’15 秋のバイレ公演より。アナ・モラーレス、アンドレス・マリン、サラ・バラス/’15 Otono,Ana Morales, Andres Marin y Sara Baras

芸術の秋!と言いますが、他にも食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋…結構いろいろありますね。四季のはっきりした日本では、季節ごとに旬の美味しい味覚があるだけに「食欲なんて一年中ある?」という方もいらっしゃるでしょう。この時期は、気候的に過ごしやすいので、何をやるにも向いていますね。(右下写真:セビージャ、ドン・ファブリケの塔の前に作られたアナ・モラーレス公演の舞台)

anamora0.jpgこと芸術に関しては、日本では文化庁の芸術祭参加作品の期間が10月?11月にかけてと決められていたり、美術では、日展や二科展など有名な公募展がこの時期に開催されることも影響しているのかもしれません。芸術祭や各種コンクールなどの審査に際しては、その分野に精通した然るべき方々があたらているのでしょうが、海外が本場の芸術に関しては、どういう基準で評価されるのか興味が湧きます。中でもフラメンコは、楽譜もなく、決まった型や紙に書かれた技術規定はありません。しかし、他分野のダンスにはない、”フラメンコの基本”のような暗黙の了解はあります。そのパフォーマンスにフラメンコを感じさせる芸術性があるかを見抜くのは、机上の知識だけでは難しいもの。また、いまだにフラメンコ=踊りという図式が先行して、フラメンコの原点である音楽のクオリティまで評価対象が及んでない可能性もあります。スペインやフラメンコという言葉からくるイメージ=「情熱的」「気迫」「爆発力」を前面に押し出せばフラメンコとしての評価が高いというのは、日本に限らず、どの海外でも起きている現象でしょう。芸術の発展のプロセスにはイメージを掴むというのは必要なことかもしれませんが、その先をいっているスペインのフラメンコを知っていただく機会がもっと増えればと願います。

例えば、歌舞伎の見栄の切り方一つでも、どこに芸の円熟を見るのか、何ができていることが素晴らしいのかは、たくさんの役者を実際に観て、歌舞伎の歴史や知識を身につけていなければわからないように思えるのです。私は新米歌舞伎ファンなので、好きな役者さんの見栄はいつも見ても「かっこいい!」と思います。それは単なる好みの世界で、好き嫌いと芸術性の高さの判断は別の話。だから、私には批評はもちろん、評価する眼力はありません。しかし、ファン、愛好家はそれでいいと思います。とにかく、楽しんで、素敵を発見して、好きなアーティストを応援する。”好きなもの”が増えることは、人生の楽しみ方もきっと広がっていくことでしょう。

anamora2.jpgセビージャでこの秋行われた、ビエナル主催のフラメンコ・フェスティバル “Septiembre es Flamenco”公演から、アナ・モラーレス(Ana Morales)とアンドレス・マリン(Andres Marin)の公演をご紹介します。

アナ・モラーレスは、先日(9月23日)日本で公演を行ったアンダルシア舞踊団の女性ソリストです。冒頭一人で舞台に現れたアナ。照明の効果で小柄な彼女がとても大きく感じられました。さらに後ろにそびえる塔にアナのシルエットが映し出され、修道院のパティオに作られた細長い舞台をうまく使った演出で始まった作品「Los Pasos perdidos」。同じくアンダルシア舞踊団のソリスト、ダビ・コリア(David Coria)も制作に関わっていますが、舞台上で踊るのはアナ一人。マイクが音を拾うほどの強風でしたが、ものともせずに舞台は進行していきます。ミュージシャンは、ピアニストのパブロ・ソアレス(Pablo Suarez)、カンテのミゲル・オルテガ(Miguel Ortega)、フアン・ホセ・アマドール(Juan Jose Amador)、ギターは、サルバドール・グティエレス(Salvador Guitierrez)とミゲル・アンヘル・コルテス(Miguel Angel Cortes)ら実力派、マエストロ級のアーティストががっちり固めました。

anamola2.jpg何かを探し求める一人の女性の心の動きをフラメンコという音楽、リズム、アクセント、動き、カンテの声、ギターの音色、そしてアナのバイレのテクニックを使って見事に表現。歯切れの良いサパテアード、小柄なのに重みのある体の使い方。スピード感がありながら狙ったところに動きがビシッと決まるコントロールの素晴らしさは、さすが、アンダルシア舞踊団の現監督ラファエラ・カラスコが一目おくだけのことはあります。近年見た若手ソロ作品の中でも、特に完成度が高く、見終わってとても満たされた気持ちになれるものでした。何がそうさせるのか?その一つは、バイレとその他のエレメント、例えば楽器、演奏、歌手、演奏者、舞台セットなどが必然性をもって繋がっていたということでしょう。全てが一つ一つの場面を作る大切な存在。しかも、そのクオリティが非常に高かったことも観客の満足度をアップさせたのでしょう。今回のフェスティバルの中でも評価の高かった公演のひとつです。

andres3.jpgその3日後に同じ会場で公演が予定されていたアンドレス・マリン公演は、天候に配慮して、前日の真夜中に会場変更が決定されました。翌日、見事に予報的中。普段、傘を持ち歩く人もいないし、スペインの天気予報は大雑把だと思っていましたが、こういう予報はバッチリ当たるのです。
突然のアラメダ劇場への場所変更。舞台の形も大きさも、会場の雰囲気も全く違います。あのドン・ファブリケの塔のパティオという幻想的な場所をイメージして作られた作品だっただけに、意図通りにいかなくなった部分はあったでしょうが、公演は淀みなく進行。音響もほぼぶっつけ本番状態だったそうですが、さすがベテランの仕事。アンドレスの望む場面に合った音響効果を作り出していました。

andresmarin2.jpg会場に入ると、床には白い紙で折った船があちこちにたくさん敷き詰められていました。公演タイトルは「カルタ・ブランカ(Carta Blanca)」。スペイン語の意味は、読んだそのままの”白い紙”以外に、”何をやってもいい自由を与える”という意味もあります。舞台上のアンドレスも自由、観る側も好きに受け取っていいわけです。

まず、客席の通路から2人の歌手、セグンド・ファルコン(Segundo Falcon)とホセ・バレンシア(Jose Valencia ; 今月(10月)来日予定)が登場。ベース、ドラム、シンバルという楽器と2人の掛け合いのカンテ(歌)が続きます。最初はシルエットだけ見えていたアンドレスは、黒のシャツとパンツという体の線のはっきり分かるスタイルで登場。そこに、毛皮を巻いたり、牛につける大きな鐘を腰につけたり、お面に紙の帽子被ったり、透明なセロファンに包まれたり、金の指ぬきをつけたり…。次々と自由に自分の世界を繰り広げました。andresmarin1.jpg舞台上で使っているものは、一般的に「フラメンコ」のイメージでは現れないものばかりで。しかし、それはスペインの文化に繋がるものであったり、なによりフラメンコ音楽が根底にありました。カンテ好きで自らも歌うアンドレス・マリンがバックミュージシャンのメンバー(前述のカンテ2人+ギターにサルバドール・グティエレス(Salvador Guiterrez)、ベースにラウル・カンティサノ(Raul Cantizano)を見ても、こだわりが分かります。この全てを使ったアンドレス独自の表現方法によるフラメンコ。それをどうとるかは観客の自由です。彼、独自の言語が伝わるかどうか。それもまたスリリングな挑戦なのかも知れません。

東京でも9月21日から3日間、PARCOさん主催のフラメンコ・フェスティバルが開催され、サラ・バラス(Sara Baras)、アンダルシア舞踊団(Ballet Flamenco de Andalucia)というスペイントップクラスのアーティスト達による公演がありました。

20150921_SaraBaras_Voces_02_HirohisaAoyagi.jpgサラ・バラスは10年ぶりの来日とあって、ファンの期待も高まっていました。また、以前、東京で半年間踊っていたこともあって日本で馴染みのある人がいたり、カルロス・サウラの映画「Flamenco Flamenco」が日本で上映されたりしたこともあって、アウェーというよりホームでの公演と言った方がよいくらいの歓迎ムードでした。

休養、出産(2011年)後のサラは、2012年の「ラ・ペパ(La Pepa)」という作品をスペインで観る機会がありましたが、今回も変わらぬキレのあるバイレと男性並みのスピード感あるサパテアードは健在。劇場でのロングラン公演も多く経験してきているだけに、観客へのアピール力は、現代のフラメンコアーティストの中でもトップ。観客が思わずシンパシーを抱くようなチャーミングさが随所に見えました。

20150921_SaraBaras_Voces_01_HirohisaAoyagi.jpg作品は「ボセス、フラメンコ組曲」と題され、舞台上に配されたパネルに描かれた今は亡きアーティスト達、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)、カマロン・デ・ラ・イスラ(Camaron de la Isla)、アントニオ・ガデス(Antonio Gades)、エンリケ・モレンテ(Enrique Morente)、モライート(Moraito)、カルメン・アマジャ(Carmen Amaya)らにオマージュする形で構成されていました。それぞれのアーティストの肉声によるナレーションが流れ、それをきっかけにカンテやバイレが始まります。パコ・デ・ルシアのナレーションは、以前字幕をつけた「Francisco Sanchez – Paco de Lucia」というドキュメンタリー映画の中からの抜粋だったようなので聞き覚えがありましたが、他のアーティストの部分は結構聞き逃してしまいました。あのフレーズがすんなり理解できていれば、さらに味わい深く観れたことでしょう。

共演者には旦那様でもあるバイラオールのホセ・セラーノ(Jose Serrano)。2000年から共演をしているので、舞台上でももう15年ペアを組んでいます。そして今回のゲストとして、サックス奏者のティム・ライス(Tim Ries)が参加。一流のサックス演奏にサラが絡んで踊り続けました。サラのスレンダーなスタイルでキリっと踊るファルーカも印象的。20150921_SaraBaras_Voces_08_HirohisaAoyagi.jpgそのシルエット、踊り方を見ただけで「あ!サラだ」と分かりますし、衣装のチョイスにも個性が表れているサラ・バラス。明確に独自のスタイル、サラ・スタイルと呼べるものを持ったアーティストです。アラフォーを過ぎてこれから、どのような路線で進んでいくのか楽しみです。

続いて開催されたアンダルシア舞踊団公演については、現在、舞台写真待ち。リハの様子から観てまいりましたので、次回ご報告いたします。

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取材協力:PARCO 

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