高橋英子のスペイン、グラナダ、きもったま

枯葉の舞い


自分の踊りの出来具合がどうだったかなんてあまり公にしたくないものですが、
わたしにとっては心に残る場面もあった今回の「ムエストラ・デ・フラメンコ」です。
恥かしながらも自己採点、感想などを少しばかり書いてみます。
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出だしのマラゲーニャは静々とセンチメンタルに始まりました。
次の唄に続くファルセータ(ギターのメロディー)が終わりかけた頃、
振りの合間に上空から薄黄色い枯れ葉が舞い降りてきました。
コラール・デル・カルボンの中庭にある大きなブドウづるの葉っぱです。
ちょうど目の前にひらひらと......。
あれ?髪に飾った花が落ちたのかなと一度は勘違いしたものの、いや違う、
花は頭に付けてない!
ではいったい何だろう?と一瞬戸惑い、舞台の中央に落ちたその枯れ葉に目が行きました。
そんな始まりで、あっという間に濃厚な1時間が過ぎたのでした。

会場のグラナダの観光名所でもあるコラール・デル・カルボンは、中央に噴水のある中庭で、
その周りを四角に囲むようにアラブ式に建物が作られています(14世紀頃)。
収穫した小麦を売りに来る人達の小麦倉庫兼宿屋で、1階は馬の宿舎だったと聞きました。
その古の趣は何か霊感を与えられるような独特な雰囲気を醸し出し、フラメンコに最適なのです。
わたしがスペインに来た当時に初めてここで見たのがマリオ・マジャの作品でした。
ですからその時の印象が長い間残っていまして、そういう場所で踊れることは嬉しいですし、
心こめて踊ってステキな舞台にしたいと、はじめは意気込んでいたのですが......。

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今回はマラガやカディス、トリアーナ(セビージャ)の唄で振付けた2つの作品を踊りました。
自分としてはアンダルシアの平穏なイメージとダイナミックなイメージを同時に感じられるような
内容にしたかったのです。今年の「きもったま鍋」でも踊りましたが、「きもったま鍋」では
思い付きで短期間にバーッと振付けたので、パソなどに曖昧さが目立ちました。
そこで今回は細部を練り直し、1曲目は乱れそうな危険なパソは避けて無難にまとめ上げました。

先だってのブログでも書きましたように、今回初めて共演した新しい息吹(アーティストのこと)は、
ギタリストも唄い手もよく頑張ってくれまして、1曲目は出だしちょっと緊張気味でしたが
まあまあのできでした。100点満点で80点ぐらいでしょうか。
私とともに観る人にも唄を感じてもらいたいと思い、
あくまでも自分のありのままのシンプルな世界を大事にしたので、自然に気が入り
わたし自身になりきることができました。そして今回初共演の唄い手も、
私の期待に応えてとても良く歌ってくれましたので、指の一本一本にまで心が籠もりました。
オレ!(新しい息吹に拍手!)

問題は2曲目でした。
フラメンコ舞踊の中でもポピュラーで誰にでも踊られ、唄われ、親しまれているソレアと
アレグリアスを続けて踊りました。うまく流れを作ってソレアからアレグリアスに展開させまして、
そのアイディアはわたしもちょっと気に入っていて、「きもったま鍋」の時は音楽もよかったです。
今回は振りも調整し、若い息吹(ギタリスト)も頑張って音楽を勉強してくれましたし、
この催し物のために「きもったま鍋」の時とは最後の演出を変えまして、無難な感じに。

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それでどうだったかといいますと、
残念なことにあちこちに技術的ミスが発生しました!
ソレアのエスコビージャの後半、自分の足がどうも思うように動かないことがわかり、
その後アレグリアスに展開したら、何でもないところでまたまた足が想定外に動いてしまいました。
これまであれこれあった疲れが、やはりじわじわと出てきてしまった感があります。
精神的、肉体的疲労は集中力を乱し、そこには予期せぬ事態が待ち構えているものですね。
ただ、悪戦苦闘しながらもなんとか対処して最後のブレリアになりました。

ブレリアは一番の見せ所。しかし情けないことに、出だしのコントロールが利かなくなり、
踊りのテンポが上がってしまいました。それは何とかなったのですが、
ちょうど雰囲気が盛り上がったところでバックの歌が予定どおりに入らず......ガックリ。
踊り手の辛いところは、バックが自分の注文通りにやってくれなくても、
なんとか臨機応変に対応してうまく踊り切らなければならないということです。
いい流れを作っていくだけの余裕が自分にある時は、即興も冴えていい感じになります。
ですが今回は残念なことにそんな余裕はとてもじゃないけどなかったです。
2曲目は60点しかあげられません。

結果的に好きなブレリアではうまく自分の持ち味を出せなかったけど、まぁ、いい!
早い話が自分の実力なんてこんなものかも......と諦めて、
なんとか頑張って踊り切ったことに乾杯し、明日からまた頑張る! そうすることにしました。
それでまとめると、全体的にみて決して良くはなかったけど、悪くもなかった......ということで、
平均して70点ぐらいかな、これ以上の得点は無理です。

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皆さんはご覧になっていないので、あれこれ言っても面白くないかもしれませんね、すいません。
(少しYOUTUVE にでもアップしたいと思っていますが、もう少し待ってください。)
でもこんな批評がありまして、それはきっと、私の踊りに好感を持っていただいている方なら
納得できることかもしれないなと思いました。
「彼女は自分がフラメンカであることを感じ、自分がどのようにフラメンカであるかを探す。」
という始まりでわたしの舞踊表現方法に触れ、それを褒めてくれているのかどうかは
分かりませんが、少なくとも有効だとか、値打ちのあるものだとか言ってくれています。
その後、こんな風に続きます。
「他の技術的なことをどう見られようが意にとめず、彼女なりの(注目を引く)表現方法で
平然と踊り続け、観る人を巻き込み、楽しませ、語りかける。
いつの間にか観る人は不明確な部分などは忘れ、彼女の動きの世界に見入っている。」

ふ~む。
要するに自分の表現方法、「わたしはこう踊る!」というものを持っているのだとしたら嬉しい。
多くの人の心に語りかけ、少なからず感動に導くような表現になっていたのなら少しは救われます。
でも、やはり足(サパテアード)ですね。褒めようがなかったのは確かですが、
注目を引くところが他にあったので、そちらの方を誇張して書いてくださっているのだと思います。
嬉しいような、悲しいような......。

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しかしあの舞い降りてきた薄黄色い枯れ葉は、いったいなんだったのでしょうか?
ちょっと気になるのはどうしてかなぁ~。
ただの偶然なのに、何か意味付けしたくなるのはどうしてなのでしょうか。
枯れ葉はライトに照らされキラキラと黄金のように輝いていました。
ひょっとしたらわたしの舞踊人生も、この枯れ葉のように最後までキラキラ輝き、
そしてパッと散る......そんな風でありたいと本人は思っているのかもしれません。

FOTO/植田苗水NAEMI

◆写真、批評などは下記でご覧になれます。
高橋英子ホームページ(スペイン) 高橋英子ホームページ「レポート」

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高橋英子 プロフィール

フラメンコ舞踊家。スペインに暮らしながら、現地での舞台活動を重ねてきた貴重な存在。81年渡西。83年、セビージャでセビジャーナスコンクールに入賞し話題を撒く。翌年、グラナダを代表する踊り手マリキージャのアカデミーに招かれてセビジャーナスのクラスを開講。以来グラナダに住み、フェスティバルやタブラオ、ペーニャ等に出演。リサイタルも度々開催している。98年にはスタジオ「ラ・カチューチャ」を開設した。一方日本では、ペヌルティモ・コンサートシリーズ、「きもったま鍋」シリーズなどを上演。フラメンコ舞踊独特のペソ(重さ)とコラヘ(怒り、内に秘めた激情)、そして粋なグラシア(愛嬌)に溢れたバイレは高い評価と人気を得ている。現在は日本でも常設クラスを開講し、日西を行き来しながら精力的に活動を続けている。
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