毎年夏7月下旬から8月末まで、グラナダのアルハンブラ宮殿内のヘネラリッフェ野外劇場で「ロルカとグラナダ」という、主にフェデリコ・ガルシア・ロルカの詩や戯曲をテーマにした作品の公演があることを前回のブログでお伝えしました。毎年新しい内容で、いいアーティストも出演しますので毎回楽しみにしてはいるものの、私自身は「ロルカを踊る」っていうことにあまり関心がありませんでした。私の舞踊生活を振り返ってみると、11年ぐらい前の生徒発表会で「ソロンゴ・ヒターノ」、7年前のチュンベーラ公演(グラナダ)で「カフェ・デ・チニータス」を踊っただけです。どちらもグラナダ色のある曲を踊らなければ、ということで急遽振付けて舞台に立ったのでした。
グラナダで生活し、活動していた私ですので、グラナダを踊ってみたいという気持ちからロルカ関連演目を踊ることはやってみたいこと、やらなければならないことの1つではありました。同様にサクロモンテのサンブラもその1つでありますし、他にもグラナダを踊るための演目いくつかあります。ただ、これらはちょっと私にはやっかいな世界で、あの感じは自分には向いていないとか、難しい...などと思っていて後回しになっていました。ですがサンブラや他の演目は10年前の公演(DVDで見られます)でもまぁなんとか納得のいく感じでまとめましたし、それはさておき、このところ、残るロルカ演目もそれなりの雰囲気を探して踊ってみたい、やってみよう、そんな気持ちになってきました。そして今、じわじわその魅力に惹きつけられて来ています。考えてみれば、ロルカの作品:ロマンセーロ・ヒターノ(ジプシー歌集)や、ポエマス・デル・カンテ・ホンド(カンテホンドの詩)、その他ロルカが世に出したアンダルシア古謡など、もう随分前から日本でもお馴染みで、歌われ、踊られてきました。それだけロルカは心打つ素晴らしい作品を生み出したのです。さぁ私も頑張らなくちゃ、振付、振付!
とはいっても何曲かをまとめるだけで、とてもヘネラリッフェ野外劇場でやっているような素晴らしい作品なんて無理な話ですが、それでもいい、わたしなりにまとめられれば嬉しいです。
ところで、今年はロルカが亡くなって82年になります。ロルカはスペイン市民戦争が勃発した1936年の、8月16日に捕えられ、18日の未明に同じように囚人だった3人とともに銃殺されました。彼らのような市民戦争の犠牲者は、グラナダ墓地に埋葬されただけで2,000人以上、実際はもっと多かったというから悲しいことです。銃殺されたのは、アルファカルとビスナルという2つの村の中間ぐらいのところだったそうです。アルファカルにはロルカ名のパルケ(公園)があります。このパルケはフェデリコが銃殺されたとみられる泉(フエンテ・グランデ)の近くに造られ、円形の広場の壁はロルカの詩の一節などが書かれたセラミカで装飾されています。毎年ロルカが銃殺された日に、「ロルカと全ての市民戦争の犠牲者に捧げる」コンサートがあり、今年はマリオラ・カンタレーロというソプラノ歌手、スペイン古謡などを歌ったということです。
写真は今年のカルテル(ポスター)
また、ビスナルの街道沿いにあるバランコ・デ・ビスナル(崖のようなところ)はフェデリコたちが埋葬されたとされている場所で、毎年命日にはロルキアーノ達が集まりロルカを偲ぶフエルガとなります。
パルケにもバランコにもロルカの記念碑はありますが、お墓はありません。遺骨が見つかってないとか(?)1986年にパルケがつくられた時、何人かの遺骨が発見されたようなのですが......。
ロルカのことはもっと知っておきたいですね、作品だけでなく、どんな人だったのかとか、あの頃のスペインとか...。
先日、昔グラナダで知り合った友人がある絵本を贈ってくれました。それはロルカ入門書みたいな絵本。とっても心温まる、ほんわかする、ロルカのことがよくわかって、もっと彼のことを深く知りたくなる、そんな絵本なのです。ロルカって誰?と気になっている方とか、フラメンコファン、研究生にお勧めです。それでちょっとここでもご紹介させていただきたいと思いました。ロルカ研究の第一人者として知られるイアン・ギブソン氏と世界的評価の高い絵本画家であるハビエル・サバラ氏がつくり上げた美しい絵本で、ロルカ研究者で詩人の平井うらら氏が訳しました。
『フェデリコ・ガルシア・ロルカ 子どもの心をもった詩人』
(影書房) 詳しくはこちら
Para Niños(子供向け)なのですが、大人向けでもあります。童心に戻れる温もりある絵本です。心こもったやさしい日本語で訳されていてとてもわかりやすいし、スペイン語のオリジナルも掲載されているので、スペイン語の勉強にもなります。シンプルでステキなイラストレーションの数々が心に響いてきます。
ロルカって、素朴でやさしい心を持っていたんですね。また貧しい人々の味方で正義感が強かった!編集部が補足した「ロルカ・ミニ辞典」は読みごたえがあります。ロルカの生い立ちから38年間のビオグラフ―、あの頃の政治的な状況もわかって、スリルがあります。
また、ロルカを愛するギブソン氏や、平井うららさんのメッセージもジーンときます。
こういう本が出るのは嬉しいです。偉大な画家ゴヤとか、誰だったかなぁ~他にも偉大な芸術家や、人に限らず、例えばアルハンブラ宮殿なんかも、このような子供向けにやさしく書かれた絵本がスペインでいっぱい出ています。そう、フラメンコでもPara Niñosってあります。DVDとか出てますし、舞台でも子供向けのやさしくフラメンコがわかる公演などやっています。フラメンコの学校って少ないですから、こういう子供向けのものって以外と役立ったりします。それに何といってもかわいいっていうのがいいですね。身近にとらえられて親しみが湧いてきます。
ちょっと話が逸れましたが、きっとロルカもこの絵本の日本語版発売を天国で喜んでいることでしょう。なんだかロルカに会いたくなります。¡Hola,Federico! って。ロルカの死は本当に悲しいけれど、こうやって彼とともに生きている私たちにとって、かけがえのない存在として輝いているなぁ~と感慨深く思います。