フェスティバル・デ・ヘレス 2020 vol.5 ルイサ・パリシオ、カルメン・エレーラ、オルガ・ペリセー/ Festival de Jerez 2020 vol.5 Luisa Palicio, Carmen Herrera, Olga Pericet

第24回ヘレスのフラメンコ・フェスティバルでの公演の紹介を続けていきます。

フラメンコというと、日本では「女性・ドレス・バラの花」というイメージで描かれることが多いのですが、スペインの本場のフラメンコ界は、男性人口の方が多いのではないかと思います。フラメンコは、踊りだけではなく、ギターと歌(カンテ)があってのもの。ギタリストは、ほとんど男性。歌手もどちらかというと男性が多いのではないかと思います。正確な数字は分かりませんが、踊りも圧倒的に女性が多いというわけではありません。今年のヘレスのフェスティバルの公演でも、舞踊公演での比率は、3対2くらいで女性ダンサー=バイラオーラ主役の公演が少し多くプログラムされていますが、パーカッションやパルマ(手拍子)などのミュージシャンや共演者も含めるとほぼ同じくらいか、むしろ男性の方が多いでしょう。以前は、女性が舞台に上がるということは社会的に許されなかったこともあり、女性で歌や踊りがうまくても家の中だけ、仲間内の中だけにとどまっていました。政治体制の変化でその風潮がなくなってから、女性が舞台に上がってお金を稼ぐ”プロ”としてのアーティストが増えてきました。観光客向けではないフラメンコのコンサートや公演の客層も、半々、もしくは男性の方が多いくらいです。スペインでフラメンコのイメージを尋ねたら、きっと違うワードが上がってくることでしょう。

さて、今回はフェスティバルの中から、女性ダンサー=バイラオーラの公演をご紹介いたします。

250220PALICIO_01.jpgサラ・コンパニアでのルイサ・パリシオ(Luisa Palicio)の公演、「Temps(テンプス)」。ラテン語で、時間を意味するタイトル。この会場は、元々は教会だったので、天井が高く奥行きの深い作りになっており、舞台上方の高いところに、時計のプロジェクションが映し出され、時を刻んでいくところから始まります。ルイサは、子供の頃、時計職人だった父には、時間を早めたり止めたりする力があると思っていたそうです。目で見ることも、触ることも、感じることもできないけど、人生の宝物でもある”時間”。私たちを縛ることも、自由にすることもできる”時間”に関わる様々な場面や感情を表現していきます。舞台上の小道具や演出に、随所に懐中時計、砂時計など様々な時計を使ったり、時を刻む音を機械音だけでなく、声でも出したりとメインモチーフの存在をアピールする分かりやすい展開となっていました。

マラガ出身のルイサ・パリシオは、10歳でデビューし、今年36歳。バタ・デ・コラ(裾の長い衣装)での踊りに定評があり、セビージャにあるフラメンコ学校クリスティーナ・エレンでも教授活動をしています。一曲目からバタ・デ・コラで、白地に華やかな花の刺繍の施された美しいマントンをのびのびと使ってのアレグリアス。余裕の表情で、安定感のある見事なマントンさばきでした。

舞台上でバタ・デ・コラの衣装を脱ぐと、下には光沢のある素材のドレス。その上からレース生地のスカートをつけ、ソンブレロを持ち衣装チェンジ。この公演の衣装は、セビージャのLINAのもの。色のトーンがおしゃれで、このブランドならではのゴージャスな造り。途中でウエスト位置を変えて、別のスタイルのドレスにチェンジする一枚二役の仕込みもあり、舞台に立つ人にとっては衣装選びのヒントにもなったことでしょう。

250220PALICIO_03.jpgパーカッションのダビ・ヒメネス”チュペテ”の見事なパリージョ(フラメンコのカスタネット)との絡みも面白く、美しいスタイルのバイレを堪能できる作品ですが、見どころのバタやマントンの動きや舞台上の人数からしても、もっと幅のある広い舞台でできたらより活きてくるように思います。たくさんのエレメントが狭いスペースに詰め込まれてしまい、せっかくの細かい意匠が伝わりにくかったように感じました。遠くからでは見えませんでしたが、映像で見ると、出演者たちの衣装にも工夫が凝らしてあったようです。

260220CARMENHERRERA_01.jpg奥行きはあまりないながら、幅は広い舞台のサラ・パウルでソロ公演した地元へレス出身のカルメン・エレーラ(Carmen Herrera)は、ルイサ・パリシオと1歳年下。デビューは9歳なので、同じ年から舞台に立っているキャリア25年組です。同じキャリア年数でも、主にセビージャのアーティストからやフラメンコ学校で学んだルイサ・パリシオと、ヘレス中心で踊ってきたカルメン・エレーラでは、全く芸風も作品のつくり方も違います。フラメンコには様々なスタイルがあり、生まれや身につけた環境によっても踊り方に違いが現れ、それも面白みの一つとなっています。「あー、セビージャらしいな」とか「あ、あのアーティストに師事してきたのかな?」とか。日本の伝統芸能と同じで、上方と江戸の違いのように土地の特徴や師匠の味が見え隠れしたり。フラメンコ風に言うと、どこの泉の水を飲んで育ってきたかで、踊りに限らず、歌、ギターでも芸風やスタイルに影響が出てくるものです。

260220CARMENHERRERA_02.jpgタイトルは「La luz que me alumbra」=「私を照らす光」。踊ることから離れていた時期があったカルメンですが、いつも自分を後押ししてくれる存在、起き上がるために手を差し伸べてくれ、自分の行く道を照らしてくれていた光のような存在は父親だったそうです。その父へ捧げる作品では、共演者は皆、ヘレス陣で固めました。音楽を担当したハビエル・イバニェスとは昔からの知り合いで、久しぶりのカルメンとの仕事に意欲的。ヘレスの交響楽団も起用したり、2018年に逝去したヘレスのフラメンコ研究家のマヌエル・リオス・ルイス(Manuel Rios Ruiz)へのオマージュとして、故人の詩集から「La Sombra(影)」という詩の朗読だけの場面もありました。ヘレスでのフェスティバルらしく、この土地生まれ、この土地育ちのストレートなフラメンコ公演でした。

260220PERICET_03.jpg同じ日、大劇場テアトロ・ビジャマルタでソロ公演をしたのは、オルガ・ペリセー(Olga Pericet)。コルドバ出身で、舞踊学校でフラメンコだけでなくスペイン舞踊全般を身につけ、プロに進んだアーティストです。数々の舞踊団やアーティストと共演し、新スペインバレエ、スペイン国立バレエ団の公演にも出演。2011年からソロ作品を発表し始め、プレミオ・マックスの女性舞踊手賞や2018年には、スペイン舞踊の才能に対して国家舞踊賞(Premio Nacional de Danza)も与えられました。

「Un cuerpo infinito(無限の肉体)」と題された作品は、フラメンコをスペイン国外に広め、1941年にはニューヨークのカーネギーホールやホワイトハウス、その翌年からはハリウッドで公演したバイラオーラ、カルメン・アマジャ(1918-1963)へのオマージュ。カルメン・アマジャについて、2年間にわたって研究して作ったとのこと。カルメンを巡る”宇宙旅行”という言い方をしていたので、どういうことかと思っていたら、なんと公演冒頭には宇宙服で登場する場面も。

260220PERICET_06.jpg振付には、以前一緒に作品を創っていたマルコ・フローレスやラファエル・エステべ、ナニ・パニョスらが参加。今回のフェスティバルで引っ張りダコの地元ヘレスのミゲル・ラビのカンテ(歌)で、前半はオルガの踊りの巧さを楽しむ方向で鑑賞していたものの、非常に難解な作品展開での約2時間の長丁場。カルメンのトレードマークだったパンタロン姿での様々な踊り、ニューヨークでの日々を示唆する、黒人ミュージシャンのトランペットに合わせてのパフォーマンスなど、印象に残る場面はいくつかありました。オルガなりの解釈で、時空を超えてカルメン・アマジャに近づこうとした作品だったようです。

写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
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