10月12、13日。恵比寿のサラ・アンダルーサ。ヘレスのコンパスが舞台上のアルティスタとお客様の間で絶え間なく呼応した。タイトル通り、まさに『eco』。2日間4回の公演は、彼らが持ってきた「生きた」フラメンコと、たくさんのお客様との交感によって幕を閉じた。

 大阪の秦晴美さんから、この公演への出演オファーをいただいたのが3月。そこから何度も何度もメールのやり取りを重ね、実現に漕ぎつけた。晴美ちゃん、本当にお疲れ様でした。ご来場くださったお客様、ありがとうございました。

ミヒータ

 12日。ドミンゴ達が夕方サラ・アンダルーサ着くと、カルメンの姿がない。スペインから3日前に大阪に着いて、翌日すぐに福岡へ移動、2日間のライブとクルシージョの後、東京へ。ひどく疲れていて、ホテルに直行したという。そりゃ当然だ。本番まで少しでも横になりたいだろう。ドミンゴ達も、早くホテルに行って、シャワーを浴びて鬚を剃りたい!と訴える。了解了解!エスコビージャなど、ざっくり要所要所のみお手合わせして、ではこんな感じで、と終わろうとすると、ドミンゴがミヒータに「お前ちょっとブレリア歌ってみろ」と言う。ミヒータと私は初対面なので、ミヒータに私を紹介したいのだ。そう、初対面の挨拶はブレリアに限る。ミヒータがよっしゃとばかりに歌い始め、そこにスッと入って行く。お互いが繋がる。OK、そこで終了。ドミンゴとホセも笑顔。ホテルへと急いで行った。

名カメラマンの高瀬さん。彼らがあっという間にいなくなると、今までのやり取りを見てはいたが、「リハはいつやるのー?」。 
「あっ、もう終わりました。」
「えっ?今のがリハ?」

フラメンコって、だからいい。コンパス感、価値観、美学が一緒であれば、ああだこうだなしで、すぐ繋がれる。この幸福感に勝るものはない。

カルメン3

知人がカルメンの踊りを、「とっても自然体。ちょっとお醤油借りに来たわ、みたいな感じで踊り始めた。」と言っていて、あー、面白い!と思った。確かに、かなり難しいことをやってはいるのだけれど、幼馴染のミヒータの歌で踊るカルメンには、何かこう、暮らしの匂い、街の匂いがあった。

ユキ

21年前、私がヘレスに住んでいた頃、アナ・マリア・ロペスのクラスには錚々たるメンバーがいた。カルメンはまだ年少組で、年長組にはマヌエラ・ヌニェス、パトリシア・イバニェス、ロシオ・マリン、エステル、ロサリオなどなど。ちょうどメルセデス・ルイスが抜けてすぐの頃だ。まあ、全員が見事なブレリアを踊っていた。私は彼女達の踊りを見るのが楽しみで、せっせと通っていた。ドミンゴは遅い時間から例の苦虫を噛み潰したような顔で現れ、ホセは時々来てパルマを叩いたりカホンを叩いたり。もちろん彼らは、私がペーニャの隅っこで、目立たぬようひっそりと彼らを観察していたことなど知る由もない。

彼らと今、同じ舞台に立ちながら、「フラメンコ、彼らにやらしとけー!」って、素直に思う自分がいる。それは決して僻みや妬ましさのようなネガティブな感情でも、負けず嫌いの口惜しさでもなく、ただただ、あの街のあの匂いの中で生まれたフラメンコを、心からいいなーと思うのだ。もちろん、それに憧れて突っ走って来たのだけれど。そして、こうして同じ舞台にいる私の行動とは相反するのだけれど。でもそれは、彼らのものを手に入れたくて突っ走っていた頃にはなかった、あったかさのある感覚だった。

ドミンゴとホセフィン・デ・フィエスタ
foto/高瀬友孝

『eco』の数日後、『Street Art-plex Kumamoto Extravaganza2014』というイベントに参加させていただくため、熊本に飛んだ。

熊本市が主催のこのイベントは、市の中心市街地のストリート上で、多ジャンルのミュージシャンやパフォーマーがそれぞれのライブを繰り広げるという、とても興味深いもので、私には、フラメンコの後に韓国のパンソリという伝統音楽の方とコラボレーションするというオファーが付いて来た。パンソリとはなんぞや?全く未知の世界だ。

主催者から事前に告げられた情報は、
「歌い手のペ・イルドン氏は、7年間山に棲み、滝の音に負けないよう毎日歌い続けた、凄まじい声の持ち主。絞り出すのではなく、空間を作り出す声法である。」
このくらいだった。いったい、どんなことが起きるのか?

18日当日。やおらペ・イルドン氏が歌い始める。おー、まさに空気を千切る声。あっという間に世界が作られる。彼の声から何もかも漏らさず受け止めようと神経を集中させる。まさに戦いだ。集中の先にきっと身体が動く動機があるはず。それを逃すと私は迷い子になる。迷ったらダメだ。

あれっ?これってフラメンコを踊る時と同じじゃないの?!?

短くも濃厚な戦いの時間が終わり、ぺ・イルドンさん、私に「beautiful!」と一言。あら、嬉しい!「Thank you!」とハグして、摩訶不思議な国際交流は終わった。

ペ・イルドンとチョ・サンミン

ペ・イルドン氏/歌(写真左) チョ・サンミン氏/太鼓(写真右)

10月3週目は、めったにない熱い交流が続いた1週間だった。次は一体誰と何が起きるのか。アーティスト達と出会い、揉まれながら、こうして自分は何故踊るのかを探し続けていくのだろう。

アクースティカ倶楽部

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