JAVIERFERGO_FLACOMEN_04前回はヘレスのフェスティバルで聴いたカンテ公演を中心に紹介しましたが、今回はバイレ(踊り)公演についていくつかピックアップします。作品名をクリックすると、ダイジェスト映像にリンクするようにしましたので、そちらも併せてお楽しみください。

1200人収容のビジャマルタ劇場での公演からは、まずはこの人!イスラエル・ガルバン(Israel Galvan)。昨年(2014)のビエナル(セビージャのフラメンコフェスティバル)と同じ演目「FLA.CO.MEN」ですが、劇場はざっくり倍の大きさです。イスラエルのスペイン語でのバイレ指南とエロイサ・カントン(Eloisa Canton)の英語での解説がコミカルに絡み合うオープニングからスタート。ダビ・ラゴス(David Lagos)、トマス・デ・ペラテ(Tomas de Perrate)、カラカフェ(Caracafe)、そしてプロジェクトロルカ(Proyecto Lorca)の面々が次々とユニークに絡んでいきます。舞台が広くなった分、イスラエルだけでなく共演者達一人一人の個性もより伸び伸びと発揮されていたように感じました。(ビエナル公演時の記事はこちら)公演前の記者会見で、地元のカンタオール、ダビ・ラゴスが「この作品では、出演者それぞれが自由に表現し、個性を存分に発揮しているよ」と言っていたことを思い出しました。JAVIERFERGO_FLACOMEN_05.jpg観客の受けや批評を気にして、やりたいことをそのまま表現することが難しくなっている昨今。そんな中で、イスラエルは、とても正直で誠実なアーティストだとも。イスラエルが彼独自のビジョンで内面を見つめ、そこに映るものを表現しているが故に、他人である観客には100%彼の意図することをつかむのは難しいことでしょう。しかし、長年一緒に仕事をしている共演アーティスト達はそれを汲み、こおうして作品づくりに関わっています。客席側では、長年繰り返しイスラエルの舞台を観ている観客、初めてイスラエル作品を観た観客と様々な目線から見ていますが、それぞれ理解の度合いは違っても、イスラエルの叫び、つぶやき、喜び、ユーモア、悲しみが伝わってくるのでは。さらに、フラメンコから生まれたその動きの美しさやエネルギー。次はどんなことをするんだろうというワクワク感に溢れた作品でした。JAVIERFERGO_FLACOMEN_11.jpg今回の滞在中、幸いにもイスラエル・ガルバンとアクラム・カーン(Akram Khan)バングラデシュ系英国人ダンサー/振付家。コンテンポラリーと北インド舞踊のカタックを融合させたパフォーマンスで世界的に有名。)の作品「TOROBAKA」のアンダルシア初演を観ることができました。イスラエル・ガルバンのダンサーとしての才能、フラメンコという世界を飛び出して、ダンス界においてもトップクラスにあることを改めて認識。今後どんどん、イスラエルのような踊り手を通じて、フラメンコという土壌から生まれたアーティストの持つ独特のエネルギーをより広い人々に知っていただきたいものです。(上写真は三点とも「FLA.CO.MEN」より)

JAVIERFERGO_MONETA_17.jpg今回のフェスティバルの中で、がっつりバイレフラメンコを楽しませてくれたのは、ラ・モネタ(La Moneta)の公演「パソ・ア・パソ(Paso a paso)」。「筋書きはなにもない。ただ、カンテとギターとバイレがあるだけ。グラナダ生まれのラ・モネタというバイラオーラを観てほしい。」という記者会見での彼女の言葉通り、1時間半ほぼ踊りっぱなし。師であるハビエル・ラトーレ(Javier Latorre)や同世代のヘレスのカンタオール、ミゲル・ラビ(Miguel Lavi)ら、長年協力し合って来たアーティストの共演で、最後までほとばしるエネルギーが途切れることはありませんでした。骨の髄までバイラオーラというのを見事に証明しているようでした。

JAVIERFERGO_BALLET-IMAGENES_06.jpgビエナルに続いて二度目の鑑賞となったのは、バイラオーラのラファエラ・カラスコ(Rafaela Carrasco)率いるアンダルシア舞踊団の「IMAGENES」。昨年のビエナルのヒラルディージョ賞で最優秀作品賞を受賞した公演です。(関連記事はこちら)イスラエル・ガルバンの「FLA.CO.MEN」もそうですが、やはり二度目は見えてくるものが違います。特に舞踊団ものは、舞台上に多くのアーティストが一度に登場するので、何人もの踊り手に注目して観るのは困難です。二度観て面白いと、一度目と二度目で感じた違いや発見を確かめたくなったり、まだ見落としている美味しい部分があるかも?と思え、さらに「もう一回観たい!」となるのです。毎日長時間、厳しいリハーサルを続けて初演を迎えた昨年9月のビエナルから約半年後。アーティストも作品も熟します。以前にも書いたかと思いますが、スペインのトップアーティストは常に進化し続けています。何年、何十年ものキャリアがあっても、アーティスト様、先生様になってしまわず、常に多くを吸収し学び続け、10年前、5年前、昨年と比べるとさらによくなっている、衰えていない人こそが残っていくトップアーティストなのです。(写真左上:アンダルシア舞踊団の監督でもあるラファエラ・カラスコ)

JAVIERFERGO_BALLET-IMAGENES_01.jpgアンダルシア舞踊団には、ダビ・コリア(David Coria)、アナ・モラーレス(Ana Morales)ら素晴らしい若手の踊り手がたくさんいますが、その中でも個人的に注目しているのが、アルベルト・セジェス(Alberto Selles:左下写真の前三人のうちの左側のバイラオール)。まだ23歳ですが、既に舞台キャリアは20年近いのです。その証拠がこちら。当時5歳。しかし既に、フラメンコのバイラオールたるものを分かっているかのよう。バイラオールは"アーティスト"。子供であっても、おちゃらけたり、笑ってごまかしたりなんて素振りは1ミリもありません。曲が始まる前から、そう、バイラオールとして舞台に立った瞬間からキリリと集中しています。
JAVIERFERGO_BALLET-IMAGENES_12.jpg伝説のカンタオール、カマロン・デ・ラ・イスラ(Camaron de la Isla)と同郷のサン・フェルナンド(San Fernando)出身。隣町のヘレスで、アンへリータ・ゴメス(Angelita Gomez)やアントニオ・エル・ピパ(Antonio El Pipa)のクラスを受け、17歳でセビージャのフラメンコ学校に奨学生として入学。そこでハビエル・バロン(Javier Baron)らの教えを受け、二年後には教える側に回るようになりました。歌手がソロだけでなく、踊り伴唱をすることでより成長するように、ソロで踊るだけでなく、アンダルシア舞踊団に入ったことで吸収することが多かったか、彼の踊りはさらに磨きがかかっていました。才能、努力に加え、スペインでよく言う言い方?良い泉の水を飲んで育ったことも大きかったのでしょう。ちなみに彼の曾祖父は、カンテ・フラメンコの巨匠の一人、アウレリオ・セジェス(アウレリオ・デ・カディス/Aurelio Selles (Aurelio de Cadiz))だそうです。

JAVIERFERGO_TOUCHE_04.jpgそのアンダルシア舞踊団でのソリスタの経験し、ぐっと成長したアーティストの一人、パトリシア・ゲレーロ(Patricia Guerrero)のソロ公演「Touche」は、サラ・コンパニアという小劇場で公演されました。バイオリンのブルーノ・アクセル(Bruno Axel)との対峙場面では、サパテアード(靴音)のテクニックを堪能。ただサパテアードを打つのではなく、強弱といい、間合いといい、そして女性でありがなら、あのスピード感と力強さには素晴らしいものがありました。フラメンコは『競技』ではありません。フラメンコの"爆発力"とは、100メートルダッシュで一番でゴールすることではないのです。大げさに動き回り、汗をかき、息があがっていることに賞賛が集まるものでもないのです。"ドヤ顔(今風に言うとですね)"に大音量で激しくサパテアードを打てば拍手は集まりますが、ずっとそんな"フォルテ"ばかりのサパテアードに音楽を感じるでしょうか?テクニックとは打つだけではなく、それをコントロールできること。さらに、それぞれの曲がもつニュアンスを尊重し、そこの載せる自分の気持ちを表現して打たれたサパテアードは音楽であり、アルテ(アート)となるのです。JAVIERFERGO_TOUCHE_03.jpgカンテには、今年来日したホセ・アンヘル・カルモナ(Jose Angel Carmona)。(関連記事はこちら。)ビエナルでのパトリシアのソロ公演でも歌っていました。ロシオ・モリーナ(Rocio Molina)、ベレン・マジャ(Belen Maya)、オルガ・ペリセー(Olga Pericet)など、カルモナを起用するのは個性的なバイラオーラが多いのですが、彼女達の要望に的確に応えることのできるカンタオールということでしょう。

JAVIERFERGO_CALLEJON-PECADOS_08.jpgサラ・コンパニアでは、エドゥアルド・ゲレーロ(Eduardo Gerrero)のソロ公演「Callejon de los pecados」も行われました。昨年のビエナルでの公演と同タイトル。ビエナル公演が素晴らしかったので「もう一度観たい!」と思って行ったのですが、内容は別のもの。しかし、これもまた面白い!迫力のタラント(曲種名)でスタート。鋼のような強さと美しさを兼ね備えたスタイル抜群の肉体。超絶なサパテアードをしていても、頭が全くぶれません。全身の全てのパーツを使ったダイナミックなバイレとフラメンコのセンスは、さすがエバ・ジェルバブエナやロシオ・モリーナが自分のカンパニーメンバーとして起用を続けるはずです。JAVIERFERGO_CALLEJON-PECADOS_04.jpg作品を通じて、音楽ではヘスス・ゲレーロ(Jesus Guerrero)のギター演奏がキラリと光っていました。絶妙なタイミングで引っ込む粋さ、ピアノ演奏をバックにしてのドラマティックなバイレに、観客もぐいぐいと引き込まれていました。実際、翌日エドゥアルドと一緒に劇場に行くと、何人もの人たちから「あなたの公演は素晴らしかった!」と声をかけられてたり、握手を求められたりしていました。チャーミングで色気のあるアーティスト、これからも注目していきたいです。

JAVIERFERGO_IDENTIDADES_06.jpgこちらもビエナルの再演となるパストーラ・ガルバン(Pastora Galvan)の「&dentidades」。(ビエナル公演時の記事はこちら)今回はゲストに、父であるホセ・ガルバン(Jose Galvan)を迎えての公演となりました。セビージャで生まれ育ったパストーラが、セビージャを代表するバイラオーラ達にオメナヘ(=オマージュ)を捧げる内容で、それぞれの先人アーティスト達のIdentidad=アイデンティティーを取り入れた踊りを披露します。しかし、あくまでもそれは物まねでなく、パストーラ自身の解釈で踊るということ。近くで観ると、衣装にもアイデンティティーを表す工夫がなされていて、二度目ならではの発見に満ちた鑑賞となりました。

JAVIERFERGO_IDENTIDADES_08.jpg娘の作品に特別ゲストとして迎えられ、大劇場で踊れる歓びに溢れたようなホセ・ガルバンのバイレも感動的でした。セビージャで多くのアーティストを育てて来たマエストロの一人でもあります。フィナーレでは、少し涙ぐんでいるように見受けました。スペインに滞在し、ビエナルを初め、各地でフラメンコ公演を本格的に見始めてまだ15年ですが、パストーラを初めて観たのは16年前に観光で訪れたセビージャのタブラオ「ロス・ガジョス」でした。当時若手だったパストーラは、その後、兄、イスラエルのテイストも加えながら、どんどん進化していくのが目に見えて分かりました。そして近年、"パストーラ・ガルバンのバイレ"というものが確実に見えてきました。今回、彼女自身がこの作品で取り上げたマエストラ達のように、踊りのスタイルや振りを見るだけで「あ!これは誰々のバイレね」と言われる域、つまりアイデンティティー=タイトルの「&dentidades」をパストーラ自身も確立してきたのです。

JAVIERFERGO_IDENTIDADES_12.jpg「この人のバイレ、また観たい」「あの作品、もう一度観たい」と思える魅力的なバイラオール/バイラオーラ(=フラメンコダンサー)はたくさんいます。これからも、このコーナーで紹介させていただきたいと思っています。

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3つの壁の乗り越え方

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