高橋英子のスペイン、グラナダ、きもったま

フラメンコ三昧の秋(4) バイレの巻/イスラエル・ガルバン


chotohitokoto pngイスラエルに関しては前回アップしましたが、バイレの巻を公演ごとに整理するためにアップしなおしました。内容は同じです。


さて、2日目のイスラエル・ガルバン。この人のことをUn bichoウン・ビチョと言う人がいます。ビチョとは気持ち悪い虫、虫けらとかの意味ですが、転じて只者ではない人のことを言いたいのでしょうか。なんともはかり知れない!普段のあの物静かなイメージからは想像できないです。 私は長いスペイン生活で、セビージャでは一時イスラエルの父、ホセ・ガルバンに習っていましたから、彼のことを知っています。昔はグラナダに踊りに来ると必ず挨拶していましたし、イスラエルの公演はへレスやセビージャに観に行ったりしていました。しかし、この10年ぐらいは彼の作品やステージを観る機会が全然なかったのです。この間、イスラエルは数々の作品を発表してきたのに......ニュースでちょろっと見れたり、ネットでちらっと映像を見たかな、そんな程度で、なんだかいつの間にか月日が流れてしまいました。やっと、幸いなことに昨年の夏クラナダで彼の最新作「Lo Real」を観ることができ、とてもインパクトのある力作でしたので、アーティストとしてのイスラエルに改めて感動させられました。そして、今回観た作品「La Edad de Oro」では、イスラエルの芸術性の根底にあるものを垣間見て、やっぱり彼は正真正銘のアーティスト!と思わずにはいられなくなりました。

israel.pngイスラエルの、あの特異な身のこなしの中にフラメンコ性を見い出せないのか、どうも好きになれない方も多いようです。彼はフラメンコのアイレをそこはかとなく漂わせることで成り立っていた典型的、伝統的な従来の踊りに飽き足らず、今までの型を破った彼独自のスタイルを確立しました。それはそれはセンセーショナルな踊りだったわけです。私もこの奇怪な振りは何?などと思いましたが、素直に自分を見つめ、正直に自分を表現したのだろう、ただ、その独創的な世界の表現が見事なんで、ただただイスラエルって凄いな~とまぁ単純に考えていました。

彼の舞踊は見慣れてくると面白いです。あの振りの流れといいますか、表現の進行といいますか、瞬間的に行うポーズといいましょうか、果たしてこれは踊りなのか、立ち居振る舞いなのか、なんだかわからないうちに惹き込まれてしまいます。時々、これは演出かな?などと思わせるコミカルな場面もあり、興味深い内容でした。そして時に「死に物狂い」になっている姿がみられて圧倒されました。なにか訴えていることがあるような......そんな真剣勝負的な凄みを感じ、彼の踊りはその根底に何か底知れないエネルギーの渦がある!そんな感じがしてきました。

タイトルが「ラ・エダ・デ・オロLa Edad de Oro」、これはいったい何?黄金時代と訳されていて、フラメンコの歴史の中で、フラメンコが一般に広まり、カフェ・カンタンテが盛んになりだした古き良き時代のことをやはり、黄金時代と言われているので、フラメンコ人ならそれを頭に浮かべるでしょう。でも一般的には、あの前衛的シュールリアリストで数々の衝撃的映画を生み出したルイス・ブニュエルの同名の映像作品を思い出します。それからまた、一時期テレビ番組のタイトルでもあったり、月刊誌のタイトルだったりもしたそうです。

israelymusicos.pngサルバドール・ダリと並んで、スペインの偉大な超現実主義の芸術家であるブニュエルの「La Edad de Oro」、1930年のこの映画、私なんかには訳がわからない世界でありますが、この辺のことをわかっているとイスラエルの踊りの芸術性が理解しやすいのではないかと思います。イスラエルの「La Edad de Oro」は、フラメンコの「黄金時代」ということで所謂フラメンコの伝統的な姿を再表現する中で、ブニュエルの「黄金時代」に影響されたイスラエルの芸術的スタイルを発見できる作品なのではないか、そんなふうに思えます。初演が2005年と言います。古き良きフラメンコの時代のへレスの歌い手、テレモート・デ・へレスの息子であり、その芸の域を引き継ぐフェルナンドを迎えてできたこの作品。ギターもとてもフラメンコなアルフレッド・ラゴス。よくまぁあんなに息があった伴奏ができるものだと感心してしまいました。フェルナンドが若くして他界してしまったのは、なんとも残念なことです。でもイスラエルはこの作品を踊り続けています。今はご存知のようにダビ・ラゴスが歌っています。内容が初演当時と全く同じかどうか知りませんが、彼の真髄に触れることができる素晴らしい作品、そしてそれを遅ればせながらも観ることができてよかったです。そしてなんだかもっと探りたくなりました!

実はイスラエル、一度私を元気づけてくれたことがありまして、それは私の大切な思い出となりました。ある時、わたしが自分の失敗だらけの演技を嘆いていたら、その後の彼の何気ない一言がまるで「いいところを活かせ!」って言ってくれているようで、その優しい心配りに救われた感じがしたのです。舞台終了後の穏やかなイスラエルを見ていて、そんな過去の思い出が蘇ってきたものでした。
まさにこの人、わたしにとってはフラメンコそのもの、大仏さま!なのかもしれないです。

                                        (続く)

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高橋英子 プロフィール

フラメンコ舞踊家。スペインに暮らしながら、現地での舞台活動を重ねてきた貴重な存在。81年渡西。83年、セビージャでセビジャーナスコンクールに入賞し話題を撒く。翌年、グラナダを代表する踊り手マリキージャのアカデミーに招かれてセビジャーナスのクラスを開講。以来グラナダに住み、フェスティバルやタブラオ、ペーニャ等に出演。リサイタルも度々開催している。98年にはスタジオ「ラ・カチューチャ」を開設した。一方日本では、ペヌルティモ・コンサートシリーズ、「きもったま鍋」シリーズなどを上演。フラメンコ舞踊独特のペソ(重さ)とコラヘ(怒り、内に秘めた激情)、そして粋なグラシア(愛嬌)に溢れたバイレは高い評価と人気を得ている。現在は日本でも常設クラスを開講し、日西を行き来しながら精力的に活動を続けている。
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