高橋英子のスペイン、グラナダ、きもったま

懐かしいAplauso、スペインでコロナ危機に遭遇の巻②


このところ街の景色が変わりました。いままでは人の気配がなかった街も、5月になると約2ヶ月半振りに商店などが営業を再開できるようになり人々が中心街に繰り出し始めました。前と違うのはみんながマスクをかけていること、パトロールの警官があちこちにいることでした。そして6月になり、街はコロナ感染が始まる前の姿に戻り始め、活気を帯びてきました。昼間は警官をあまり見かけなくなりましたが車で巡回しています。テラスでお茶したり、ビールを飲んだりしている人以外はほとんどの人がマスクをかけています。
前回お伝えしましたが、4月下旬から国民が年齢によって3つの時間帯を決められて散歩に出られるという「準備段階」を皮切りに、合計4つの段階(フェーズ)を経て平常な社会生活に戻すという規制緩和が始まりました。今回は、その流れを振り返ってみたいと思います。

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b,mascarilla.png5月は第2週から、だいたいの地域がフェーズ①になる筈でしたが、まだスペインの一部の地域はフェーズ①に進めない状態でした。アンダルシアではグラナダとマラガが取り残されました。被害者が多い2つの都市ではありますが、グラナダは数字的な問題より、衛生規則を守らない人たちが目立ちました。例えばアルバイシン地区のサン・ニコラス広場に集まった若者たちはマスクなし、友人同士がアルハンブラ宮殿を眺めながらコロナウイルスを全く無視で寄り添っておしゃべりしている...、そんな光景がニュースでも報道されてしまいました。全く恥ずかしい話です。眺められていたアルハンブラ宮殿はさぞかし嘆いていたことでしょう。こういう一部の不届きな人達のために1週間新しいフェーズに進めなかった、そんな訳で怒りの声が聞こえたりしました。

b,correo2.pngでも1週間待って第3週(5/18)からグラナダ、マラガともフェーズ①にめでたく進むことができました。お天気も前の週の曇りがちで時々雨の肌寒さから一転して青空、陽も差す暖かい春日和となりました。喫茶店やバル、レストラン、小売店などが時間や入場制限付きですが営業開始できるようになりました。とはいってもまだ全部ではありませんし、お客さんを少ししか店内に入れられないので商売にならない、まだ少し様子を見るなどでまだ開けていないところのが多かったです。全体的に用心深く、慎重に対処している感じでありました。
葉書を出しに郵便局に行きましたが少し行列がありました。銀行も行列です。2mの距離を守らないとならないので行列は長くなり、最後尾を見つけるのが大変。外出禁止中のスーパーもいつも行列でしたが、郵便局が午前中しか開いてないのに比べるとスーパーは7時ぐらいまで開いているので、昼食時間(2~4時ぐらい)に行くと行列はかなり短かったです。

b,banco.JPG5月の中旬を過ぎる頃から1日の感染者数が10人にも満たない状況になりました。グラナダとマラガは1週間遅れでフェーズ①になったとはいえ、数字的には全く問題ないので、第4週の5/25からはフェーズ②になるのがほぼ確定でしたが、結局のところフェーズ②に進めないことが決まった時はみんながっかりしました。えっ、何故? 政府は、たとえ数字的によい傾向でもとにかく専門家の意見を尊重するので、もともと決めた「1フェーズ14日間」という規定に従っていただくしかない、ということでした。これでまた不満の声がでましたが、
6月になってやっとフェーズ②に進むことができました。

b,granvia2.jpg街の樹木も青々と茂ってきて中心街のグランビア通りも蘇りました。病院のコロナ患者も数十人、新たな感染者なし、死亡者なし等と嬉しい状況になってきました。一時の緊急事態はやっと収束に向かっていきました。フェーズ②になって、お役所などの公共機関の一部は予約すればオフィスで手続きなどできるようになり、私も早速一つの懸案事項を終わらせることができたのは良かったです。デパートもいままでは食料品売り場だけ開いていましたが、他の売り場も営業を再開しました。

b,ayuntamiento2.pngそして6月第2週(6/8)からはグラナダ、マラガも他のアンダルシアの県と足並みそろえて、めでたくフェーズ③に進めました。フェーズ②と③の大きな違いはアンダルシアの他の県に移動できることで、グラナダから例えばセビージャに住む親戚に会いに行くことができるようになったわけです。バルや飲食店もテラスなどの他に、ショッピングセンターも、劇場も、スポーツジムも...だいたいの施設がOKになり、老人、大人、子供の区別なく自由に誰でも好きな時間に散歩できるし、友人知り合いなどの家にも遊びにいけます。ただ、衛生ルールを守ること、入場制限、使用制限などがあるのみです。

衛生管理は個人も、どのお店も、どの施設も徹底して守ることとなっています。わかりきっていることですが、
安全距離(Distancia de seguridad)を保つ、マスク着用、メインはこの2つです。安全範囲を示す表示などが街のあらゆるところに貼り付けられています。

b,2metro2.pngマスク着用は公共機関では必須でしたが、5/21に大幅に義務付けられました。アンダルシアもだんだん暑くなってきてちょっとマスクはきついです。マスクは不足していたからいままでも義務付けてはいなかった、というのが国の説明でした。対象は6歳以上です。その時はマスクを付けていなくても罰金の対象にはならないということでしたが、フェーズ③では100€までの罰金を要求されると聞きました。マスクの習慣は今後しばらく続きますね。公道,屋外スペース,人の集まる屋内空間などで,各人が1,5~2m間隔を保てない場合はマスクしていないとダメです。まぁいつでも持ち歩いている必要がありますね。家族の多い家庭はお金かかります。薬局でもスーパーでも子供用マスクを売っていますが、自家製のマスクを付けている人も多いです。ファッション化している感もあり、スペインらしくカラフルで、とにかく色んなマスクを見かけます。スペイン人にマスクをかける習慣ってなかったので画期的なことです。

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b,cierra3.jpgさて、このフェーズ③の2週間が終わると「平常」に戻るということなのですが、でもその平常はパンデミック以前の市民生活、社会とは違います。ですから「Nueva Normalidad新しい(新たな)平常」と呼ばれています。
スペインのEstado de Alarma警戒事態は、最終的に6/21までということになりました。マドリッドなどいくつかの地方を除くスペイン全土のフェーズ③が2週間で終わる日付になります。6回も延長され、合計3ヶ月と1週間という長い期間でした。外出禁止、段階を追って進めてきた規制緩和もこれで終わります。そして、新たな平常になってからの規則なども発表されました。
7/1からだった国境封鎖解除もEU諸国に対しては6/21からに繰り上げられました。「警戒事態」が発令されたままだと暗いイメージが続きますから、嬉しいことです。スペインは他のヨーロッパ諸国に比べると慎重すぎる感もあったようですが、ほぼ足並みを揃えて国境封鎖が解除できるようになってよかったです。ただ、これから人の移動が活発化されるなかで感染が再び広がる心配もありますから、完全終息するまでは用心深く慎重に取り組まなければならないです。

この3ヶ月間、ほとんど毎週サンチェス首相の状況説明や新たな対策に関する演説、記者会見がありました。こういう非常事態のなかですから政府もしっかりしてないとその真価が問われてしまうのではないでしょうか。言葉も慎重に犠牲者を悼み、国民に理解と団結を求める。皆で努力しよう、私たちならできる、でもそれなりの覚悟で立ち向かおう、時間はかかる、来年は立ち直ろう......etc. 流石に一国のリーダーですから話も上手いのだと思います。政治のことはさっぱりわからない私ですが、今のスペインが少しわかりました。でも全て理解するのはとても大変です。初めはテレビの前に座り込み、録音したり、写真撮ったり...わからないことだらけ。おまけに40年前のスペイン語辞典しか持ってないので、出ていない言葉がいっぱいあるのです。

b,plazanueva.jpgそれはそうと、スペインも今回は勉強させられることがいっぱいあったようです。スムーズにいかなかったり、失敗もあったりでサンチェス首相もよく批判されています。5月中旬ごろでしたか、いつも2週間ずつ延長してきた警戒事態を1ヶ月ぐらい延ばしたいと発言したりもしましたが、よく野党の激しい攻撃を受けています。その頃は首相の辞職などを求めて一部の野党や国民の間で自然発生的に起こったマニフェストが盛んになりました。3月8日の国際女性デーでマクロなデモやイベントで大騒ぎしたこともスペインの感染を一気に伸ばしたのは明らかですし、マドリッドの養老院で大量に死者が出たのはいったい何が起こったのかとか、コロナ犠牲者も実際は4万以上いたとかも言われています。一時の混乱が収まった今になって浮上してきた問題が多くありますが、サンチェス首相は頑として自分の意思を曲げずに周囲をかわしながらやっています。問題は、衛生危機をなんとか乗り越えたとはいっても、この2ヶ月で経済危機に陥ってしまっていることです。経済回復は長い目でみないとならず、今の状態ではすぐに解決できないので、このまま失業者が増える一方だと本当に困ったことになる、にっちもさっちも行かない状態で国民の不安は募っていくばかりです。

最近は国民救済の新しい対策が打ち出されてきています。5月中旬過ぎにスペインの貧困度は高い、スペインの受けた傷跡は深い、困窮に直面する多くの家庭と子供たちを救わなければならないとサンチェス首相は恵まれない家庭に援助金らしきものを支給すると発表しました。EU(欧州連合)からのコロナ援助もあるので可能なのでしょうか。条件などありますが、日本円にすると月5万~10万ぐらいを出してもらえるようです。条件に見合う家庭を持つ人たちにとっては嬉しいニュースで、いままでも警戒事態の間、給料の無くなった人のために色々な支払い期限を延長したり、社会保険料を免除したりの企業や小規模経営者などを援助する対策などが取られていると聞きました。でも、そういう恩恵を受けられない更に貧しい労働者も沢山いるので心配です。他にも各州自治体に助成金を出したり、数々の経済回復プラン等が打ち出されているようです。ただ、日本のように国民全てに一時的な給付金が出るとかいう話はないようで残念です。

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b,catedral3.jpgところで、スペインは観光国、外国から毎年8,000万人以上の観光客が訪れるそうです。スペインは外国からの旅行者が来ないと経済の活気は取り戻せないです。観光業、飲食業の受けた打撃は大きいです。でもやっと7月になると国境が解禁されます。ホテルなどの宿泊施設も営業を再開し始めていますし、アルハンブラ宮殿も再びその門を開きました。因みにアルハンブラ入場は新しいシステムになって、チケットは無くなり、身分証明カードやパスポートを見せれば入場できるそうです。航空券みたいですね。今はEチケット発行しますけど、カウンターでパスポートの提示すればそれでOKですから。
しかしこれから空港の封鎖が解ければ経済回復には繋がりますが、本当に第2波が心配になります。スペインはとにかく例年のように沢山の観光客に来て欲しいので安全な受け入れ態勢を確立しようと頑張ってますが、しばらくは観光客、あまり来ないんじゃないでしょうか...開けてみないとわからないですね。
かなり暑くなる7月、8月はせめて海、山にもでも行って暑さもしのぎたいし、この3か月のストレスも発散したいものですが、皆この夏のバケーションどうするのでしょう。きっとそれどころではない人も多いのではないでしょうか。人々はとにかく衛生危機をほぼ乗り越えてホッとしているところですが、今後の見通しが立たなくなってしまった人々も多いのではないでしょうか。街を歩いていても、「賃貸」のチラシ広告が貼ってある店舗が目立ちます。コロナを機に店を閉めたところも多いのです。

b,corpus5.jpgそれにしてもこの春は宗教行事やお祭りがことごとく中止になりました。セマナ・サンタ(復活祭)、セビージャの春祭り、十字架祭、コルドバのパティオ祭、ロシオの巡礼、闘牛全滅...全く寂しい涙の春でした。

b,corpus4.jpg先週は宗教行事の「コルプス・クリスティ」があり、グラナダのお祭りでした。ですがこれも中止。ただ、寺院でのミサなども人数制限などありますができるようになりましたので、宗教行事ではいつも街を行進したりもするところをカテドラル(寺院)の中だけで済ませたり、市役所前で恒例のTarascaタラスカ(女性偶像)、Carocasカロカス(漫画風に絵にかいたその年の社会風刺、川柳のようなもの)などを展示したりして、せめてできる範囲のことだけでもやりたいという姿勢、異例のコルプスとなりました。グラナダの国際音楽祭は今月末から開催されます。勿論、入場制限付きではありますがチケットももう売り出されました。

b,alborea.JPGそんな訳ですが、問題はフラメンコですね、気になります。警戒事態になると同時にフラメンコ界もコロナ危機に襲われています。全く悪夢のようです。劇場の公演も中止、観光客向けのタブラオ、クエバ(洞窟)のショーなど、そして教室、クルソなどのレッスンもできなくなりました。外出禁止が始まってから、クラスはオンラインで続けたり、ネットコンサートなんかをやるアーティストも見かけました。フラメンコ界への国からの援助を嘆願する動きなどもありました。そんな中、新しくUNIÓN FLAMENCAウニオン・フラメンカという組合みたいな団体ができました。リーダーはエバ・ジェルバブエナです。スペインの代表的芸術フラメンコの保護、発展や、主にアーティストの保障などに関する法的な手続きなどの情報も与えてくれるので、入っていると色々助けてもらえそうな組織ですね。アーティスト同士の協調も大切でしょう。いままでアーティストはそれぞれの個人、カンパニーなどの活動をしていても、いざという時、今回のコロナ危機のようにフラメンコ界全体が危うくなった時に団結して闘える組織というのはなかったのだと思います。今後どのような展開があるのか興味深いです。

深刻なのはタブラオ、クエバなどのアーティストさん、観光客が来なくなったスペインでどうやって生きていくのでしょう。規制緩和で音楽関係のライブなど、小さな小屋でもできるようになったとはいえ、お客さんはキャパシティの半分しか入れられないし、まだ再開しているところはほとんどないようです。これから夏場のフェスティバルなどチケットを売り出したりしていますが、タブラオ、クエバのように小さな空間の密室では当分営業再開は難しそう、何とか生き延びてほしいです。

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b,gomerez3.jpgこのように規制緩和が進み、やっと来週から「新たな日常」が始まります。ここでひとつお伝えしたいことがあります。
警戒事態になって直ぐに始まったAplauso(拍手)の習慣、それも無事に終了したことです。正確に言うと5/17(日)です。ちょうどアンダルシアがフェーズ①になる前の日でした。なぜか寂しい気もしますが、コロナの第1波が収まったと考えると本当に嬉しいことでありました。

医療現場で働いている人達に応援と感謝の拍手を送り続けたこの2ヶ月間でしたが、感染者も犠牲者も、病院にいる患者も減ってきて、治癒した人の数だけが増えているという嬉しい状況になってきていました。因みに5/18、グラナダでは警戒事態になって初めて一人の感染者も犠牲者もいない日だったとニュースで伝えていました。

規制緩和が始まってからは人々が散歩に出られるようになって街も少し息を吹き返してきた感があったので、時々ご近所さん達も丁度夜の大人の散歩時間(8時~11時)と重なるためか、バルコニーに出てこない日もあったりで、なんとなく「いつまで続くかなぁ~」などと思ったりしていたところでした。バルコニーで拍手のあと歌っていた「Resistiré」も、口ずさむ回数が減ってきていました。

b,cruz3.jpgやっと衛生危機という事態収束の兆しは見えてきたとはいっても、この間に経済危機に陥ってしまった人たちも沢山います。それぞれが、自分のこれからを考えなくちゃならないです。やはりこの辺で、医療関係の人たちからの「応援ありがとう」という感謝の声とともにAplausoの習慣も終了する時期に来たということで、これで国民も一つの達成感を持って次に進むことができると思いました。

病院の集中治療室で必死に看病してきた女性看護婦さんが、最後の治癒者の退院の日に、今日で集中治療室には誰も居なくなったと感動の涙を浮かべて語っているのをニュースで見ました。本当におつかれさま、よく頑張ってくれました。目が潤みました。応援の拍手の中に、この衛生危機を皆で乗り越えようという一致団結した新鮮な息吹がありました。これがとても懐かしいです。
天を仰ぎ、祈るような気持ちにもなった2ヶ月間のAplauso、私にとって忘れられない思い出の一つになりました。

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少しづつ書いてきたことをまとめています。また続きを後日アップします。
スペインでコロナ危機に遭遇の巻③ お楽しみに!

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高橋英子 プロフィール

フラメンコ舞踊家。スペインに暮らしながら、現地での舞台活動を重ねてきた貴重な存在。81年渡西。83年、セビージャでセビジャーナスコンクールに入賞し話題を撒く。翌年、グラナダを代表する踊り手マリキージャのアカデミーに招かれてセビジャーナスのクラスを開講。以来グラナダに住み、フェスティバルやタブラオ、ペーニャ等に出演。リサイタルも度々開催している。98年にはスタジオ「ラ・カチューチャ」を開設した。一方日本では、ペヌルティモ・コンサートシリーズ、「きもったま鍋」シリーズなどを上演。フラメンコ舞踊独特のペソ(重さ)とコラヘ(怒り、内に秘めた激情)、そして粋なグラシア(愛嬌)に溢れたバイレは高い評価と人気を得ている。現在は日本でも常設クラスを開講し、日西を行き来しながら精力的に活動を続けている。
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