グラナダの洞窟発、アルバ・エレディア、迫力のフラメンコを東京で鑑賞/Alba Heredia en Tokio, el baile que nace en la cueva de Granada

2年前、パンプローナのフェスティバルの公演で、共演した男性陣二人よりも力強く、ワイルドなバイレで、観客を大興奮させたアルバ・エレディア(Alba Heredia)。albafofのコピー.jpg
共演の男性陣とは、アルバの伯父のフアン・アンドレス・マジャ(Juan Andres Maya)と従兄弟のイヴァン・バルガス(Ivan Vargas)。どちらもグラナダの名門、ファミリア・マジャ(Familia Maya)を代表するバイラオール。当時二十歳そこそこのアルバは3番手くらいの気持ちで観ていたのが、豪快な番狂わせでした。

その好評を受け、翌年はソロ公演で招待されていたものの、怪我で断念。今年はパンプローナの広場での公演で会場を埋め尽くしました。

45144595_10212635202227260_3164995287714365440_n.jpgそのアルバ・エレディアを、今すぐ日本で観ることができます。11月11日まで新宿のタブラオ「ガルロチ」で日曜以外の毎日公演中です。(11/11は日曜日ですが、最終日なので営業とのこと。日曜しか行けない!という方には、最後のチャンスです。)(お店の情報はこちら。)

今回の見所は何と言っても、ど迫力のアルバ・エレディアのバイレ。公演前にアルバ本人、そして、アルバが舞台でも「人生のパートナー」とハレオをかける、バイラオールのロベール・エル・モレーノ(Rober el Moreno )も同席して話を聞いてみました。

23歳のアルバ率いる若手陣に、マドリードの老舗タブラオではおなじみのベテランカンタオール、ペドロ・ヒメネス”ペレーテ”(Pedro Jimenez “Perrete”)が加わったこのグループ。ペレーテは、アルバが若くしてマドリードに仕事に来始めた頃から知り合い。アルバ曰く「私のことをよく分かっていて、尚且つ、心の暖かい信頼できる人。一ヶ月半を一緒に過ごすんだから、家族のような人たちときたかったの。」カンテのマリアン・フェルナンデス(Marian Fernandez)は、幼い頃からグラナダのアルバの祖母のタブラオ「ラ・ロシオ(La Rocio)」で一緒に過ごした友人。ギターのルベン・カンポス(Ruben Campos)もグラナダ出身。マドリードに出て来て、ギターはエル・ビエヒン(El Viejin)に学んだそうです。

rober.jpgバイラオールのロベール・エル・モレノは、まだ20歳という若さ。”モレーノ”というのは”褐色の”という意味で、よく肌が褐色の人につけられるあだ名ですが、ロベールは普通、もしくは色白です。訊いてみると、お父さんがとても色黒で”エル・ネグロ(=黒)”と呼ばれていたので、その息子は色がちょっと薄まって”モレーノ”。そして、以前は今よりも色黒だったそうです。マドリード出身で、フラメンコ学校の草分けの「アモール・デ ・ディオス」仕込みのバイレ。クリストバル・レジェス(Cristobal Reyes)、トニー・エル・ぺラオ(Toni el Peleo)など、ロベールにとっては父親よりも年上の正統的な男性バイラオールからスタイルを学び始めたせいか若者にありがちな軽さや先走り感のないバイレ。そして「自分にとってのマエストロ」という8年に渡って教えを受けてきたアルフォンソ・ロサ(Alfonso Losa)のスタイルが、踊り出した瞬間から漂っていました。師事するというのはそういうことで、まずは信奉するマエストロのスタイルを体に叩き込み、その後、自分のスタイルが派生してくるもの。それだけに、誰を師、つまりお手本に選ぶかが重要です。お習字でも最初は綺麗な楷書から。そのお手本がお粗末だったら…あとはご想像にお任せします。ちなみにこのグループの後に(11/13?12/9)、先生であるアルフォンソが出演するので、ロベールを観ておいて、次にその師匠を観るのも面白いかもしれません。

ロベールのバイレは、マドリードのアカデミアのバイレ。一方でアルバは、グラナダのファミリアの中で身につけたバイレ。どちらもフラメンコではあるが、それぞれで習えるものと習えないものの違いはあります。それが返ってお互いの勉強になって、いい影響を与え合っているそうです。

alba3.jpgアルバは、小さい頃から祖母の洞窟のタブラオが自分の居場所。そこで、伯父のフアン・アンドレス・マジャやそこで踊る地元のヒターノを教えてもらって育ちました。その後も、グラナダ出身のマノレーテやエル・グイートなどヒターノのフラメンコスタイルの代表格である名バイラオールをお手本に踊って来たアルバ。男性舞踊手をくってしまうほどの激しさと力強さの原点はそのあたりにありそうです。伝説のバイラオーラ、カルメン・アマジャ(Carmen Amaya)とマヌエラ・カラスコ(Manuela Carrasco)が彼女のアイコンとも言っていました。

そしてもう一つは、自分の感覚を研ぎ澄ませて身につけたバイレであること。タブラオで踊りを見ては、真似しながらいろんなステップや動きを覚えていた少女時代。いいなと思ったパソ(ステップ)をしているダンサーがいたら「ちょっとそのパソ(ステップ)もう一回やってみて!」と頼んでは、それを見て覚えていたそうです。そのタブラオには、いわゆるダンススタジオのような鏡はありません。自分の姿をチェックする手段は自分の感覚。「18歳まで、鏡の前でのレッスンはしたことなかったわ」とのこと。見た目を気にすることなく、感じたままを炸裂させるバイレの秘密はここにもあるかもしれません。

今回の日本での公演の演目、振付や構成は、アルバが中心になりながら、二人で作ったそうです。ショーのタイトルは「サクロモンテ」。グラナダのヒターノ居住地の名前です。

幕開けはグラナダ起源の曲(メディア・グラナイーナ)のカンテからファンダンゴ・デ・アルバイシン。アルバイシンもグラナダの地名で、ファンダンゴはフラメンコの曲種名。通常のファンダンゴよりもアップテンポで、カスタネットを使って踊るのがアルバイシンスタイル。
終わると会場から「すごかったね」という声があちこちでするほどの迫力。若いながら、どこか老練な動きのアルバは、現代の若手には珍しい、これぞ生粋のフラメンカという雰囲気に溢れています。

一部のソロでは、ロベールは自分が一番投影できると感じるソレア・ポル・ブレリア。ピトと呼ばれる、いわゆる指パッチンを激しく鳴らし、サパテアード(足で打つ音)と組み合わせて踊ります。静と動のメリハリの効いた踊りと上背を活かしたダイナミックな踊り。若いながら、一曲の中でも、何度か空気感を変えて行くので、約10分の持ち時間が短く感じました。

albatango.jpgアルバのソロは、タラント。少し重めの曲調です。選んだ理由は「この曲が好きだし、後半はタンゴが入るので、そこで特徴のあるタンゴ・デ ・グラナダを披露したかったから。」
一つ前のギターソロの後半から、途切れることなくタラントが始まります。アルバは、トラディショナルな水玉の衣装に、エプロンスタイルで登場。このエプロンもタンゴの典型スタイル。曲の持つ重苦しさを体現し、噛み付くようなワイルドさ、叫んでいるような感情表現は自然そのもの。そういう「ふり」をするだけの踊り手には感じられない、本物の熱さが伝わって来ます。ワイルドなだけでなく、腕や指先の表現は柔らかくあるべき時には柔らかく、繊細な女性らしさを見せ、サパテアードもギターやカンテのメロディの聞かせどころを踏みつけることなく、真にフラメンコというものを楽しませてくれます。椅子を使いながら、ピトとサパテアードでタラントからタンゴに入ると、エプロンを使ったり、独特の身体の使い方で、セクシーでちょっと気だるく、ユーモアのあるタンゴの醍醐味満載のバイレ。23歳とは思えない貫禄を感じさせました。

20分の休憩を挟んで始まる第2部は、3パターン用意してあり、この日はAプログラム。
アルバ、ロベール共に、オープニングのプレゼンテーションからまた迫力のサパテアード。ルベンの後にアルバが打つのですが、長身でさらに若い男性舞踊手のロベールのサパテアードと同じ、いやそれより力強いほどのサパテアード。ただ音が大きいだけではうるさいだけですが、そうではなくニュアンスのあるいい音を打って、インパクトのあるブレリアでスタート。

44617815_488884221625655_189504694517760000_n.jpgこの日、2本目のソロはソレア。磨き上げた鋼のような身体のしなりと語り帰るようなサパテアード。鏡を見ながら身につけたバイレではないだけに、観客を射止めるような眼差しでグイグイ迫って来ます。セビージャやカディスとは違う、山岳丘陵地のグラナダ。洞窟で暮らしてきたヒターノ達が踊り継いで来たフラメンコがアルバのバイレのスタイルです。他の若手バイラオーラとは違う、アルバだけにある魅力がくっきりと見えてくるアーティストへと成長しています。(写真はソレアの場面のものではありません)

45175803_10212634908619920_7617885932733071360_n.jpg合間に入る、カンテソロ(歌のソロ)では、フラメンコの伝統的な曲だけでなく、ベテランのペレテが中南米でよく歌われるボレロの曲、InolvidableやTe extranoなどをブレリアにのせて歌います。もう一人の歌手、マリアン・フェルナンデスも耳心地の良いフラメンコボイスで、ペレテとのコーラスの相性もバッチリ。グラナダには、エストレージャ・モレンテやマリナ・エレディアなど哀愁を帯びたハスキーボイスの人気女性歌手が多く、マリアンの歌声もその流れを汲んでいます。

45182219_10212634909459941_3702164493783007232_n.jpg本物のフラメンコは感情の産物。たとえ同じ振り付けでも、その日の気持ちの状態で変わってくるものと言います。「基本、構成だけは決めていて、振り付け自体はその時の気分で即興的に入る部分も多いの」というアルバ。「時にはひどく疲れている時もあって、今日はしんどいなー、だから軽めにいこうかと言う日もあるの。だけど、一度舞台に上がって、ギターの音色やカンテ、そして舞台上の空気を感じるとパワー全開になって、「あれ?今日は緩めにしようって言ってなかったっけ?!」って言われるくらい、結局いつも通りに踊っちゃうのよね!」とも。

インタビューでは時間前に来てくれて、舞台上の精悍さとは違って、とても気さくで可愛い女性。このコントラストもまた、彼女の舞台を観る楽しみでもあります。

日本で間近に観られるのもあと数日!グラナダの洞窟に行かずとも、そこから生まれた生粋のフラメンコを、アルバがここ日本で観せてくれます。お見逃しなく!

写真/Fotografia : Copyright to Javier Fergo(Flamenco On Fire), Kana Kondo (Tablao Garlochi), Makiko Sakakura
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