高橋英子のスペイン、グラナダ、きもったま

2014年6月


ビックなニエト、ある日のスタジオ・カチューチャ、そして夏のフラメンコなど


juan nieto.pngこの春のビックニュースはやはり5月末にグラナダ期待の若きギタリスト、フォアン・アビチュエラ・ニエト(名ギタリストであるフォアン・アビチュエラの孫nietoという意味の名前)の初CDが発売されたことです。グラナダの名門家系から出た新星、歳はまだ23か24です!CDはもう随分前から準備していましたが、一度できかけたのに止めてしまったりしているということで、いったいいつになったらでるのかな~と思っていました。とにかく発売には慎重だったようですが、Universalユニバーサルというなんだか凄いレコード会社が付いて堂々としたCDデビューとなりました。今、彼はCDのプロモーションなどであちこち駆け回っています。

ですので今回はなかなか会えない、会えてもホンの一時で、ろくに話もできない状態なのでした。でも日本にもプレゼンテーションに行きたいと積極的です。とにかくこのCD売れているそうで、本人とっても嬉しそう!このCDジャケットもステキじゃないですか!初CDはモダンでちょっと商業ベースに乗った感もありますが、それが逆に私にはデビュー作としての新鮮な香りに満ちていていいんじゃないのかなと思えます。これから出していく第2作、第3作がどんなものになるのか?もうその準備できているみたいですけど......凄い!何といってもステキな音楽と音色の中に、しっかりとギターの弦をかき鳴らす指の肉感が伝わってきます。聴く人への感謝とメッセージを託しています。サクロモンテに生まれ育ち、自然を愛し、ギターと戯れるように練習に打ち込んできました。小さい時から将来が期待されていたフォアン、その奥深い世界を垣間見るCDだと思います。日本発売も間近でしょう。是非買ってくださいね!


moneta1.pngところで帰国前のある日、我がスタジオにステキな訪問客がやってきました。日本でもお馴染みのフエンサンタ・ラ・モネタです。常に新しいプロジェクトをもって活動中のモネタ。最近、マドリッドのスマ・フラメンカというフェスティバルで「パソ・ア・パソpaso a paso」という作品をご披露したばかり。また「街のフラメンコFlamenco Urbano」とう今風の試みもグラナダでやったりしている。
「フラメンコ人は早起きなのよ!」と、毎朝9時からプロジェクトのための練習をやっているというが、その日は、そんな忙しい合間を縫っての個人レッスンのためスタジオを借りてくれました。
実は彼女が生まれたのは30年前に私がグラナダに移住した年なんです! 彼女にしても、エバ(ジェルバブエナ)にしても、小さい時からその優れた素質が窺われ、あっという間に一流のアーティストになってしまいました。モネタはまだ踊りを習い始めたばかりの頃、ペーニャで踊る私を見たことがあって、それは18年ぐらい前の話......あの頃から知っていますが、普段はとても気さくで庶民的、いつも気軽におしゃべりできます。
この10年ぐらいモネタはメキメキと成長してきてその活躍は素晴らしいです。エバもそうでしたが、グラナダに籠ってないんですよね。外に出て勉強し、活動してきたのです。今や彼女たちの活躍は国際的なのです。わたしはグラナダのフラメンコ界を30年見てきましたが、私には、彼女たちの苦労がわかるような気がします。私とモネタでは状況が違いますが、共通に考えさせられることも多いのです。また、モネタがえらいのは他のアーティストの舞台もよく見ていることです。誰かの舞台を観に行くと会場でよく彼女に会ったものです。人の舞台を観るのは大切、勉強になりますよね。

moneta2.pngお茶しながら久し振りに楽しくあれこれおしゃべりしましたが、私の半分しか生きていないのに私より大人のよう!いろいろ乗り越えてやってきているので、意見がハッキリしている。アーティストとしての自分の方向性もしっかりつかんでいる。人間的にも逞しいのです。踊りに出る凄味は彼女の迷いなく突っ走る生き方から来ているような、とまぁ、私は彼女に感心しっぱなしでした。
人生悩みは尽きませんが、いろいろ問題があってちょっと凹んでしまっても、凹みっぱなしではいられない。いつも前向きに、何か方法を見付けて続けていくしかないのだ!そんなことを思いました。ちょっとモネタにパワーをもらった感じの有意義な一時でした。


さて、私は予定より2週間以上も遅れて日本帰国となりましたが、6月14日にコルプスと呼ばれるグラナダのお祭り(フェリア)が始まりました。いつも移動の前後は頭が混乱するので、フェリアを楽しんでいる時間は全くありませんで、帰国直前にフェリア会場へ行って、ポルターダ(正面入口の門)だけ撮りました(下の写真)。
corpus.pngグラナダのフェリアはセビージャに比べるとだいぶスケール小さいですが、楽しみ方は同じです。カセタはプライベートが多いですが、誰でも入れるカセタもあって、セビジャーナスなど踊り放題です。お祭りの最中はフェリア会場のカセタ(皆が集まる仮設の小屋)だけでなく中心街でも催し物が沢山あります。闘牛もありますよ。


コルプスが終わると国際音楽祭Festival Internacional Musica y Danzaが始まります。7月~9月は近郊の村々で夏のフラメンコフェスティバルもあります。7月下旬から8月中旬にはロス・ベラーノス・デ・コラール、アルハンブラ宮殿のヘネラリッフェ劇場ではラファエラ・カラスコの率いる「エン・ラ・メモリア・デル・カンテ、コンクルソ・デ・カンテホンド1922」の公演が7月末~8月いっぱい1ヶ月に渡ってあります。カルメン・デ・ラス・クエバスのカルメン祭りFiesta del Carmenもあります。これらの定例のフェスティバルの他にもあれこれいっぱい催し物がありますので、夏場にこちらにいらっしゃる方はいろいろ楽しめます。詳しくはこちらで!

今回の「カチューチャ便り」は終わりの巻~


世界舞踊祭とカルメン・デ・ラス・クエバス


4月29日は国際(世界)舞踊の日Dia Internacional de Danzaでした。世界各国でジャンルを問わず舞踊祭がおこなわれているようですが、グラナダではこれに因んでグラナダ・エン・ダンサという団体ができ、昨年から活動を始めています。グラナダ市の協力を得て、いろいろな舞踊団、舞踊グループが参加する公演が2月~5月に渡ってイサべル・ラ・カトリカ劇場でありました。今のところコンテンポラリーダンス、スペイン舞踊などが中心で、今回参加したのは、コンセルバトリオ・デ・ダンサ(王立舞踊学校)やコンテンポラリーのDA.TE DANZA(ダ・テ・ダンサ)や、舞踊クラスを持つ語学学校のカルメン・デ・ラス・クエバスCarmen de las Cuevasのカンパニー、オスカル・ケェロOscar Queroのカンパニー、ルシア・グアルニードなどです。

dia de danza世界舞踊の日は平日でしたので4月27日の日曜日に、グラナダの博物館や美術館などのスペースで各カンパニーやグルーブがデモンストレーションをするという短時間の催し物がありました。私はアルハンブラ宮殿のカルロスⅤ宮殿にある美術館に行きたかったのですが寝坊をしてしまい、近くの中心街にあるホセ・ゲェレーロ美術館に行きましたら、シンセサイザーの音楽で女性が踊っていました。途中から見たのですぐ終わってしまい、残念でした!コンテンポラリーだそうですが、全然訳が分からず、ただ動き回っているだけのように見えました。でも、こういうプロモーションがあるのはスペインらしいです。一般の人が無料で文化・芸術に触れることができ、休日の昼間を有意義に過ごすことができますね。

GALA2014GRANADA EN DANZAさて、グラナダ・エン・ダンサのこの催し物、先日25日にはこの催し物の最後を飾る宴「ガラ・フィナル」がありました。「ガラ・フィナル」では参加した5つのカンパニーが勢ぞろいし、それぞれがそれぞれのテーマで20分ぐらいの作品を演じました。それなりに見応えあって楽しめました。フラメンコと関係ないコンテンポラリーダンスは見慣れませんが、ダ・テ・ダンサの作品は観る人を飽きさせないアイデアがいっぱいあってビックリしました。イマジネーションの世界というか、現実から離れて一時的に不思議な世界に引き込まれます。なんだかよくわからない、そういう言い方もできますが、その動きは踊りが基本でとてもきれいでした。こういうのは、訳の分からないフラメンコを観るよりは安心して見られますね、私には。オスカル・ケェロはスペイン舞踊のクラシックなテクニックがしっかりしていてとてもうまかったのですが、唄なしのショーでちょっと寂しかったです。ルシア・グアルニードはグラナダの期待のバイラオーラです。エバ・ジエルバブエナのカンパニーに一時いましたが、このところソロ公演などで活躍していまして、昨年秋にグラナダにアカデミーをつくり後進の指導にも力を入れています。とにかく動きが美しく、フラメンカです。

この催し物で目立ったのは、初めてカンパニーを組んで参加した「カルメン・デ・ラス・クエバス」です。「カルメン・デ・ラス・クエバス」は今年、創立30年を迎えました。当初は歴史、文化や語学を学ぶ小さな学校でしたが、一階が洞窟になっていて、そこでフラメンコのクルシージョなども始めるようになりました。私も昔はクルシージョを受けたりしていました。数々のグラナダのアーティストにここで学べました。一時はマリオ・マジャもよく出入りしていましたよ。現在は4,5人の教師(ハビエル・マルトス、ライムンド・ベニーテス他)が専属で教えて、踊りの他フラメンコの理論講座、唄、ギターのレッスンもやっています。また夏には定期的に別の場所を借りてセビージャやマドリッドの人気アーティストを呼んでクルシージョを大掛かりにやったり、「カルメン祭りFiesta de Carmen」を企画し、サクロモンテで催しています。そのカルメン・デ・ラス・クエバスが、なんと専属教師陣主体のカンパニーを大胆にも作ったということなのです! 「カルメン・デ・ラス・クエバス」のオーナーは、30年ということもあるし、グラナダ・エン・ダンサも軌道に乗ってきているのでこの辺で奮起してカンパニーを作り、もっと活動の場を広げたいのだそうです。フラメンコが好きだし、常に前向きの姿勢なのです。現在の活動を見ていると、グラナダのフラメンコの発展に貢献しているなと思います。わたしもグラナダ30年だけどえらい違い!であります。コツコツ頑張って来て今ではいろいろなことに挑戦する余裕もでて来たということですね。拍手です。カンパニーが成功しますように!

nacho y carmen

写真はオーナーのナチョNacho Martinとマリ・カルメンMari Carmen夫妻。