシオ・モリーナ。セビージャ郊外に新たにスタジオも構え、創作活動と育児に邁進する彼女がどう進化していくのか、これからも目が離せません。
 この作品については、下記の「フラメンコ・ウォーカー」のバックナンバーの一部に書いてありますが、ネタバレの嫌な方は、公演後にご覧ください。
2018年3月の記事より:http://flamenco-sitio.com/flamenco-walker/2018/03/post-441.html
2019年9月の記事より:http://flamenco-sitio.com/flamenco-walker/2019/09/208.html