2014年へレス・フェスティバル初日によせて。

昨年の歌舞伎座新開場から、歌舞伎鑑賞のよちよち歩きを始めました。初心者ならではの新鮮な発見をしている段階ですが、フラメンコとの共通点が結構あることにさらに興味をかき立てられています。たとえば音楽は、唄:カンテ、三味線:ギター、鳴り物:パルマやカホン。家系を中心にした役者の系譜のある歌舞伎に対して、ファミリアの血を重んじ、芸風を継いできたヒターノのアーティスト家系だったり。なんといっても一番共通しているのは、人から人へと芸を繋いできたことです。(FOTO:公演「Fatum!」より Festival de Jerez/Javier Fergo)

年長者が下の者に芸をつける。上の人に芸を習うに当たっての礼儀、心得。スペインでは、かしこまったお辞儀はないでしょうが、心の中で深いレスペクトを持って、先人の芸を学んできたのです。ビデオのない時代は、フィエスタの場で大人の間から顔をのぞかせて目と耳で学び、ビデオの時代には擦り切れるほど同じ踊りをみて、そして現代では、インターネットなどで既に他界したマエストロたちの残したアルテにふれることができるようになりました。

昨夜のフェスティバル・デ・へレスのオープニングを飾った公演「ファトゥム!(Fatum!)」。そこには二人のマエストロの存在が強く感じられました。素晴らしいソリスタの演技、生き生きと踊る14人のオーディションで選ばれたバイラオール、バイラオーラ達。彼らは、「小島&ラトーレ・バレー・フラメンコ(KOJIMA & LATORRE BALLET FLAMENCO)」という名を背負って、誇りを持って踊っているように見えました。若い仲間内だけで集まってやるのは楽しいし、楽な面も多いでしょう。「古いしきたり?伝統?いいじゃん、そんなの。フラメンコは自由なんだから。」そして、ダメだしする人もいません。しかし、マエストロにつき、ベースをしっかり学んでいれば、古いしきたりや伝統がこの文化を作ってきたことは身に染みて分かっています。自由で新しい表現を追求する中でも、学んできたことや師へのレスペクトを持ち続け、新しいことへも挑んでいくのでしょう。伝統や師匠の名、ファミリアの名を背負うこと。ある時は重荷かもしれませんが、その重みがあってこそ、何かを表現することに繋がるように思います。フラメンコは、自分をアピールして素敵に踊るというダンスとは違うのです。

4JAVIERFERGO_FATUM_11WEB.jpgソリストの一人で主人公を演じたクリスティアン・ロサーノ(Christian Lozano)は、バイラリン/バイラオール。スペイン舞踊全般とフラメンコの両方のプロのダンサーです。小島章司舞踊団「セレスティ-ナ」に出演していたので、日本で目にされた方もいらっしゃるかと思います。
1979年生まれの彼は、1917年生まれのアルベルト・ロルカ(Alberto Lorca)や1933年生まれのフアンホ・リナーレス(Juanjo Linares) 1912年生まれのピラール・ロペス(Pilar Lopez)や 1936年生まれのアントニオ・ガデス(Antonio Gadez)から学びました。今は亡き、マエストロたちです。というのは、実は公演後に知ったのですが、舞台での彼の踊り、動きの重みには、長年かけて熟成された師たちの教えが現れていました。学ぶことは自分の責任ですが、誰から学ぶかというのも非常に重要なことだと感じさせられました。(FOTO:Festival de Jerez/Javier Fergo)

2JAVIERFERGO_FATUM_15WEB.jpg作品は2時間たっぷりで見どころ満載。現実の世界と自らの運命に翻弄される主人公アルバロの心の世界が交錯します。運命役の小島章司氏は「逃れられない運命の力」の強さ、恐ろしさを見事に表現され、その存在感は作品の要となっていました。もう一人のマエストロ、ハビエル・ラトーレ氏(Javier Latorre)は、現実の世界の舞台の振付師役。実際この作品の振付もされているので、踊り手たちとのシーンもとてもリアル。厳しーいリハーサル、想像できました。ゲスト舞踊手役で登場のラ・モネタ(La Moneta)は、アレグリアスを踊りましたが、まるで火の玉のような迫力。来日時の公演で観たときよりも、体のうねりや表情がぐっと女らしく見えました。3JAVIERFERGO_FATUM_10WEB.jpg
モネタと途中ペアでも絡むのが、もう一人のソリスタ、ウゴ・ロぺス(Hugo Lopez)。筋肉には瞬発力の「速筋」と持続力の「遅筋」がありますが、この人は後者がメインではないかと思うほどスリム!腿の太さが、横で踊り別のバイラオールの半分もないのでは?バレエと違って、いろんなタイプの踊り手がいていいのがフラメンコ。最初の歌舞伎との共通点がまたここにもありました。そして、30代の勘九郎と80代の藤十郎が同じ舞台に立つように、若手舞踊手と二人のマエストロ、と言ってもお二人は80代ではありませんが、による、質の高い舞台でした。(FOTO:左上:小島章司氏 右:ハビエル・ラトーレ氏 Festival de Jerez/Javier Fergo)

さて、本日はエバ・ジェルバブエナ(Eva Yerbabuena)の公演「アイ!(Ay!)」。昨年3月にロンドンで初演された作品です。その時の様子はこちらでレポートしておりますので、予習にどうぞ。
「たとえ同じ作品であっても、まったく"同じ"ものは、存在しない」というエバ。決まった形だけをなぞるのではなく、踊りに感情を込めるからこそ、その時々で感じていること、思っていることが表れ、表現が違ってくるようです。そういえば以前、ピアニストのドランテスも「ピアノを弾く機械じゃなく、もっと自分の感情を乗せたいと思った。フラメンコピアノでは、それが可能だ。」と言っていました。技術はもちろんですが、レベルの高いスペインでは、技術を持っている人は山ほどいます。そこから人を惹きつけるバイレができるのは、やはり人としての力。感受性の豊かさや知識や経験の豊富さなのでしょう。

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
先行きが見えない...
壁を感じている...