病床から復帰のバイラオーラ授賞式。ギターコンサートの醍醐味。ロルカ作品「ドン・ペルリンプリンの恋」をフラメンコで描いた作品。

セビージャのバイラオーラ、アンへリータ・バルガス(Angelita Vargas)。日本でも多くのファン、生徒をもつ素晴らし踊り手です。その彼女が脳梗塞で倒れたというニュースが届いたのが昨年6月。タブラオ「EL ARENAL」の創設者クーロ・べレス(Curro Velez)賞の受賞式で、回復されたお姿を見ることができました。

IMG_0144.jpgアーティストとして、その純粋かつ深遠なアルテと今までのキャリアを讃えての褒章です。授賞式の挨拶では、日本からの回復援助にも触れられ、ショートドキュメンタリーが上映されました。その後、ロリ・フローレス(Loli Flores)、マヌエラ・リオス(Manuela Rios)らタブラオ・エル・アレナルに出演中のメンバーによる公演。巨匠、アンへリータを前にバイレにも一層心が込められていました。。IMG_0158.jpgのサムネイル画像
最後は来場していたアンへリータのファミリアが皆舞台に上がり、まだ右手の麻痺がとれないアンへリータも登壇。ファラオナ(Faraona バイラオーラでファルーカの妹)と一緒に、座ったままですが踊ってくれるといううれしい場面も。フラメンコの至宝、さらなるご回復を心からお祈りします。

さて、ビエナルのフェスティバルでは続々と公演が続いています。初めて来た2000年は、大劇場マエストランサでの公演が多かったのですが、途中改装で使われない年もあり、今では78公演中11公演。作品数にすると8作品のみです。その一方で、先日もふれた修道院の一室やパティオ(中庭)を使ってのコンサートが増えました。またパティオのコンサートやセントラル劇場の公演には23時開演というのがあり、夜行性の人向けの時間帯設定となっています。

manolo franco1.jpgのサムネイル画像「生音」シリーズのコンサートの記者会見。「今でこそ、パーカッションやカンテが入るけど、当初は、ギターのリサイタルというとギター1本だったんだ。それを今回やるよ」と言ったギタリストのマノロ・フランコ(Manolo Franco)のコンサート。音楽を聴いて心に変化が起きる―それを確かめる試みを昨年アントニオ・エル・ピパのクルシージョで一度だけやりました。公演で使ったオリジナルの曲をかけると、ポロポロと涙がこぼれてくる人が数人。まさに心が何かを感じ体が反応したのです。急にそのことを思い出したは、マノロ・フランコの演奏を聴いていたら、なぜか楽しかったことが心が蘇ってきたからなのです。そして何とも穏やかな気持ちになれました。マエストロのアルテでしょうか。

IMG_2904.jpg一方、若手ギタリスト、アントニオ・レイ(Antonio Rey)のコンサート。ギターソロもありましたが、フルバージョンでは、セカンドギター、カンテ2名、パルマ3名、パーカッション2名、ベース、バイオリン、ピアノという構成。そして何と、サプライズでアルカンヘル(Arcangel)とエストレージャ・モレンテ(Estrella Morente)が一曲ずつ歌をプレゼント。会場にはファルキート(Farruquito)やギタリストのサルバドール・グィテエレス(Salvador Gutierrez)の姿もあり、時間が遅いというのとバイレがないということでなのか、いつもとは観客層が違っていました。さて肝心の演奏ですが、こちらは聴いていると何だかドキドキする感じ。これはこれでエキサイティング。あくまでも個人の感想ですが、同じフラメンコギターでも実力と独創性のあるアーティストによって演奏されると、心がいろいろな反応するようです。そして反応できる柔らかい心の状態で劇場に向かえると、よりアルテを楽しめるのではないでしょうか。

IMG_0388.jpgそして今現在、一番作品の世界に没頭して観ることができたのが「アレルヤ エロティカ(Aleluya Erotica)」。スペインの詩人、ガルシア・ロルカ(Federico Garcia Lorca)の悲喜劇「ドン・ペルリンプリンの恋(El amor de don Perlimplin con Belisa en su jardin)」をベースにした作品です。原作の最初に出てくるシンプルな台詞も使われ、ストーリーのエッセンスをうまく抜き出していました。出演者はベリーザ役にバイレでロサリオ・トレド(Rosario Toledo)、ドン・ペルリンプリン役にカンテ、ホセ・バレンシア(Jose Valencia)、そしてギターにダニ・メンデス(Dani Mendez)の3人だけ。しかもダニは影の人物ぽく、うっすらとしか姿は見えない設定。つまり実質二人だけで舞台の空間を埋めなければならないのです。しかしそんな心配は無用でした。ホセの存在感、ロサリオの魅力的なバイレのどちらも目が離せませんでした。若く美しい妻を愛し始めたものの受け入れられないドン・ペルリンプリンの失望感。密かに架空の人物に恋をして、奔放にふるまうベリーザ。かすかな希望、そして絶望。それぞれの場面にフラメンコの曲種をうまく使っていました。二人の掛け合いもパルマとサパテアード。IMG_0336.jpg途中には、ワルツのパソも入れたり(これは、アーティストにとって初めての経験だったそうです)。水を張ったセットの淵で踊るロサリオのバイレにはドキドキハラハラ。これも観客の気持ちを集中させるテクニック?と思わせるほどでした。そしてこの水がエロティックな効果を醸し出す場面もありました。実際の年齢よりも2,30歳年上の役に挑戦したホセ・バレンシア。バイレメインの作品では、激しいサパテアードとの掛け合いが多く、じっくりとその声を聴ける時間は短いのですが、この作品ではカンテも堪能できました。迫力だけではないニュアンスのある声と、一人でどんな場面もこなしてしまう才能には改めて感心させられました。監督は、バイラオーラとしてアントニオ・ガデス(Antonio Gadez)と15年一緒に仕事をしていたフアナ・カサード(Juana Casado)。とても美しくてエレガントなお方ですが、チームをがっちりとまとめて、たったの約一か月のリハーサルで舞台を完成させた強者です。人間の心の明暗をえぐるロルカの作品と3人の才能あるフラメンコアーティストに感情を揺さぶられた一夜となりました。
FOTOS 舞台写真:Antonio Acedo / その他:Makiko Sakakura