高橋英子のスペイン、グラナダ、きもったま

Nueva Realidad、スペインでコロナ危機に遭遇の巻③


じっと家に籠ってテレビやネットにくぎ付けの3ヶ月半が過ぎ、やっと事態が一段落しました。もうすっかり夏です。私はちょっと疲れが出てきた感もありますが、「やらなければ!」と元気を絞り出し、今はこの春出来なかったことを順に片づけている毎日です。ただ、全くこの悪夢のような春を乗り切れたとはいえ、まだ予断を許さない状況は続いています。しばらく見過ごしたりしていたニュースも、このところまた見るようになりました。毎日の新しい感染者に関する報道が気になります。

fuente4.pngスペインはEstado de Alarma「警戒事態」という法令が6/21に解けてNueva Normalidad「新たな日常」になりました。もともと感染者などが少ないガリシア州、カナリア諸島のように、6/21以前に新たな日常に入った州もあります。アンダルシア州とその他の、規制緩和の最終段階フェーズ③になって規定の2週間を予定通り終えた州と違って、マドリッドとバスク、カンタブリア、カタルーニャの3州はまだフェーズ②のままでした。ですからフェーズ③になっていないので「新たな日常」になるのが遅れるのかなと思っていたらそうではなく、スペイン全体が21日から「新たな日常」になりました。フェーズ③になっていなかった3州はいったいどうなるのかと思っていたら、先ず、マドリッド以外の州は「新たな日常」になる直前18日にフェーズ③になり、アンダルシアとその他の州と足並み揃えて「新たな日常」にはいり、フェーズ③をだいぶ端折って終わらせているようにみえます。とにかく犠牲者の多かったマドリッドは規制緩和の一環ではなく「新たな日常」の一環として2段階の規制緩和を設けたということです。「新たな日常」では今後の様子を見ながらの各自治体管理体制に入りました。

ここはアンダルシア州、なにはともあれやっとたどり着いた「新たな日常」になって1ヵ月になります。新型コロナウイルスと共存し、第2波感染を防ぐため慎重な構えで普段の生活を再開し、経済を回復していくという「新たな日常」ですけど、このアンダルシア州では独自の緊急体制レベルがあってそのレベル②というのになると聞きました。そしてスペイン政府の名付けた「新たな日常」とは言わずNueva Realidad「新たな現実」なのだと説明していました。そしてあらゆる分野で400ぐらいの細かい規律が定められていてとてもややこしいですが、この体制を来年春まで続けていくらしいです。きっとコロナ第2波様子を見ながらそれなりの対策をとっていくのでしょう。

b,supernercado.jpgそれで人々の様子はどうかといいますと、長かった警戒事態から逃れられた解放感が先に立ってか、慎重さが欠けてしまう傾向があるようです。ちょっと要注意です。第一に衛生管理でありますが、いつの時代にもそれらは守られる傾向の日本と違って、スペインの場合はちょっと厳しいのではないかと心配してしまいます。どこに行っても消毒剤は置いてありますし、ソーシャルディスタンスとして入場人数制限と床に距離シール等は貼ってあります。また、こちらでの挨拶はBesoべソ(キス)が主流ですが、それはできません。その代わりにCodoコド(肘)での挨拶などをしています。これもスペイン人にとっては寂しいこと、そしてとっても暑い「スペインの夏」でもあり慣れないマスク着用はかなり辛いこと、難しいです。

「新たな日常」では公道、室内などで6歳以下の子供以外はマスク着用とソーシャルディスタンス2mが義務付けられています。健康上の問題でマスクをかけられない人や、その他特別な理由でかけられない人、家族など同居者同士の会合、外食などの場合も例外です。野外のテラスなどではソーシャルディスタンスを保っていれば着用しなくていいことになっていました。
問題は、レストラン、バル(飲み屋)のカウンターなどでの飲食、立ち飲みで、マスク無しでかなり接近しておしゃべりに夢中、全然守ってないです。食べたり、飲んだりするので当然マスクを外します。でもその後そのままでいます。頑固なマスク反対派もけっこういますし、野外のテーブルでもマスクしなくてもいいので距離のことも忘れています。警戒事態の最中、制限生活で規制を守らなかった場合の罰金の徴収額は相当なものだったようです。新しい日常になってもそれなりの罰金制度が続いていますが、あまり警官を見かけませんでした。コントロールしきれないですよね、問題でした。

b,mascarillanino.png新たな感染者がにわかに増えています。アンダルシアでも新たな日常になってから600人ぐらいになっています。一度下がった数字がまたちょっとずつ増えています。まだ重症者や死者はあまりないようですが、3月の初めに感染者が増え始めた頃の状態になっているようで怖いです。ただ感染者数は直ぐわかる抗体検査が主のようでPCR検査もやっていますが、アンダルシアの場合は直ぐに結果がわかる抗体検査で陽性で症状がでていない人も数に入れているということです。グラナダとマラガ、そしてアルメリアなどがアンダルシアの中でも数字が多いです。先日のニュースでグラナダの海岸地域のディスコで束になって騒ぐ若者集団の姿が報道されましたが、またまたグラナダで全く恥ずかしいことです。きっとディスコは沢山の罰金を取られていますね。大騒ぎが好きな若者たちにも困ったもので、他の都市でも多発しています。気の緩みというより、症状がすぐ出るわけでも全ての人に出るわけでもないところが自分は大丈夫的に軽く考えているのではないでしょうか、ああ~~、そしてとうとう先日(15日)からアンダルシアもマスク着用の完全義務化が決定されました。

b,mascarilla2.jpgとは言ってもマスク着用は前から義務化されているのに何でまた大声で発令しなおすのかとちょっと戸惑いましたが、要するに更に厳しくして再度徹底するということなのですね。室内、室外(野外のテラスも)全ての場所で例外者以外は1,5mのソーシャルディスタンスとマスク着用が義務で、守らないと100€の罰金と厳しく明言しています。アンダルシア政府の担当幹部は同居家族などでない場合の会食会合などでは、食べたり飲んだりする以外の時間もマスク着用することを推奨すると言っています。着用しなければいけないとは言っていませんので、そこまで義務化はしてないです。だからでしょうか、やっぱり飲んだり食べたりするためにマスクを外したら、そのままの人が多いので私は心配です。少なくとも人との間隔を考えたいですが、実際問題、距離間隔を保つのは難しいです。声の小さい私にとっては接近して話せないのは辛いです。マスク掛けていると言ってることが聞こえないとか言われてしまう時があって、いつも大声でハッキリ話さないとならないのでちょっと疲れます。マスクも、できたらフィルター付きの自分から人にも、人から自分にも感染を防げるタイプのもののがいいですが、今のところ普通のマスクで間に合わせていますから心配と言えば心配です。そういえば今月末から65歳以上の人に毎月3個のマスクが配給されることになったと報道されています。せめてご老人にだけでもと、もう随分前にアンダルシア州のモレーノ知事もテレビで言っていましたがまだ実現していませんでした。私も自分の保険カードでもらえることを薬局で確認、援助金などはちょっと無理そうなのでマスク3個でももらえるっていうことは嬉しいです。

b,fuente2.jpgマスク義務化で、罰金制度を徹底しなければ規則を守られない実態であることは遺憾ですが、これも仕方ないかもしれません。6月下旬には北のアラゴン州で農業従事者の新たな感染者300人が出て規制緩和のフェーズ②に後戻りした例もあります。引き続きアラゴン州、ここ数日はバルセローナなどのカタルーニャ州も集団的に感染が増えだしていて後戻りしています。グラナダも最近集団的に感染が出た郊外の地域があります。全国あちこちでクラスターが発生しているのです。油断はできません。いまでもウイルスは無くなったわけじゃない、この数字がまた急激に上がっていかないように努力しなくちゃならないです。場合によっては2回目の警戒事態もありうるわけで、それは絶対に避けないとならないです。

全く考えると不安、心配は収まりません。毎日ニュースを聞いていると落ち着かないです。それにしても夏は暑いです。人々は小さなバケーションでも実現したいところですが、とにかく仕事復活がうまくいかないケースも多いのでそれどころでなく穏やかではない人たちいっぱいいるでしょう。特に観光業に携わる人たちは国境封鎖が解けてもこの夏は例年の外国人観光客は望めないでしょう、死活問題です。徐々にスペインにやってくる飛行機は増えているようですが、実際のところは私もよくわかりません。せめてスペイン国内の観光客でもと、アンダルシア州ではAndalucía Segura(安全なアンダルシア)、Destino Andalucia(アンダルシアに向かって!)、Quédate en Andalucía (アンダルシアに留まろう!)Disfruta Andalucía(アンダルシアを楽しもう!)...一時は数々の文句でこの夏は素晴らしいアンダルシアに来てくださいとテレビで盛んに宣伝していました。

b,cueva.png友人知人でお土産品店をやっていたり、タブラオ、クエバ等のフラメンコショーを見せる商売の人がいっぱいいますが、お店は再開してもお客さんは少ないので本当に頭を抱えています。ただでも7月、8月は真夏で連日40度以上の暑さ、観光客は海岸の方に流れます。どちらかというと9月からのがフラメンコを見せるタブラオなどはシーズンになりますので本当に厳しいです。でもサクロモンテの洞窟フラメンコショーは営業再開しています。入場制限があるのでアーティストも減らすしかありませんが、出演者は頑張っています。こういう時だからこそ土地の人も「地元のフラメンコ」を見直してほしいものです。海は海で、海岸での整備補助員が増員されてそれなりの警戒態勢です。海の中に入っている時以外はマスク着用なので窮屈、のびのびできませんが、この夏は我慢するしか方法ありません。

ところで、警戒事態の間、国民へのあらゆる援助がありました。貧困者救済はこの危機で充実した結果を生み出したようです。その中の一つ、アンダルシアでも最低限必要な食料、衛生用品、生活必需品などを買うことができるタルヘタ・モネデーロTarjeta Monedero「おさいふカード」とでもいいましょうか、そういうのが与えられることになり、このカードでただで買い物できるのは嬉しいこと、コロナなどの影響で更に困っている人達、家族は申請できます。勿論使える額は決まっています。カードは実際使えたり使えないスーパーやレジなどがあって結構面倒らしいですが、そういうことは我慢するしかありませんね。これはクルス・ロハCruz Rojaが担当し運営しています。クルス・ロハCruz Roja(スペインの赤十字社)はNGO(非政府組織)に含まれ、スペインでも昔からおなじみでしたが、主に食料配給でコロナ危機では活躍しています。緊急事態時に限らず、貧困者への食料配給はいつでもあるのだと聞きました。コメドーレスComedores Sociales(写真)という場所は街でよく見かけますが食料の配給場所となっています。食料の配給ではその他フードバンクBanco de Alimento(バンコ・デ・アリメント)などが活躍していました。他にも非営利団体、民間援助団体などいろいろと地域ごとにあるということですが、そういうところで食料配給の手伝いしたりのボランティア活動をしている人達も沢山いるということです。彼らの自主的な活動には頭が下がります。

b,comida.jpgびっくりしたのは、フラメンコアーティストの関係でも積極的に困窮者等に食料等の配給をしているグループがあるというのです。マドリッドで始まり、グラナダにも広がりました。私も困っているなら対象者になれるかもしれないと優しい言葉をかけられました。皆が団結して繋がって助け合う、そういう暖かいシーンがあちこちでみられた今回のコロナ衛生危機です。社会で生きる私たちはいつでも、団結、連帯、相互扶助などの基本精神ソリダリダSolidalidadを忘れてはいけないと思いました。

コロナ衛生危機は今も世界で続いています。多くの犠牲者を出し、多くの人々に影響を及ぼしたパンデミック、スペインよりもっと悲惨な状況になってしまっている国もあって心が痛みます。普通の生活に戻ろうとすると第2波、第3波がやってくる。日常の衛生対策や密集を避けることなどをしっかりとっている限りはウイルスに一時の猛威を振るわれなくて済むと思いますが、ウイルスとの共存社会はこれからいつまで続くのかわからない。その中で生きていくことを余儀なくされてしまった私たち、新たな現実社会と果敢に闘っていくことが要求されるのですね。負けずに頑張るしかありませんが、早くワクチンができて欲しいものです。

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●今回は2回に分けてお伝えすることにしました。後半はタイトルを変えて近日アップしなおします。「スペインでコロナ危機に遭遇の巻④」お楽しみに!

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高橋英子 プロフィール

フラメンコ舞踊家。スペインに暮らしながら、現地での舞台活動を重ねてきた貴重な存在。81年渡西。83年、セビージャでセビジャーナスコンクールに入賞し話題を撒く。翌年、グラナダを代表する踊り手マリキージャのアカデミーに招かれてセビジャーナスのクラスを開講。以来グラナダに住み、フェスティバルやタブラオ、ペーニャ等に出演。リサイタルも度々開催している。98年にはスタジオ「ラ・カチューチャ」を開設した。一方日本では、ペヌルティモ・コンサートシリーズ、「きもったま鍋」シリーズなどを上演。フラメンコ舞踊独特のペソ(重さ)とコラヘ(怒り、内に秘めた激情)、そして粋なグラシア(愛嬌)に溢れたバイレは高い評価と人気を得ている。現在は日本でも常設クラスを開講し、日西を行き来しながら精力的に活動を続けている。
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