高橋英子のスペイン、グラナダ、きもったま

やっぱり凄い!ビエナル、キンセーナ...本場のフラメンコ


セビージャの留学生活ではフラメンコレッスンや語学学校、アンヘル君他の友人たちと
付き合う傍ら、何かフラメンコの公演とかイベントとかがあるといそいそ出かけました。
先ずは本場のフラメンコを「観る」こと、そして「知る」ことが肝心でした。
中でも定期的に開催される大きなフラメンコフェスティバルはとっても楽しみでした。

今も世界最大のフラメンコフェスティバルとして健在のビエナル・デ・アルテ・フラメンコBienal
de Arte Flamencoは私がセビージャ入りした前の年、1980年に始まりました。2年ごと(bienal)
にあるこの催し物、第1回はカンテ(唄)、次がバイレ(踊)、その次がギターに捧げるといった具合に
なっていて、厳選されたアーティストによるコンクール(ヒラルディージョ賞)もありました。
第1回のカンテの年はカリスト・サンチェスがヒラルディージョを受賞しました。
出場者はスペインのペーニャから選ばれた6人のすでに一流の唄い手でしたが、そのうちの1人が
辞退したので次点だったカリストが出場することになり、なんと賞を獲得してしまったということ
です。アントニオ・マイレーナの生地、マイレーナ・デ・アルコール出身で、学校の先生だったと
聞きました。カリストはこのコンクールのために練習に練習を重ねて臨んだと自らを振り返って
いました。私は81年秋にアルカサール(王宮)での催し物でカリストの美声に魅了されました。
まさに正統派のきちっとしたカンテ、伸び伸びとした歌唱力で凛々しく、その透き通った声で
感情込めて唄います。私はカリストのグラナイーナやティエントなどが好きで、彼の唄う歌詞を
勉強したりしたものでした。
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82年はバイレの年でマリオ・マジャがヒラルディージョを受賞しました。(下の写真)
この時のビエナルは凄かったのです。コンクール出場者はぺパ・モンテス、アンヘリータ・
バルガス、フォアン・ラミレス、そしてマリオという全くタイプの違う個性的なメンバーでした。
この時アンへリータは確か、グアヒーラを踊ったんです。頭に何か飾りターバンみたいなもの
巻き付けていたかな?とにかく想定外だったんで微笑ましかったです。盛り上がりました。
アトラクションでは、セビージャバイレフラメンコ界のマエストロ(大御所)エンリケ・エル・コホ、
マティルデ・コラール、ラファエル・エル・ネグロ(マティルデの夫)、そしてファルーコという
そうそうたるアーティストが出演しました。その時の映像をご覧ください。
フィエスタでマティルデがタンギージョ・デ・カディスを踊っています。マティルデの身のこなし
足さばき、とってもフラメンカでいいですよ。歌っているのはチャノ・ロバート!
しだいにファルーコもエンリケ先生も仲間入り。楽しいですよ!
mario.png

他にも「フラメンコとアンダルシア音楽の15日間」キンセーナ・デ・フラメンコ・イ・ムシカ・
アンダルッサQuincena de Flamenco y Musica Andaluzaという催し物がありました。
アンダルシアの貴重な音楽財産を守り続ける人々が、アンダルシアの西から東から
やってきたのです。カディスのチリゴタChirigotas、グラナダ、アルメリアなどの地方に
昔からあるトゥロボTrovoなどの私たちには珍しい歌なども含めた多彩なプログラムは
とても興味深いものがありました。フラメンコだけでなく、アンダルシアには何世紀も前から
今も引き継がれている唄や踊りがあることを知り、それはそれは感激の到りでした。
その時は、ただただ圧倒されるばかりでしたが、後になって、フラメンコが歌われはじめ、
広くアンダルシアに浸透していった歴史や、それ以前のアンダルシアにあった音楽、踊りって
いったいどんなだったのか?などということに興味も湧いてきたりしました。
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あれこれフェスティバルを見に行って、幅広いフラメンコの世界を知りました。
また、フラメンコの表現スタイルもいろいろとバリエーションがあり、退屈させないのでした。
ブレリア、タンゴなどを歌って踊るフェステーロ、ルンバグループ、歌ったり踊ったりを
順々に見せるヒターノのファミリー、詩を朗読するレシタドール......ピアノフラメンコも
あの時代からありました。中でもフェステーロの出し物でコミカルに笑いを誘う語り調のブレリア、
「エル・ボンベーロ」El Bombero消防士(ナノ・デ・へレス)などはとっても面白いです。こんなのもあるんだなぁと感激でした。
フェスティバルのプログラムにはアカデミアの先生集合、名門ファミリー勢ぞろいや、
大御所のアーティスト共演もあったりと、実に様々な出し物が楽しめました。

とにかくスペインに行ったばかりでしたから、いろんなフラメンコ、アンダルシア音楽に
生で接することができて幸せでした。また、「フラメンコとはこういうものなんだよ!」と
教えてくれているようで、嬉しかったのです。舞台に満ち満ちたアーティスト達のエネルギー、
凄いパワーに呑みこまれてしまい、何を見ても感動していました。
まだ観る目も聴く耳も肥えてなかったので、実際のところわからないことが多かったのですが、
回を重ねて観ているうちに分かってくることもあり、やはり数多くの公演やアーティストの
演技を何回も観ることは大切だと思ったりしました。
82eiko.png

こうやって本場のフラメンコが身体にグイって刺さって、ニョロニョロって入って来ました。
そして、じわじわっと時間を掛けて留まっていったのです。セビージャの生活では、
自然にスペインに慣れることから始まりましたので、あれこれフラメンコ以外にも
勉強しなくっちゃならないことがあり、フラメンコ以外の友だち付き合いもあり、けっこう
忙しかったのです。でもこうやってフラメンコに接している時間は一番有意義でしたから、
大切にしながらフラメンコを少しずつ吸収していったという感じでした。

                                       (続く)

*****   *****   *****   *****   *****  *****

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高橋英子 プロフィール

フラメンコ舞踊家。スペインに暮らしながら、現地での舞台活動を重ねてきた貴重な存在。81年渡西。83年、セビージャでセビジャーナスコンクールに入賞し話題を撒く。翌年、グラナダを代表する踊り手マリキージャのアカデミーに招かれてセビジャーナスのクラスを開講。以来グラナダに住み、フェスティバルやタブラオ、ペーニャ等に出演。リサイタルも度々開催している。98年にはスタジオ「ラ・カチューチャ」を開設した。一方日本では、ペヌルティモ・コンサートシリーズ、「きもったま鍋」シリーズなどを上演。フラメンコ舞踊独特のペソ(重さ)とコラヘ(怒り、内に秘めた激情)、そして粋なグラシア(愛嬌)に溢れたバイレは高い評価と人気を得ている。現在は日本でも常設クラスを開講し、日西を行き来しながら精力的に活動を続けている。
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