シティオが注目する 3人の来日アルティスタたち

今年も残すところ1カ月余り。
夏以降、素晴らしいアルティスタたちの来日が相次いできたが、
これからも見逃せないアルティスタが立てつづけに来日する。
シティオが特に注目しているのは、カンテのヘスス・メンデス、ギターのアントニオ・モジャ、
そしてカンシオン歌手でフェステーロのフェルナンド・ソトだ。
ところで、日本のフラメンコは踊りが主体なので、公演もまた舞踊公演が多い。
だから珠玉のカンタオールやギタリストたちも、その多くは踊りのバックを務める伴唱者、伴奏者として来日を果たす。
ギターソロ、カンテソロを主体にした来日公演は本当にわずかなのだ。
そうした状況の中で、いつも残念に思うことがある。


彼らの生の音・声を聴ける貴重な機会なのに、
せっかく素晴らしいカンタオールやギタリストが日本に来るのに
会場には、カンテ、ギターファンとおぼしき観客が、とても少ないのだ。
もっとギターを、カンテを聴きに行こう!
踊りに興味がないのなら、瞼を閉じて耳を澄ませばいい。
いやいや、そう心配せずとも、そこにはきっと三位一体のフランコが広がっているはずだ。
踊り手が、伴奏者、伴唱者にだれを選ぶかということは、
その踊り手のフラメンコに対する見識を表わしているといってもいいと思う。
特に最近は、バックの音楽陣に対する敬意に満ちた舞台が多いと感じる。
自身が心酔し信頼するアルティスタを日本のファンに紹介したい、
そんな思いを彼らを招く踊り手たちの多くが胸に抱いている。
踊り出す前に歌のパートを長くとり、一歌、二歌と歌をたっぷり聴かせる構成にしたり、
カンテソロやギターソロをプログラムに組み込んだり。
実際の舞台でもそうした工夫がほどかされていることが多い。
それに、伴奏や伴唱でこそいぶし銀の実力を発揮するアルティスタも大勢いる。
さて、ここで紹介する3公演は、そういった意味でシティオがおおいに注目している公演だ。
踊りファンにはもちろんおすすめだが、
日頃CDなどでフラメンコを聴きこんでいる
カンテ、ギターファンにこそ足を運んでほしい。
彼らの呼吸を、熱を
直に感じることができる貴重な機会である。
これを見逃す手はないのだ。
カンテファンの皆さん!
ギターファンの皆さん! 走れ!劇場へ!!
■パケーラの血を引くヘレス若手の第一人者、ヘスス・メンデス
 11月30日(金)島村香フラメンコ公演「al Natural,mi Tierra」

JESUS MENDEZ - CAJASOL 4.jpgJesús Méndez 
ヘスス・メンデス(カンタオール)

ここ数年その存在を際立たせているヘスス・メンデス。今は亡きヘレスの御大パケーラの血を引く若手ヘレスの代表格だ。まだ28歳の若さだが、正統派ヘレスの伝統をまごうことなくその身に刻む実力派。1枚目のCD「ヘレス・シン・フロンテーラス(国境なきヘレス)」では、ヘレスのアイレを存分に発揮。ヘラルド・ヌニェス・プロデュースによるこのCDは、彼の実力を広く世に知らしめた。今年リリースされた2枚目のCD「アニュランサ」でも、古いカンテのスタイルを継承。カンテ・ヒターノを愛する人々の期待を一身に集める彼は、今最も注目される若手カンタオールの一人だ。上記2枚のCDの伴奏陣がまたすごい。モライート、ディエゴ・デル・モラオ。ヘラルド・ヌニェス、アントニオ・レイなど。こうしたアルティスタたちのアルバムへの参加も彼の存在の大きさの証と言えよう。

その他の来日アルティスタ
ap141 (2).jpgAndrés Peña アンドレス・ペーニャ(バイラオール)
1976年ヘレス出身。ヘレスを代表する踊り手。ブレリアの名手。アンヘリータ・ゴメスのもとでフラメンコを始める。マヌエル・モラオ、カルメン・コルテス、エバ・ラ・ジェルバブエナのグループで活躍。2000年ビエナル・デ・フラメンコ舞踊部門で受賞。世界各国で舞台活動及び教授活動を展開。日本でのステージは10年ぶり。

javier2 (2).jpgJavier Patino ハビエル・パティーノ(ギタリスト)
1974年ヘレス出身。ホアキン・グリロ、マヌエラ・カラスコ、ホセ・メルセーなど数々の舞踊手、歌い手と活動する。09年には自身のCD”Medio Vida”を発表。また、2007年以降アンドレス・ペーニャやベレン・マジャなどの舞踊公演の音楽の作曲も手がけている。

david_carpio (2).jpgDavid Carpio ダビ・カルピオ(カンタオール)
1975年ヘレスの名門カルピオ家出身。幼少の頃から地元で歌い始め、その後アンドレス・ペーニャ、モライート、クリスティーナ・オヨスなどと共演を重ねる。08年 多くの賞を受賞したCD “La nueva Frontera del Cante de Jerez”に参加。12年にはフェスティバル・デ・ヘレスで 最優秀伴唱賞を受賞。

招聘の経緯と公演の見所
Koari4 (2).jpgryo (2).jpg踊り手もミュージシャンもすべて70年代生まれのヘレサーノで固められたこの公演。公演を主催し出演する踊り手の島村香、ギタリストの小林亮は、自他共に認めるヘレス狂だ。となれば、もうこの布陣自体が公演の方向性を示している。ヘレスへのリスペクトと愛に満ちたステージになることは間違いないだろう。「最初からヘレスにこだわりがあったわけではないのですが、スペインで初めて行った町がヘレスだったんです。以来スペインへ行くとなぜかヘレスに足が向き、私たちがこれまで一番長く過ごしたのもヘレス。そういう中で自然にヘレスのフラメンコに傾倒していきました」と島村。アンドレス・ペーニャとは10年以上前に彼のクルシージョに出たのがきっかけで、交流を深めて来た。ヘレスに行くたびに彼に師事し、また、日本で彼のクルシージョを企画・開催したこともある。「アンドレスが醸し出す空気感、心地いい彼のコンパス感が大好きで、こんなふうに踊りたいとずっと思ってきました」。ヘスス・メンデスの歌は、ヘレスのペーニャで初めて聴いたという。その時の印象を「それがとても素晴らしくて…、特に彼のファンダンゴが圧倒的で、打たれました」と語る。「今回は大まじめにフラメンコと向き合おうと思っています。奇をてらわず、シンプルな構成で上演します。そのためにはどうしても私たちにはヘレスの彼らが必要でした。彼らが持っているものを最大限に引き出す、そんな舞台にしたいと思っています」と、彼女は抱負を語った。
■ペドロ・バカンのスタイルを継承するカンテ伴奏の名手、アントニオ・モジャ
林結花フラメンコ ソロ リサイタル「Añejoー時を超えてー」

 Antonio Moya (3).jpgAntonio Moya アントニオ・モジャ
(ギタリスト)

カンテ伴奏にこの人あり。アントニオ・モジャが暮らすウトレ-ラ、活動の拠点となっているレブリーハの、まさにモライートとも言うべき存在。モライートがヘレスのカンタオールたちにとって欠かせない人であったように、イネス・バカン、トマス・デ・ベラーテらプーロな大御所たちから絶大な信頼を得ている。レブリーハ、ウトレーラには、彼の伴奏でなければ歌わないという歌い手も多いという。今は亡きレブリーハの重鎮ペドロ・バカンのセカンドで長らく活動。ペドロのスタイルを受け継ぐ貴重なギタリストである。フラメンコではなければ出せない”あの音”を持ち、フラメンコの重み、つねり(ペジスコ)のあるプーロな演奏。加えて、要所要所でモダンな音楽性をも感じさせる。残念ながらほとんど絶版になっているが、参加CDも多数くリリースされている。フラメンコの最もコアな位置に立つモジャだが、アンダルシア人の両親のもと、彼の生まれは南フランス。そのフラメンコ人生が極めて特異なものであったであろうことは、想像に難くない。
その他の来日アルティスタ
MariPena3 (3).jpgMari Peña マリ・ペーニャ(カンタオーラ)
ウトレーラのフラメンコの家系に生まれる。ウトレーラ、レブリーハの伝統(この二つの町は、親族関係にあるヒターノたちが数多く住んでおり、フラメンコ的に非常に近い関係にある)をその身に宿したプーロな歌い手。ここ数年めきめきと頭角を現し、ペーニャ、タブラオ、カンテフェスティバルなどで活躍。アントニオ・モジャの妻。

diego (2).jpgDiego Gomez ディエゴ・ゴメス(カンタオール)
15歳でプロ・デビュー。現在は「サボール・ヘレス」に所属し、アンダルシアを中心に活動。数多くのタブラオにも出演している。02年、カンテ・デ・ラス・ミナス国際フェスティバルでは、決勝進出を果たした実力派。これまでに度々来日を重ねており、日本にも数多くのファンがいる。

招聘の経緯と公演の見所
yuka.jpgこの公演を主催し出演する踊りの林結花は、年内に家族とともにスイスへ移住する。その大きな区切りとなる彼女の集大成ともいえる公演だ。彼女がフラメンコに出会ったばかりの頃、アンダルシアの町を訪ね歩いたその中で、レブリーハ、ウトレ-ラのフラメンコに強烈に打たれるものがあった。フェルナンダ、ベルナルダ、……。「グラナダやセビージャで見たショーとは違う、熱い空気のかたまりのようなフラメンコに衝撃を受けました。私は”これ”に関わりたい、強くそう思いました」と林。以来、彼女のレブリーハ、ウトレーラ通いが始まる。その過程で出会ったのがアントニオ・モジャのギターだった。彼のギターを聴くために彼女は幾度となく現地へ足を運んできた。一方マリ・ペーニャとは、カンテの師匠と弟子という関係から親交を深めていった。林がウトレ-ラのカンテ・ヒターノの重鎮ぺパ・デ・ベニートに習いたいと頼んだ時に、高齢のためぺパに習うことはかなわなかったが、「まだ若いが、いいプーロ歌いがいる」と紹介されたのがマリだったのだ。「フラメンコの根っこを持った彼らをぜひ日本に紹介したい」と、林は思いを語る。「はじめに音楽ありきの舞台です。これまで関わりのあった人々と一緒に、今まで私がたどってきたフラメンコの道を表現する舞台にしたいと思います」。
■コプラ人気を復活させたヘレス出身のカンシオン歌手、フェルナンド・ソト
鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団公演「愛こそすべて~完全版~」

fernando-soto (3).jpgFernand soto フェルナンド・ソト
(カンシオン歌手・フェステーロ)

11年にユニバーサル社からリリースされたセカンド・アルバム「フェルナンド・ソト」を機に人気に火が付き、「コプラ(カンシオン)王子」として再燃したコプラ人気の旗手。CDには、シギリージャやフィン・デ・フィエスタも収録されている。歌って踊るそのスタイルはバンビーノを彷彿とさせる。へレス生まれのヒターノで、フラメンコ一族のもとで歌い始め、12歳でペーニャにデビュー。アンダルシア地方のフェスティバルに出演を重ねた後、マドリッドの老舗タブラオ「カフェ・デ・チニータス」にて本格的にアーティスト活動を開始。99年にソロアルバム「Muriendo de Amor」を発表。近年は人気歌手で従兄のピティンゴとコンビを組み、スペインはもとよりヨーロッパ各地で公演を重ねている。押しの強い歌いっぷりと粋でいなせな踊りっぷりが、ヘレスの底力を感じさせる。舞台はもちろんテレビなどでも活躍しているスペインの人気歌手だ。
その他の来日アルティスタ
josegalvez.jpgJosé Gálvez ホセ・ガルベス (カンテ・ギター)
へレス・サンティアゴ地区のヒターノ一族に生まれる。ギタリストとして9歳でデビュー。歌い手としても才覚を表し、これまでにソロアルバムを2枚発表。作詩・作曲家としても活躍し、アウロラ・バルガスら数々のアーティストに楽曲を提供している。

ana.jpgAna de los Reyes アナ・デ・ロス・レジェス(カンテ)
へレス生まれ。フラメンコ・ポップスの代表的グループ、ナバヒータ・プラテアのリーダー、ペレやチキ・デ・ヘレスをはじめアーティストを輩出する名門一族の出身。ハビエル・バロンやサラ・バラスらの舞踊団で活躍。ホアキン・コルテスの世界デビューからその黄金期を歌い手として支えた。

malenahijo.jpgMalena Hijo マレーナ・イーホ(ギター)
歌い手アントニオ・マレーナの息子。14歳でへレスのペーニャでデビュー。父アントニオの作品の大半の作曲を手がけるなど、作曲の才も光る。フラメンコを生活の中で自然に身につけた軽妙なリズム感、グルーヴ感が魅力。マリア・デル・マル・モレーノ舞踊団の一員として海外ツアーにも参加している。

招聘の経緯と公演の見所
hiroki2S.jpgkagita2S.jpgさまざまな角度からフラメンコの新たな可能性に挑戦してきた鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団。スペイン歌謡でフラメンコを踊るというユニークな試みは、07年に上演された「愛と犠牲」の中で初めて発表された。以来、何度もこの試みは続けられてきたが、今回の「愛こそすべて」はその集大成ともいえる作品になっている。この作品を演出する佐藤がフラメンコを始めた頃、初めて聴いたカンシオンがフェルナンダとベルナルダが歌うものだった。プーロそのものである二人が歌うその歌は、フラメンコのアイレとエスプリに満ちており、佐藤は他のカンテと区別なくそのカンシオンを口ずさんだという。このカンシオン原体験が、ヘレスのカンテに心酔する佐藤にカンシオンへの扉を開いた。そもそもがカンテオタクと言えるほどにカンテ好きな佐藤だが、カンシオンの聴き方も尋常ではない。膨大な音源の中からフラメンコを踊るに適した選曲が行われている。フェルナンド・ソトの歌は、ヘレスのタブラオで初めて聴いた。まだ彼がブレイクする前だったが、一瞬で魅了され、次はぜひ彼を呼ぼうと決めた。「カンシオンには、カンテにはない美しいメロディがあるので、ドラマチックに振付け、踊ることは比較的簡単なんです。でも、逆に甘くなり過ぎないように心がけています」と、佐藤。最初にこの試みを行った時、スペインにもないその手法に、出演したスペイン人アルティスタたちはとまどいを隠さなかったという。それが終演後には、その楽しさ、斬新さに彼ら自身が驚き、「こんなのスペインにもないよ、今度はぜひこれをスペインで上演しよう」と、彼らは興奮して言ったそうだ。その思いが届いたのか、来年のフェスティバル・デ・ヘレスにこの作品で正式参加することが決まっている。さて、その評価や如何に?

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